[3736] 情けない 9 投稿者:飯田 投稿日:2005/11/09(Wed) 08:54
その夜も、一緒にお風呂に入れと強要する。
その後また妻を抱こうとしたが、ただ涙を流しているだけで、昨夜のような抵抗はない。
しかし結局は、妻に惨めな思いをさせ、私も惨めな思いをしただけに終わる。
「恵は俺に対して、何をしたのか分かっているのか?これでも悔しい思いを抑えて、
可也譲歩したのだぞ。あの条件が飲め無いのなら、とにかく俺との事がはっきりとす
るまでは、奴とは絶対に会うな。それがケジメだ。」
「・・・・・・はい」
妻は黙って、私が軟化するのを待っていたが、一週間もすると急に焦りだした。
「何を焦っている?21年間も一緒にいて、急に別れてくれと言われても、すぐに結
論なんか出せない」
「分かっています。でも・・・・・」
妻は約束を守って逢ってはいなかったが、時々電話で様子を聞いていた。
奴がたまたま留守で下の娘が出た時に、姉がご飯を作ってくれていると聞く。
出て行ってから初めて、母親が来た事も。
上の娘に代わってもらうと、奴は書斎にしている部屋にこもってしまい、周りが何も
目に入らない時があると言う。
出て行った母親は、時々娘達に電話を掛けてきていたが、娘達の世話を何もしないで、
書く事に没頭してしまう事は、口止めされていて話していなかった。
仕事も、塾の講師をしている事になっていたらしい。
しかし、下の娘が全て話してしまった。
当然、私の妻の存在も。
おそらく、妻との事が思い通りに運ばずにイライラしていたのか、父親の様子が変だ
と感じ、不安になって、母親に助けを求めたかったのかも知れない。
母親が来たのは、その後だった。
娘達は母親が来た訳を知らず、気になった妻は、すぐに奴の携帯に電話して聞くと、
約束が違うので娘達を引き取りたいと言って来たと知る。
夫婦や家族の約束を破って不倫した女が、約束を破ったと言って来る神経が、私には
理解出来ないが。
奴も奴で、夏休みが始まるまでに改善出来なければ、娘達を渡すとその場凌ぎの約束
をしたらしい。
今は別れて1人らしいが、一度は子供を捨てて男に走った母親。
普段は優しくても、没頭すると娘達の存在を忘れてしまう父親。
どちらと暮らしても、あの子達には可哀想な気もする。
夏休みまでは、あと1週間。
妻の焦りが、手に取るように分かる。
「自分達の事しか考えられないのか?俺が何か悪い事をしたか?どうして俺が、お前
達の都合に合わせなければならない」
「ごめんなさい。あなたには、本当に申し訳ないと思っています。こんな酷い女はい
ないと自分でも思います。でも自分を自分で抑えられないの。たぶんあなたと別れた
ら、私は幸せにはなれない。いえ、幸せになんかなってはいけない。そう分かってい
ても・・・・・。あなたは強い男です。彼と違って強い人間です。私は彼を放ってお
けない・・・・・」
私は決して強い男などではない。
強い男になりたいと思って生きてきただけ。
今までずっと、強い男を演じてきただけ。
私は奴よりも、弱い人間に違いない。
妻に裏切られても、奴のようには離婚に踏み切れないでいるのだから。
他の男に抱かれた妻を、許そうとしている弱い男。
それどころか、逆にこんな事は許して欲しいとさえ思っている。
情けない。
濡れ場の多い作品は結局、表現が出尽くしちゃっているのでもうマンネリぎみ。中身ペラペラ。
こーゆー筋のある作品は期待します。