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北原夏美 四十路 初裏無修正

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WR 1/9(火) 17:56:17 No.20070109175617

かなり遠い昔になりますが、性に目覚め自慰を覚えたころの対象となる女性は10代後半のアイドル、またはせいぜい二十歳そこそこの女優で、20代半ば過ぎになると正直に言って「おばさん」という印象でした。

まして自分の母親の年代とも言うべき40代の女性となるととてもそのような欲望の対象とはなりえず、またそういう年齢の女性がセックスをするということが現実のものとしてなかなか信じられませんでした。

しかし世の中というものはよくしたもので、男が年を取ってくるとそれなりに自分とつりあった 年齢の女性に対しても欲望を感じるようになります(一部、若い女でないとだめという男はいるでしょうが)。私もまもなく50に手が届く年齢になりましたが、学生時代から付き合い初めて就職して2年目で結婚した今年銀婚式を迎える妻に対していまだに性欲を感じるのです。

夫の贔屓目がかなり入っていますが、妻の香澄は名取裕子に似たはっきりとした顔立ちの美人で、身体は彼女をかなり豊満にした感じです。名取裕子は今年50歳だそうですが、今でも相当の艶がある美女だと思います。妻は学生時代はガリガリに痩せており、その大人っぽい顔立ちもあって実年齢よりも上に見られることが多かったのですが、結婚して2年目で最初の子供を生んでからはふっくらとした身体つきになり、かえって若々しくなりました。

そういえば昔に比べて女性が若々しくなったように思えます。名取裕子や、今年48歳を迎える熟年女優、片平なぎさがいまだに「2時間ドラマの女王」として艶麗な姿を誇っているのはそのためでしょう。化粧やエステにふんだんなお金をかけることができる女優だけでなく、普通の主婦でも実際の年齢を聞けば驚くほど若々しい容貌を保っている人が多いようです。

しかし、それでも二十歳そこそこの男が自分の母親のような年齢の女に性的な興味を持つというのは私には実感として信じられないことでした。前置きが長くなりましたが、この話は私たち夫婦に起きたそんな体験を基にしたものです。
WR 1/9(火) 17:57:16 No.20070109175716

後に私の妻となる香澄と交際を始めたのは高校1年の時に、ブラスバンド部で同じフルートパートに所属したことがきっかけです。音楽好きの私は何か一つ楽器をものにしたいという気持ちがあり、ブラスバンド部に入ったのです。楽器は何でも良かったのですが、たまたま3年が引退することによってひとりきりになるフルートパートを補充する必要があるということで、そこに所属させられたのです。一緒に入った友人は男っぽい金管楽器やサックスを選び、フルートでも良いといったのが私だけだったせいもあります。

私自身は楽器は未経験でしたが、香澄は中学時代にもブラスバンド部に所属していたためフルートは相当吹けるだけでなく、子供のころから続けていたピアノもかなりの腕前でした。フルートパートは人数不足だったため、私も入部して数ヶ月もしないうちに高校野球の応援などで吹かされましたが、テンポが速くなるとまったく指が回らず、音を出すふりをして誤魔化すのが精一杯でした。香澄が装飾音の多いフレーズをやすやすと吹きこなすのを見て私はひどく劣等感に駆られました。

今思うと3年の経験差があるのですから当たり前ですが、その頃は女である香澄に引けを取るというのが我慢できなかったのです。香澄はそんな私に対して優越感を示すでもなく、また同情して教えようともせず、常に淡々としていました。

私は朝早く来ては部室の裏の非常階段で延々とロングトーンを繰り返し、昼休みも音階やアルペジオといった基礎練習に費やしました。私は楽器の経験はなかったものの耳学問は達者だったため、そういった地味な練習が結局は上達の早道だと考えていたのです。

数ヶ月の間は苦労の日々が続きましたが、ある時、それまでの基礎練習の効果がようやく現れ出しました。毎日のロングトーンで鍛えられた音色は、自分が吹いていると信じられないほど澄んでおり、地道な音階練習によって鍛えられた指が急に回るようになったのです。

同学年の友人や先輩も、私の突然の上達を驚きの目で見ました。たいていの部員は面白みのない基礎練習を嫌い、演奏会でやる曲の練習ばかりしていたからです。

香澄は私から少し離れた場所に立ち、相変わらず冷静な視線を向けていました。私の上達について香澄が何も言わないのがなんとなく不満でした。

しかし香澄の態度が変わってきたのはその後の、秋の文化祭に向けた練習の時です。香澄はそれまでひたすら譜面と向き合って、自分のパートを正確に吹くことに集中していたのですが、あたかも私に寄り添うような演奏をするようになったのです。

フレーズの開始と終了、2つのフルートが織り成す和音とユニゾン、私は自然と香澄に導かれるように吹き、楽器を通じて香澄と会話をするような気分になっていました。これはこれまでの私では経験できなかったことでした。

秋の文化祭では私なりに満足できる演奏ができましたし、香澄もそれは感じているようでした。かといって私と香澄は実際にはほとんど会話を交わすことはありませんでした。季節は流れて年が変わり、冬休み明けの始業式の日、私は廊下で香澄に呼び止められました。

「渡辺さん」

この時の香澄の思いつめたような表情を今でも思い出します。私は気圧されるようなものを感じながら「何?」と返事をします。

「ちょっと話があるの」
「ここじゃ駄目?」

香澄はこくりと頷きます。私は「それじゃあ、後で部室の裏で」と答えます。香澄は再びこくりと頷きました。

始業式の日は授業もないため、教室で簡単な連絡事項が終わったら解放されます。私は香澄と約束した部室の裏の非常階段へ急ぎました。香澄はぼんやりとグラウンドを眺めていました。

「村岡(妻の旧姓)さん」

私に気づいていなかった香澄ははっとした表情を向けます。その切れ長の目が光っているのに私は気づきました。

「ああ……ごめんなさい。ぼんやりしていて」

香澄はそういいながら目元に手をやります。

(泣いていた?)

私は香澄の様子がおかしいことに動揺しましたが、わざと平気を装って尋ねます。

「用って何」
「あ……」

香澄は初めて呼び出した用件を思い出したように私を見ます。

WR 1/9(火) 17:58:15 No.20070109175815

「渡辺さん、私、転校しなければいけなくなったの」
「転校?」

思いがけない香澄の言葉に私は驚きました。

「いつ?」
「父の転勤で2年からは新しい学校に……」

私と香澄の通う学校は公立ですが地域では一応名の通った進学校で、学区外から越境通学をしてくるものもあるほどです。したがってよほどのことがない限り転校するものはありません。

「転勤って、どこへ?」
「I県に……」

香澄が口にしたのは北陸のある県でした。私たちが通う横浜の学校からは相当の距離があります。

「そうか……」

私は間の抜けた返事をします。

「クラブ、続けられないね」
「うん……」

香澄はまた頷きますが、なぜか私とは目を合わせません。

「みんなに言う前に、渡辺さんに伝えたかったの」
「そうか……」

今度は私が頷きました。

「クラブは3月いっぱい続けるよ。来週からまた練習だね」

香澄は笑顔を見せ、「それじゃ」と言って帰っていきました。私は香澄を見送ると、私が来たときに香澄がそうしていたようにぼんやりとグラウンドを眺めました。

(香澄がいなくなる……)

私は突然胸が締め付けられるような思いがしました。

私が友人と遊ぶ時間も惜しんでフルートの練習に打ち込んだのは、当初は楽器を一つ自分のものにしたかったからでしたが、次第に香澄に認められたいという思いからそうしていたのだということがわかりました。香澄がいつしか私に寄り添ってくるような演奏をするようになったとき、私の心の中になんともいえぬ幸福感が生まれていたのです。

ほとんど言葉を交わしませんでしたが、毎日の練習で私と香澄は確かに気持ちを伝え合っていました。ここはもっと早く、もっと強く、もっと優しく、歌うように……私は香澄のフルートの音色の中に香澄の声を聞いていたのです。私自身も自分の思いを演奏に込めていました。香澄と一緒にいられて嬉しい、もっと一緒にいたい、ずっと一緒にいたい……。

私は非常階段を一段抜きで駆け下りました。校門を出たところで、ずっと前のほうで一人で歩いている香澄の姿が見えました。

「村岡さん」

私が呼ぶと、香澄が驚いたような顔をして振り返りました。私は香澄に向かって駆け寄ります。

「忘れてた……僕からも話があったんだ」

香澄は私の顔を見ながら首を傾げます。

「時間はある?」

香澄はこっくりと頷きました。とっさのことなので私はどこへ行こうかまったく考えていません。そんな私に香澄が声をかけます。

「港の見える丘公園に行かない?」
「そう……そうだね」

私は頷くと、駅に向かって歩き出します。香澄は特に小柄というわけではありませんが、180センチを超える私とはかなり身長差があります。大きな歩幅で歩く私に香澄は懸命に着いてきました。
WR 1/9(火) 17:59:11 No.20070109175911

香澄との馴れ初めの話が思ったよりも長くなりました。結論から言うと私と香澄はその後いわゆる「遠距離恋愛」を続け、お互いに大学を卒業し、就職してから2年目の秋に結婚しました。私が24歳、香澄が23歳でした。

甘い新婚気分に浸る間は短く、翌年に長男が、そのまた翌年に次男が生まれます。妻は2人の子育てに追われ、私は私で商社マンとして忙しい日々を送ります。

転勤の多い生活の中で子供を育てていきながら妻がずっと続けていたのがフルートでした。下の子が小学校に入学した頃から本格的に再開し、地域のオーケストラに参加したり、ボランティアで室内楽の演奏会に出るようになりました。レッスンもずっと続けて受けており、次男が大学に入った頃にはある大手の音楽スクールの講師の仕事を始めるまでになりました。

昨年の3月には次男の就職が決まり、入社前研修のため会社の寮に入ったことから、自宅は私と妻の二人暮らしになりました。2人の息子を大学を卒業させ、私はようやく親としての勤めを果たしたという満足感を味わっていましたが、妻はむしろと子供が巣立ったことによる寂しさを感じているようでした。

私は5年前に商社はやめており、取引先の社長にスカウトされてある通信販売会社の役員になっていました。仕事の責任は重いですが、商社マン時代ほどの激烈な忙しさはありません。また、基本的に転勤はありませんし比較的時間も自由に使えます。

「5月の連休に2人で温泉にでも行くか」
「いいわね」

私は寂しげな妻を気遣って提案します。妻は微笑して頷きますが、やはりあまり元気はなさそうです。

「あなた、お願いがあるんですが……」

妻が遠慮がちに口を開きました。

「なんだい」
「今講師をやっている教室の生徒さんに、自宅でレッスンをしたいんです」
「自宅で?」

私は意外な申し出に聞き返します。

「子供たちも家を出ましたし、あなたにも迷惑をかけませんから……」
「僕は迷惑なんて思わないが、スクールのほうはそれでかまわないの?」
「はい、お金はいただくつもりはありませんし、来ていただく方もスクールのほうも続けることになっています」
「何人なの?」
「2人です。男の子と女の子。同じ大学のオーケストラで吹いているんですが、私の生徒の中では一番熱心なんです。もう2年も続けています」
「そうか……」

私は少し考えます。

「近所迷惑にならないかな?」
「私もレッスンをするのでリビングには防音処理がされていますから……回数も週一回だけですので」
「お隣とお向かいには事前にきちんと挨拶しておけよ」
「じゃあ、いいんですね?」
「香澄はやりたいんだろう。かまわないよ」

妻は嬉しそうに頷きました。

自宅で自分の息子や娘のような生徒にレッスンをすることで、2人の息子が手を離れたことによる妻の寂しさが紛れるのなら良いことだと私は思いました。そのことが後に大変な事態を招くことになるのですが。


自宅のレッスンは順調にいっているようで、妻はレッスン日である金曜日が近づくとそわそわとし、生徒をもてなすためにおいしい紅茶を買ったりケーキを買ったりしています。社会人になった息子たちは自分のことで精一杯なのか、ほとんど家に寄り付きません。思ったとおり2人の教え子が妻にとってすっかり息子たちの代わりになっているようでした。

一方、ゴールデンウィークに予定していた妻との温泉旅行ですが、思いがけない事態から行けなくなってしまいました。社長が持病のヘルニアを再発させ、緊急入院したことから私が一時的に社長代行をせざるを得なくなったのです。

「申し訳ない。楽しみにしていたのに」

私は妻に謝ります。

WR 1/9(火) 18:00:06 No.20070109180006

「責任のある仕事についているんですから、しょうがないですわ。今ならキャンセル料もほとんどかかりませんし……」
「しかし残念だな……なかなか取れない宿なんだが」
「それはそうですね」

妻も残念そうです。私たちが行くはずだった宿は人気があり、ゴールデンウィークなどは半年前から予約で一杯になります。3月の申し込みで取ることができたのはたまたまキャンセルが出たためであり、その時は宝くじが当たったような幸運に感謝したものです。

「友達と一緒に行ってきたらどうだ?」
「そんな……あなたがお仕事なのに悪いですわ。それに今頃はみんな連休の予定は埋まっているでしょう」
「まあ、キャンセルするにもまだ少し余裕がある。一応あたってみろよ」
「そうですね……わかりました」

妻は微笑します。それから2日後の、自宅レッスンがあった日の夜に妻が食事を取っている私に話しかけます。

「あなた、例の温泉の件なんですが」
「うん? 行く相手が決まったか?」
「自宅でレッスンをしている生徒さんと行ってきては駄目ですか?」
「え?」

私は箸を置いて妻の顔を見ました。

「あれから佐和子や美奈子に聞いてみたんですが、やはりもう予定が入っていて、今からでは無理だと……それで、今日たまたまレッスンの後で連休の話になり、その話をしたら生徒さんがぜひ行きたいって……」

佐和子さんや美奈子さんというのは学生時代からの妻の友人です。

「生徒は男の子一人と女の子一人って言ったな」
「はい」
「その二人、恋人同士じゃないのか?」
「まあ……」

妻はコロコロと笑い出します。

「あの二人はそんなのじゃありませんわ。ただの友達同士みたいです。それに久美さんには別に彼がいるらしいです」
「久美さんっていうのが生徒さんの名前か?」
「あら、言っていませんでしたっけ? 村瀬真一君と兵頭久美さん、どちらもR大の学生さんです」
「R大か……ずいぶん遠くから通っているんだな」

R大は東京のターミナル駅近くにあるミッション系の大学です。

「実家がこちらにあるから週末には帰っているみたいです。だからレッスンも金曜日の午後が良いようです」
「それにしても……」

私は少し釈然としませんでしたが、それは若い男女が旅行するのに40代半ば過ぎの妻が着いていくという構図が不自然に思えたのか、恋人同士でもない男女が週一回、スクールでのレッスンも含むと2回も行動をともにしているということが不思議に思えたのか、自分でも良くわかりませんでした。

しかし私にも経験がありますが、音楽好きの人間というのは不思議な情熱があるもので、他の人から見れば不自然なことも結構平気で行います。私はそのときに感じた違和感をさほど追求することもありませんでした。

「親御さんがいいといっているのならいいんじゃないか」
「ありがとうございます。2人も、親の了解を取ってくると言っていました」
「なんだ、香澄はもう決めているんじゃないか」

私は思わず苦笑します。

「そういうわけじゃありませんが……すみません」

妻は少し顔を赤くしてうつむきます。

「いや、皮肉で言ったんじゃない。年下の人間と旅をするのもたまにはいいことだ。少し、若いエネルギーを分けてもらって来たらどうだ」
「まあ、それはやっぱり皮肉ですわね」

妻が再びコロコロと笑い、この話は終わりになりました。

WR 1/10(水) 18:33:29 No.20070110183329

妻が2人の生徒と一緒に旅行に出かけるのは5月3日から5日までの2泊3日です。旅行の前日である2日の火曜日の夜に私が帰宅したら、妻の生徒である村瀬真一という青年と、兵頭久美という娘が妻と一緒に待っていました。出発前にぜひ私に一度ご挨拶をしたいということでした。

「このたびは渡辺先生にお世話になります。それと、宿泊料のこと、ありがとうございました。ご主人にぜひご挨拶とお礼がしたくて伺いました」

2人が声を合わせて挨拶します。2人ともいかにもR大の学生らしい、良家の子女といったタイプです。村瀬という青年はひょろりと背が高く、黒縁の眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気で、久美という娘はさほど長身ではない妻よりも小柄で、人形のような顔立ちをしています。

「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。しかし、若い人2人の旅におばさん一人が同行じゃ、お邪魔じゃないのかな」
「渡辺先生はおばさんなんかじゃありません。素敵な女性だと思います」

村瀬が真剣な表情でそう言ったので、私は少し驚きました。

「そうかい? ありがとう。古女房を褒められるのは悪い気分じゃない」

私が冗談めかして答えると、村瀬は黙って顔を伏せました。

「村瀬君ったら、渡辺先生の熱狂的なファンなんです」

久美が悪戯っぽい笑みを浮かべながら少し大きな声で口を挟みます。

「だから、今度の旅行はすごく楽しみみたいで……私、お邪魔じゃないかと心配しているんですよ」
「久美さんったら、こんなおばさんをからかうもんじゃないわ」

妻は顔を赤くして久美をたしなめますが、まんざら悪い気分でもないようです。

「だけど、私もそう思いますわ。渡辺先生って女優の、なんていったかしら……そう、名取裕子にそっくりでとても綺麗です。村瀬君が夢中になるのも無理はないと思うわ」
「名取裕子か。お世辞でも嬉しいね。それじゃあ香澄が行く温泉では殺人事件でもおきそうだな」
「ご主人、それは名取裕子じゃなくて片平なぎさです」

久美が笑いながら訂正します。

「でも殺人事件はともかく、何か事件が起こるかもしれないわね……村瀬君と渡辺先生との間で」
「久美さん、いい加減にしなさい」

さすがに妻は久美を強くたしなめます。

「ごめんなさい……でもご主人、安心して。私がしっかり見張っていますわ。村瀬君が湯上りの先生の色香に迷って悪さをしないように」
「ほんとにもう、久美さんったら、冗談が過ぎますわ」

久美という娘は見かけによらずかなり奔放な性格のようです。村瀬はじっと黙って、時折ちらちらと妻の方を眺めています。

「あまりご主人を心配させてはいけないわね。それじゃあ、これで私たち失礼します。村瀬君、帰るわよ」
「あ、ああ……」

最後に2人は私と妻にぺこりと頭を下げます。

「遅いから、駅まで車で送るわ」
「あら、ご主人が帰ってきているのに悪いです。歩いていきますわ」
「そんなことを言わないで……何かあったら親御さんに申し訳が立たないわ。あなた、少し待っていてください」
「ああ、行っておいで」

妻は車に2人を乗せると、駅に向かって走らせます。私が風呂に入り、ちょうど出た頃に妻が帰ってきました。

「すみませんでした。すぐ夕食の用意をしますわ。しばらくこれでビールを飲んでいてください」

妻がいくつかの小鉢につまみを出し、グラスにビールを注ぐとキッチンに向かいます。
WR 1/10(水) 18:34:56 No.20070110183456

「あの村瀬って学生、香澄の大ファンなんだって?」
「まあ……」

妻はおかしそうにわらいます。

「あれは久美さんの冗談ですわ」
「そうかな」

私はグラスのビールを半分ほど呑みます。

「……名取裕子か。そういわれて見れば確かに香澄に似てるな。名取裕子なら若い男にもファンがいそうじゃないか」
「あなたまでが何を言うんですか。村瀬君は栄治よりも年下なんですよ。母親みたいな年齢の女を好きになるわけないじゃないですか」

栄治というのは今年就職した私たちの次男です。

「あの2人、幾つって言ったっけ?」
「村瀬君が一浪しているから今年22歳、久美さんは今年21歳になるはずです」

香澄は47歳ですから、村瀬とは二周り以上年の差があります。

「そうだな……すると栄治よりも一つ下か。確かに母親の年代だな」

私には、自分の母親を連想させる年齢の相手を女としてみることはないという先入観がありました。村瀬が妻に対して抱いていたものも母親に対するものと同じような一種の憧れであり、妻を恋愛や、ましてセックスの対象としてみているのではないと私は思い込んでいました。

村瀬の話はそれで終わり、翌日、妻は予定通り旅立っていきました。社長代行を務めなければならない私はゴールデンウィークにもかかわらず私は休日出勤を強いられましたが、夜はそれほど遅くはありません。私はなんとなく妻のことが気になって早めに家に帰りましたが、それでも帰宅時には時計は既に9時を過ぎていました。

私が予約した伊豆の温泉旅館の部屋は二間続きの和室で、露天風呂までついたかなり高級なものです。もちろん一室しかとっていませんでしたので、妻が久美さんと同じ部屋に寝て、村瀬はもう一つの部屋に寝るということでした。それはもちろん久美さんの親御さんに対する当然の配慮です。

(そろそろメールの一本くらいあっても良い筈だが……村瀬や久美さんの家への連絡で手一杯なのかな)

二十歳過ぎているとは言えいまだ学生の若い男女を妻が「引率して」いるのです。間違いがあってはなりません。

それにしても誰もいない家というのはなんとも寂しいものです。私が帰宅した時に妻が家を空けていることが今までなかった訳ではなく、さらに息子たち子供も留守にしていることはありましたが、子供が巣立ち夫婦2人だけの所帯になると、2人のうち1人がいないというのは大きいです。

私は風呂に入り、パジャマに着替えると冷蔵庫から缶ビールを取り出します。不在の間は外食で済ますと伝えて置いたのですが、妻は私の好きなつまみを何品か作り置いているようで、ラップのかけられた小鉢がいくつか冷蔵庫に入っています。私はそのうち一つを取り出すと缶ビールの蓋を開け、飲み始めました。

(それにしても……)

ビールを飲み終えた私は日本酒に移ります。いつの間にか時計の針は10時を回っていました。妻はこれまで家を空ける時には私が煩わしく思うほど頻繁に連絡をしてくるのが常でした。今回に限って連絡がないというのはどうしてでしょうか。私はふと昨日の村瀬の真剣な表情が頭に蘇りました。

(渡辺先生はおばさんなんかじゃありません。素敵な女性だと思います)

私は説明の出来ない不安に駆られ、妻の携帯を呼び出しました。

(出ない……)

コールが繰り返されますが応答がありません。10回近くコールした後にようやく妻が電話に出ました。

(はい……)
「俺だ」
(ああ……あなた……)
「あなたって……着信画面に俺の名前が出るだろう」

WR 1/10(水) 18:35:59 No.20070110183559

(ごめんなさい……慌てて取ったもので……)
「妙に息が荒いが、どうかしたのか」
(ああ……く、久美さんと露天風呂に入っていて、今上がったところなんです。電話が鳴っているのが聞こえたから、画面もみないで取ってしまって……)
「そうか」

すると妻と久美さんは裸ということか、と私は生々しい想像をしました。

「まあいい、そちらは何か変わったことはないか」
(いえ……あ、ありません)
「人様の家の大事なお子さんを預かっているんだ。事故がないように注意するんだぞ」
(わかっていますわ……あ……)

妻が電話の向こうで誰かと小声で話す気配がありました。

「どうした?」
(久美さんが……あなたとお話がしたいって……)
「え?」
(い、今、代わりますわ)

妻は私の返事も聞かずに電話を代わりました。いきなり久美さんの明るい声が飛び込んできました。

(おじさま、久美です)
「ああ……」
(渡辺先生……いえ、奥様をお借りしてごめんなさい)
「いや……君達こそ家内に付き合ってくれてありがとう」
(奥様がお留守だと家でお一人なんでしょう? お寂しいんじゃないですか)
「そんな年じゃないよ」
(奥様はしっかり私がお守りして、無事にお返ししますからご安心なさってください。それじゃあ、お休みなさい)
「あ、ああ、お休み……」

私の返事が終わるや否や電話は切れました。

(なんだか賑やかな子だな)

携帯を置いた私は首を捻ります。私は盃に残った酒を飲み干し、もう一杯注ぎます。

(香澄もたまには羽目を外すと良い気分転換になるだろう。子供たちが家を出てから沈んでいたからな)

私はそんなことを考えながら2杯目の酒に口をつけました。伊豆の旅館でどのような光景が繰り広げられているかをその時私が知っていたら、そんな暢気なことは決して考えなかったでしょう。


妻は予定どおり5日の夜に帰って来ました。意外なことに村瀬と久美さんが一緒でした。

妻はぐったりした様子で、村瀬に抱えられるようにしているので私は驚きました。

「どうした、香澄」
「あなた……」

妻はぼんやりした表情を私に向け、すぐに顔を伏せます。

「ごめんなさい、ご主人。私達が色々引っ張り回したせいで、渡辺先生、すっかり疲れてしまったようなんです」

久美が深々と頭を下げます。それを見た村瀬も慌てたように頭を下げました。

「そうなのか」
「はい……すみません」

久美が再び頭を下げます。

「いや、久美さんは良いんです。香澄に聞いているんだ」
「……いえ、私の方が年も考えずにはしゃいでしまって……すみませんでした」

妻は荒い息をはきながらそう言うと再び顔を伏せました。

「香澄が2人に送ってもらうなんて、立場が逆だろう」
「ご主人。私達が悪いんです。奥様をしからないでください」

久美が手を振ります。

WR 1/11(木) 18:08:56 No.20070111180856

「こういうことは年長者の責任です。どちらにしても妻がお世話になりました。遠いところをわざわざありがとう」
「いえ、伊豆からでしたら私達も通り道ですから。これから東京に戻ります」
「遅くなったんで駅まで車で送りましょう」
「いいんです。タクシーを待たせていますから。本当にすみませんでした、それと有り難うございました。今回の旅行、とっても楽しかったです」

久美はそこで村瀬と顔を見合わせ、微かに意味ありげな笑いを浮かべました。

「それじゃあ、失礼します」

2人は声をそろえて挨拶すると帰って行きました。その時の私は「今時の子にしては礼儀正しいな」といった程度にしか考えていませんでした。

2人を見送った後振り返ると妻の姿はありません。私は妻の名を呼びました。

「香澄」

廊下をダイニングの方に向かうと浴室からシャワーの音がします。

(風呂に入っているのか)

私は「香澄、入るぞ」と声をかけ、脱衣所の扉を開けました。

浴室の中からシャワーの音に混じって妻の泣き声が聞こえるような気がしました。

「香澄、どうした」
「あなた……」
「泣いているのか」
「ま、まさか……そんなことはありませんわ」
「せっかく2人に送ってもらったのに見送りもしないで、どうしたんだ。香澄らしくないな」
「……ごめんなさい」
「俺に謝ってもらっても仕方がないが……」

私はそう言いながらふと脱衣籠に目を向けました。底には私が見たこともないような真っ赤なパンティが脱ぎ捨てられていました。

(香澄はこんな派手な下着を持っていただろうか……)

真面目な性格の妻は下着も地味なものが多く、色も白かベージュがほとんどです。時々私がもっと派手なものを履いてくれと頼んでも、笑いながら聞き流されてしまいます。私は首を捻りながら脱衣所を出るとリビングに向かいました。

しばらく待っているとパジャマに着替えた妻が入ってきました。

「あなた……申し訳ございませんでした」
「さっきも言ったが俺に謝る必要はない。それにしても様子が変だぞ、香澄。旅行先で何かあったのか?」
「な、何もありませんわ……」

妻はあわてたように首を振ります。

「本当か? あの村瀬という学生と久美さんの間に何かあったんじゃないか」
「いえ……そんなことはありません。楽しい旅行でした」
「それならいいが……」

平静を装っていますが妻の様子がやはり普通ではありません。私は質問を変えました。

「香澄はあんな派手な下着を持っていたのか?」
「え?」

途端に妻の表情がこわばりました。

「何のことですか?」
「脱衣所に見たことのないような真っ赤なパンティがあったぞ。香澄のものじゃないのか」
「……あ、あれは……久美さんのものですわ?」
「久美さんの?」

私は驚いて問い返します。

「なぜ久美さんの下着を香澄が持っている?」
「い、いえ……言い間違えました。久美さんが旅行に持ってきて、私にくれたんです」
「どうして?」
WR 1/11(木) 18:21:41 No.20070111182141

「どうしてってそれは……旅行に招待してくれたお礼だって……」
「それであんな派手な下着を?」
「わ、若い人たちにとっては下着を送ったり送られたりすることは特に珍しいことではないそうですわ」
「そうなのか? あまり聞いたことがないな」

私は首をひねります。

「今度婦人もの下着担当のバイヤーに聞いてみるよ」

先に述べたとおり、私は通販会社の役員をしていますので、婦人ものの下着は重要な商材です。若い人の間に下着のギフト需要があるのなら利用しない手はない、といった程度の軽い発言でしたが、それを聞いた妻の顔色が明らかに変わりました。

「く、久美さんの冗談かもしれません。あまり本気にとらないでください」
「もちろんわかっているよ。どうした、やはりいつもの香澄と違うな」
「そうですか……」

妻は私の視線を避けるように顔を伏せます。

「……少し疲れましたので、休ませていただいてよろしいですか?」
「ああ、二泊三日も若い人のペースに合わせていたんだから、疲れただろう。ゆっくり休めばいい」
「ありがとうございます」

妻は頭を下げると寝室に行きます。私は妻の態度になんとなく釈然としないものを感じながらも、仕事の都合で夫婦の旅行をキャンセルしてしまったという申し訳なさもあり、それ以上妻を問い詰めることはしませんでした。これが結果的には大きな判断ミスとなるのですが。


その後、社長は退院してきましたが、身体の方はすぐには回復しないようで、私が担当する業務量も以前よりはかなり増えました。必然的に毎日の帰りも遅くなります。

夫婦二人の生活になったのだから妻の精神状態をもっとケアしなければいけないという気持ちはあるのですが、なかなか周囲の環境が許してくれません。夏休みには、ゴールデンウィークに行けなかった温泉旅行の仕切り直しをしなければと思っても、先の予定が立たない状況にあります。

一時気分が沈んでいた妻も、次第に明るさを取り戻すようになりました。それと同時に今までにはないような明るい色のものやミニスカートまで身に着けるようになったので驚きました。

「ずいぶん洋服の趣味が変わったな」
「あら、そうですか?」

妻は何がおかしいのかコロコロ笑います。

「久美さんが選んでくれるんです。私くらいの年齢になったら明るいものを身に着けたほうが老けて見えなくていいって」
「久美さんと買い物にまで行くのか」
「はい」

妻は微笑して私の顔を見ます。私は妻のヘアスタイルも以前とは違っているのに気づきました。長さはほとんど変わらないのですが、ウェーブがかかり、色も明るくなっています。

「美容院に行ったのか?」
「あら、気づかなかったのですか」

妻はくすくす笑います。

「一週間前からこの髪ですよ」
「そうか……気づかなかったな」
「あなた、ここのところずっと忙しかったから」
「そうだな……」

妻をケアしなければいけないと頭で思っていても、ヘアスタイルが変わったことにすら気づかないのは情けない話です。

「それも久美さんの影響か?」
「久美さんが知っているヘアスタイリストを紹介してくれたんです」
「そうか……」

妻が明るくなったのはいいことですが、反面、私が知らないうちに妻がどんどん変わってくるような気がして、説明のつかない不安が高まってきました。その不安が大きくなったのは夏も近づいたある日のことです。いつものように二人の食卓で妻が口を開きました。

WR 1/11(木) 18:23:58 No.20070111182358

「あなた……夏休みのことなんですが」
「ああ……」

私は顔を上げます。

「すまない……なかなか仕事の予定がたたなくてね。温泉旅行は秋あたりになりそうだな」
「ええ、それはいいんですが……実は、真一さんと久美さんがこの前のお礼ということで旅行に誘ってくれているんです」
「旅行に?」

私は眉を上げます。

「大学が休みに入る7月後半に、久美さんのお父様が持っている軽井沢の別荘に行かないかと誘ってくださって。真一さんも一緒に」
「久美さんの父親というのは軽井沢に別荘を持っているのか?」

さすがにR大の学生は違うと私は少々驚きました。

「はい……ずっと使っていなかったので、風を通したほうがいいからなんて言ってましたけど。久美さんのお父様は老舗の酒屋の社長さんのようです。別荘も古くから持っているものということで……」
「それにしても……」

ゴールデンウィークになかなか行けない高級温泉旅館に招待してあげたつもりだが、彼らにとってはそんなのは特に珍しくもなかったのかもしれないな、と私は思いました。

「まあ……それはともかく、大丈夫か?」
「何がですか?」
「この前は帰ってからかなり疲れていたようだったが」
「大丈夫ですわ。今度はあんなにはしゃぎませんから。真一さんや久美さんも気を遣ってくれますし」

私は妻の言葉に何か引っかかるものを感じました。しかしそれが何だかわかりません。話しているうちに引っかかっているものは話の内容ではなくて、妻の口調にあることに気づきました。

「香澄、5月の旅行がそんなに楽しかったのか?」
「え、ええ……」

妻が一瞬戸惑ったような表情を浮かべますが、すぐにまた微笑を浮かべます。

「とても楽しかったですわ。なんだか私、学生時代に戻ったような気がしました」
「そうか……」

私はそこで違和感の原因の一つに気が付きました。

「香澄は前からあの、村瀬って学生のことを『真一さん』と呼んでいたっけ?」
「え?」

妻は私の問いに目を泳がせます。

「さ、さあ……どうだったかしら? よく覚えていませんわ」
「確か『村瀬君』とか『真一君』と呼んでいたような気がするな」
「そうですか? 兵頭さんのことを『久美さん』と呼ぶんですから、同じように『真一さん』と呼んでいたと思うんですが……」

妻は首を傾げます。

「あなたが気になるようでしたら、呼び方を変えますが」
「いや、別に気になるほどじゃない」

私はグラスに残っていたビールを飲み干しました。

「俺が香澄のケアをしてあげられないのをあの二人に押し付けているようで、なんだか申し訳ない気がするな。あの二人も別荘なら若い友達と一緒に言ったほうが楽しいだろうに」
「それが、お世辞だと思うのですが、若い人と一緒よりも私といったほうが楽しいと言ってくれるのです」
「それは間違いなくお世辞だ。うちの陽一や栄治には絶対に真似のできない科白だな」
「まあ、ひどいわ」

妻が頬を膨らませるのを見て私は笑います。この時もなんとなく違和感を感じただけで、私には妻の旅行を止める理由はありませんでした。むしろ、自分が寂しい思いをさせているのを二人の教え子が埋め合わせをしてくれていると安易に考えていました。

しかし、三泊四日のこの軽井沢への旅行から帰ってきて以来、妻の様子は目に見えて変わってきたのです。
WR 1/12(金) 18:12:49 No.20070112181249

夏が過ぎて季節は秋になり、妻は物思いに沈むような表情をすることが多くなり、口数も少なくなっていきました。私が話しかけても心ここにあらずといった様子です。

私はさすがにおかしいと思い始めますが、原因がわからないので対策の打ちようがありません。しかし10月に入ったある土曜日の夜、私が突然妻からセックスを拒絶されたことから、溜まっていたマグマが一気に地上に噴出すように事態が動き出しました。

「どうしたんだ? 生理は先週終わったはずだろう」
「ごめんなさい……出来ないんです」

それまで私たちは月に2、3回はセックスをしていました。妻の生理のとき以外はほぼ毎週といったペースです。それが年齢に比べて多いのか少ないのかわかりませんが、妻も私との行為を十分楽しんでいるしと思っていました。

体調が悪いときはもちろん無理には求めませんし、こちらもそれなりに雰囲気に気を配っているせいか、これまで妻が私の誘いを断ることはほとんどなかったのです。

「先週は生理、先々週は香澄は佐和子さんや美奈子さんと旅行に行っていたし、その前は確か風邪気味ということだった。かれこれ一ヶ月もしていないぞ」
「……」
「何か理由があるのか? 身体の具合でも悪いのか?」
「……すみません。そういった理由ではありません」
「ではなんだ? 言ってくれないとわからない」
「……」

妻は思いつめたような表情で黙っていましたが、意を決したように顔を上げました。

「彼が……あなたとはもうするなと……」

私は妻が何を言っているのかわかりませんでした。

「今何と言った?」
「ですから……彼が、あなたとはもう……セックスをするなと言っているので……」
「何だと?」

私は耳を疑いました。

「どういう意味だ? 彼とは誰のことだ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「謝っているだけではわからない。きちんと話してくれ」

私は妻の身体をゆすります。妻はブルブル肩を震わせていましたが、やがて驚くべき名前を口にしました。

「真一さんです……」
「真一?」

その名前を聞いても私は一瞬誰のことかわかりませんでした。妻が個人レッスンをしている二人の教え子の話題がここのところ妻の口からほとんど出なかったため、村瀬という青年のことは私の念頭からすっかり消えていたのです。

しかも、47歳になる妻が「彼」と呼ぶ男が、今年22歳になったばかりの村瀬だということがとっさに私の頭の中で結びつきませんでした。

私は急に夏休み前に妻が思わず発した「真一さん」という言葉を思い出しました。それは説明のつかない違和感になって私の心の中に澱のように溜まっていたものです。ようやく私はその違和感の正体がわかりました。

「……村瀬のことか?」

妻はこっくり頷きます。

「どういうことだ? 村瀬と付き合っているのか?」

再び頷く妻が、パジャマの襟をしっかりと押さえているのに気が付きました。かっとなった私は妻の襟に手をかけます。

「駄目……」
「見せてみろ」
「許してっ」
「見せるんだ」

私は無理やり妻の襟をこじ開けます。パジャマの第一ボタンがはじけとび、妻の肩が露わになりました。
WR 1/12(金) 18:13:57 No.20070112181357

私は寝室の電気をつけます。明るい光に照らされた妻の白い肩先には幾つもの赤いキスマークがつけられていました。私は驚きに目を見張ります。

「今日は佐和子さんと買い物に行くといって出かけたな」

妻はこっくり頷きます。

「あれは嘘か?」

妻はまた頷きます。

「何をしていた?」
「……」
「村瀬と会っていたのか」

無言のまま頷く妻に苛立った私は怒声を浴びせます。

「黙っていたらわからない。ちゃんと聞かれたことに答えろ」
「……すみません」

妻は震える声で返事をします。

「彼と会っていました……」
「彼……」

息子よりも年下の男を「彼」と呼ぶ妻の姿が、私の知っている妻だとは信じられませんでした。

「どこで会っていた?」
「ホテルです」
「ラブホテルか?」
「はい……」

半ば皮肉のつもりで聞いたにもかかわらず妻が素直に頷いたので、私は衝撃を受けました。恥ずかしがり屋の妻は私がラブホテルに誘っても「誰に見られるかわからないから」という理由で、決して乗ることはありませんでした。

妻と村瀬が肩を並べて、いかがわしいラブホテルの門をくぐる姿を想像し、私は頭がかっと熱くなりました。

「村瀬に抱かれたのか?」

妻は消え入りそうな風情でうなずきます。

私は今起きている現実が信じられませんでした。今月銀婚式を迎えようとしている最愛の妻が他の男に抱かれたのです。そればかりでなく、その男から言われて、もう私から抱かれることは出来ないといっているのです。

そして妻の心と身体を奪ったその男は、私の息子よりも年下なのです。

「……いつからの関係だ?」
「5月の、温泉に行ったときからです」
「なんだと?」

私は再び激しい衝撃を受けます。

「あれは久美さんと三人で行ったのではないのか?」
「待ち合わせの場所に行ったら彼しかいなくて……聞いたら、久美さんが急に体調を崩して来られなくなったと……私はいくら年齢が離れているといっても、夫以外の男性と二人きりで旅行なんて出来ないと言ったのですが……彼がどうしてもと……」
「どうしてもって……それでOKしたのか?」
「彼は幼い頃に両親が離婚して、お父さんに引き取られて、母親の愛情を知らない……母親とはどういうものかといつも思っていたのだけど、私のような女性が母親だったらどれほどいいか……母親と作れなかった思い出を私と作りたいと必死にお願いされて……」
「そんな話にまんまと騙されたのか」
「騙されたわけではありません」

妻は顔を上げて私を見ました。

「彼の両親が離婚していて、母親の愛に飢えていたというのは本当です」
「仮にそれが本当だったとして、どうして香澄と男女の関係を持つということにつながるんだ? 奴は母親を抱きたがる変態男か?」
「そんな……違います」

妻は私をにらみつけました。私は思わず気圧されるものを感じます。
WR 1/12(金) 18:15:23 No.20070112181523

「……なんだ、その目は」

私の声に妻ははっと自分の立場に気づいたように、目を伏せます。

「すみません……つい……」
「恋人を悪く言われて興奮したって訳か」

私は精一杯の皮肉をぶつけますが、妻は黙って下を向いています。

「しかし……あの時は確か香澄から電話があって、途中で久美さんに代わったぞ」
「あれは……」

妻は苦しげな表情を私に向けます。

「私に心配をかけてはいけないということで、久美さんが用意していたものです」
「録音された声か?」

妻はうなずきます。

「それじゃあすべてが計画的ということか。久美さんも共犯というわけか」

妻は私の視線を避けるように顔を逸らせました。

「そうじゃないと言ってもあなたは信じないでしょう……そう思われても仕方がありません」
「持って回った言い方をするな」

私は再び怒声を上げます。

「夏休みに三人で久美さんの父親の別荘に行ったというのも嘘か? あの時も二人だけだったのか?」
「いえ、あの時は久美さんも一緒でした」
「久美さんも一緒? おまえたちが乳繰り合っている間、彼女は一体何をしていたんだ?」
「乳繰り合うだなんて……」

妻は抗議するような目を向けます。

「違うのか?」
「いえ……そう言われても仕方がありません」

妻は悲しげに顔を伏せますが、私にはそれがかえって腹立たしく感じます。

「久美さんは……彼と一緒でした」
「彼と一緒だったのは香澄だろう。それとも奴はおまえたち二人を相手したということか?」
「いえ……彼というのは、久美さんの彼のことです」
「何だと?」

私は訳が分からなくなりました。

「いったいどういうことだ?」
「つまり……彼と私、久美さんと久美さんの彼の四人で別荘に行ったのです」

あまりのことに私は空いた口がふさがりません。

「いい年をしてお前はいったい何をやっている? 中年女が学生に交じって乱交パーティでもしていたのか?」
「そんなことはしていません……それに、久美さんの彼は学生ではありません」
「学生でなければ何だ? サラリーマンか? いずれにしてもお前は四人の中では浮いていただろう。いい笑い者だ」
「久美さんの彼はあなたより少し年上です。はっきり名前は言いませんでしたが、あるオーナー会社の社長だと言っていました。実は、別荘というのも久美さんの彼のものです」
「……」
「ですから……軽井沢では私達四人はどこでも家族ということで通りました」

あまりの怒りに私は声が震えてくるのを止めることが出来ません。

「香澄はそんなことが出来る女だったのか」
「そんなことって……」
「村瀬や久美さんと共謀して俺を騙し、彼らの親を騙し、世間を騙す。そんな情けないことが出来る女だったのかと言っているんだ」
「……なんと言われても仕方がありません」
「なんと思われても仕方がない、なんといわれても仕方がない、お前が言うことは仕方がないばかりか。夫婦の信頼関係を壊しても仕方がないということか」
WR 1/13(土) 17:24:08 No.20070113172408

「そういうわけではありません。償いはします」
「償い? どんな償いだ?」
「慰謝料とか……」

私は再び頭に血が上ります。

「金など欲しくない! それに慰謝料とはどういうことだ。俺と離婚でもしたいのか」

私は興奮して「離婚」という言葉を発したのですが、当然否定すると思っていた妻が黙り込んだので唖然としました。

「離婚したいのか……」
「はい……」

妻はそういうと床の上にひざまずき、深々と土下座をしました。

「あなた……ごめんなさい……離婚してください」

私は全身の力が抜け、ふらふらと床の上に座り込みます。

「離婚してどうする?」
「……」
「村瀬と結婚したいのか?」
「いえ……彼とは結婚しません」
「なら、どうして離婚したいんだ?」
「あなたと結婚したまま、あなたを裏切り続けるわけには行きません」
「綺麗ごとを言うな。今まで裏切っていたんじゃないか」

妻を非難する私の声に力がなくなってきています。

「ですから……ずっとつらかったです。これ以上黙っていられなくなって……」
「それで、そのつらさを俺に押し付けたのか。香澄は自分が楽になるためには俺がつらくなっても良いというのか」
「そんなことは……すみません」

妻は再び深々と頭を下げます。

「離婚する、村瀬とは結婚しない、なら香澄はこれからどうするんだ。どうやって生きていく?」
「一人で暮らします。幸い、フルートの講師を続ければ、私一人が食べていけるだけのお金はもらえるので」

私は妻の考えがまったく理解できませんでした。

「どうしてだ? 息子たちも独立して、これから2人で生活を楽しめると思っていたのに。そんなことを考えていたのは俺だけだったというわけか」
「そんなことはありません。私もこれからはあなたと2人で暮らしていくつもりでした」
「それがどうして今は違うんだ」
「あなたを裏切ってしまったから……」
「それは理屈の順序が違うだろう」

私はだんだん情けなくなってきました。高校時代に妻と出会ってから、妻は私の偶像でした。知性、教養、美しさを兼ね備えた理想の女性と思っていたのです。もちろん小さな欠点はありましたが、結婚後も妻は私の期待に答え、ほぼ理想の妻であり、理想の母親でした。

その妻がこのような軽はずみな行為に及ぶとは私には信じることが出来なかったのです。

「裏切ってしまったから一緒に暮らせない、ではなくて裏切ること自体が俺との生活、今までの生活を捨てることだ。どうして裏切ったんだ」
「それは……」

妻は頼りなく視線を泳がせます。

「私も、自分で自分の気持ちが説明できないのです……あなたを裏切るつもりはありませんでした。5月の連休の旅行で始めて彼に抱かれたとき、なんだか夢を見ているようで……それでいてとても自然で……あなたを裏切っているという感覚がなかったのです」

妻がそんな生々しい告白を始めたので、私は面食らいます。

「彼の必死の願いを聞いた私は、ただ母親が子供を抱くように、一晩一緒の布団で抱き合って眠ってあげるとだけ言ったのです。母親ほども年の違う私を彼が本当に女としてみているなんて信じられませんでした。男と女に起こるようなことがあるはずがない。一晩だけ彼の母親代わりをしてあげるという気持ちでした」
WR 1/13(土) 17:25:43 No.20070113172543

「そうじゃなかったということか?」
「すみません……布団の中に入って彼を抱いてあげているうちに、彼の……」

妻はさすがに顔を赤らめ、口ごもります。私は残酷な気分になって妻を促します。

「どうした? そこまで話したんだから、最後まで続けたらどうだ」
「はい……」

妻は苦しげな表情を私に向けました。

「彼の……ペニスが驚くほど大きく、硬くなってきて……」

ある程度予想はしていた言葉でしたが、私の身体は怒りに熱くなります。しかし妻は話し始めたからには早く終わらせたいのか、先を続けます。「やめろ」と怒鳴りつけたいのですがそれも出来ません。妻と村瀬の間に何が起こったのかを知らずにいられないのです。それは怖いもの見たさなのか、自虐的な気持ちからなのか自分でもわかりません。

「私は驚いて身体を離そうとしたのですが、彼は私を力いっぱい抱きしめて来ました。そして『愛している』とか『始めて見たときから好きだった』とか何度も繰り返しながら……キスを」
「やめろっ!」

さすがに耐えられなくなった私は叫ぶような声を上げます。

「結局関係を結んだのだな?」
「はい……」

妻はぼそりとつぶやきます。

「……ふとわれに返ると、とんでもないことをしてしまった、あなたに顔向けの出来ないことをしてしまったという思いがこみ上げて、私は目の前が真っ暗になりました。でも、目の前で泣きじゃくりながら『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝っている彼の姿を見ていると、胸が締め付けられるような思いになって……」
「……どうしたんだ?」
「私から、彼を抱きました」
「なんだと?」

妻の言葉を聞いたとき、私は妻とのこれまでの夫婦としての歴史が砂の城のようにガラガラと崩れ落ちていくのを感じました。私一人のものだった妻が他の男に抱かれた。しかも、二度目は自分から求めて──。

仮に村瀬とのことが一夜の過ちなら、妻は必死でそれを隠し、村瀬との関係を切ったと思います。しかし、こうして私から追及されたわけでもないのに自らの不貞行為を話すなど、自分の中でははっきりと覚悟を決めているのでしょう。

「香澄は、もう俺のことを愛していないのか?」
「そんなことはありません」
「ならどうして、俺と別れたいんだ」
「それはさっき申し上げたとおり、あなたと結婚したままあなたを裏切り続けることは出来ないから……」
「だからといって俺と別れたから村瀬と結婚するわけではないんだろう。村瀬と結婚しないということは、村瀬は裏切っても良いということではないのか?」

そこまで話した私はある可能性に思い当たりました。

「ひょっとして俺と別れて一人暮らしをするというのは、村瀬とも俺とも関係を続けたいということなのか?」
「そんなことはありません。そんな事を考えたこともありません」

妻は抗議するように私を見つめます。

「あなたは誰か新しいパートナーを見つけてください……私のようなふしだらな女ではなく……それに私は彼も縛るつもりはありません」
「何を言っているのかわからない。香澄が何をしたいのかがわからない」

私は頭を抱えました。自分は妻のことをわかっていたつもりになっていましたが、今の妻はまるで宇宙人です。しかし、もう私には抱かれないで欲しいと妻に告げた村瀬はその重みをどこまで理解しているでしょうか。

「これ以上はなしても堂々巡りだ。とにかく俺は離婚に応じるつもりはない」
「あなた……」
「明日村瀬をここに呼べ。奴にも責任がある」
「はい……朝9時でいいですか?」
「……どういうことだ?」
WR 1/13(土) 17:27:33 No.20070113172733

「私が今夜その……セックスを拒絶するとあなたとの話の中で当然彼を呼べということになるから……彼はもうここに来る心積もりをしています」
「すべて打ち合わせ済みというわけか」
「……そんな訳では」
「言い訳はもういい」

私は毛布を抱えて立ち上がりました。

「どこへ行くのですか?」
「香澄と同じ部屋で寝る気はしない。リビングのソファで寝る」
「それなら、私がリビングで寝ます」
「構うな。同情は真っ平だ」

小さなことですが、私はむきになっていました。私は後ろを振り返らずに寝室を出るとリビングに向かいます。ソファの上に横たわったのですが、とても眠ることは出来ません。瞼を閉じると妻と過ごした日々が次々に思い出され、不覚にも涙がこぼれます。結局一睡も出来ずに私は朝を迎えました。


翌朝早く、キッチンでは妻が朝食を用意する物音がしました。やがてリビングの扉が開き、妻が顔を覗かせます。

「あなた……朝食の用意が出来ました」
「いらない」

私は拗ねた子供のように妻に背中を向けます。

「でも……」
「いらないといっているんだ」

私はソファから身体を起こしました。

「村瀬のチンチンを握った手で作った食事など食えるか。汚らわしい」

私の言葉に妻はショックを受け、表情をこわばらせます。

「……ごめんなさい。私が無神経でした」

妻は首をうなだれさせます。私はそんな妻を横目でちらりと見ると洗面所に向かい、身づくろいをします。寝室で着替え、リビングで新聞を読みますが、中身がまったく頭に入りません。

妻はキッチンのテーブルに座り、朝食にも手をつけないまま思いつめたような表情をしていました。自分のしたことの重みに気づいているのでしょうか。それとも、私の怒りが落ち着くのをひたすら首をすくめて待っているのでしょうか。

ようやく時計の針が9時を指した瞬間、計ったように玄関の呼び鈴が鳴りました。妻がばね仕掛けの人形のように起き上がり、玄関に向かいます。私はリビングで村瀬が来るのを待ちました。

「失礼します」

リビングに入ってきたのは村瀬だけでなく、久美さんも一緒だったので私は驚きました。村瀬と久美さんは私の顔を見るなりリビングの絨毯の上に土下座し、深々と頭を下げます。

「ご主人、このたびは申し訳ありませんでした」

妻もあわてて2人の隣に座り、土下座をします。私は唖然として3人を見ています。

「どうして久美さんが一緒なんだ?」

村瀬と久美さんは頭を下げたまま、ちらと視線を交わしあいます。

「お前は謝りに来るのも一人ではこれないのか?」

私が声を荒げると、久美さんが顔を上げました。

「ちがいます、ご主人。今回の件は私にも責任がありますから、それで一緒にお詫びに参りました」
「責任? 5月の旅行のアリバイ工作をしたという責任か?」
「それもありますが……それだけじゃありません。村瀬君の気持ちを知っていて、ずっと応援していたんです。客観的に見れば渡辺先生……奥様の不倫の手助けをしました」
「……とにかく座ってくれ。土下座をされたままじゃ話も出来ない」

私がそう促しても久美さんはなかなか動きません。二度、三度すすめてようやく久美さんはソファに座りました。村瀬も一緒にソファに座ったのを腹立たしく思いますが、成り行き上仕方がありません。おまけに妻まで同じソファに座り、私たちはリビングで3対1で向かい合いました。
WR 1/14(日) 18:03:43 No.20070114180343

久美さん、村瀬、妻の三人を前にして私はひどく戸惑っていました。

息子と娘のような男女、そして妻を前にしていると、どうやっても妻とその間男を追及するという気分になりません。妻を寝取られた男、というのは客観的に見てかなりみっともない姿だと思いますが、その相手が自分の息子よりも年下、しかもガールフレンドの付き添いでやってきているのです。現在の構図は相当間が抜けているような気がして、どうにも闘志が湧いて来ないのです。

そうは言ってもこのまま黙って坐っていても話は進みません。とりあえず私は追求の口火を切ります。

「君は、妻のことを一体、どう思っているんだ」

私は村瀬に尋ねます。私の言葉に村瀬がじっと伏せていた顔を上げました。

「僕は渡辺先生……いえ、香澄さんのことを愛しています」
「愛している?」

私は村瀬の真剣な表情を呆れた思いで見つめます。

「妻は君の母親のような年齢だぞ」
「年齢は関係ありません」

きっぱりと告げる村瀬に、私は言葉を失います。隣りの久美さんは村瀬と私の顔を交互に見ていましたが、やがてソファから立ち上がりました。

「あの……私、お茶をお入れします」
「そんなことしなくてもいい」
「いえ、ご主人にだけです」

妻が腰を浮かそうとするのを久美さんは「大丈夫です、場所はわかりますから」と制止します。

久美さんは私が妻に嫌悪感を持っているのを察し、妻の入れるお茶は飲まないだろうと考えたのだろうか……私はこの修羅場とも言うべき場面でそんなことを考えています。

「愛しているからといって、人の妻に手を出していいのか? 不倫が不法行為であることくらいわかる年だろう」
「もちろんわかります。ですから、ご主人には本当に申し訳ないことをしたと思っています」

村瀬は再び深々と頭を下げます。

「申し訳ないとは思うのですが、好きになった感情はどうしようもありません。2年前に、はじめて香澄さんの教室にフルートを習いに行ったときから好きでした。人の奥さんだからということで必死に自分の感情を殺してきました」
「それがどうして今になって妻と関係を持ったんだ?」
「香澄さんから、この春に息子さんの手が完全に離れて、親としての責任は果たすことができると聞いていたので……これで香澄さんは自由になれるのではと思いました」
「自由になれる?」

自分の息子のような男を相手に声を荒げるつもりはありませんでしたが、村瀬のこの言葉に私の感情は波立ちます。

「僕が妻の自由を縛っているというのか?」
「いえ、そういう意味では……」

村瀬は言葉に詰まります。

「……すみません、ある意味ではそうです。既婚者が恋をしてはいけないというのは、そのせいで家庭が壊れると子供が傷つくからだと思います。香澄さんの息子さんはもう子供ではありませんから、自分の人生は自分で選択できるのではないかと思いました」
「何を偉そうなことを言っているんだ。君に結婚生活の何がわかる」

私は村瀬の勝手な言い分に、声が大きくなるのを抑えることが出来ませんでした。

「君は妻をいったいどうするつもりだ?」
「一生をかけて愛していくつもりです」
「馬鹿な……君と妻がいったいいくつ年が離れていると思っているんだ」
「25歳です」
「妻は君とは結婚しないといっているぞ」
「知っています」
「それなのに、どうやって愛していくんだ。君は一生結婚しないつもりか」
「……結婚はすると思います」
「どういうことだ?」

私は怒りよりも呆れた気分の方が先に立ちます。
WR 1/14(日) 18:10:33 No.20070114181033

「他の女と結婚して、妻は愛人にするというのか?」
「結婚はしますが、結婚相手とセックスはしません」
「何だと?」

私は宇宙人と話をしているような気分になって来ました。

「僕は、香澄さんが生きている限りは、香澄さんとしかセックスをしません。香澄さんが僕にとって最初の女性ですし、最後の女性になっても良いと思っています」
「君と話していると頭がおかしくなる」

そこに久美が珈琲を入れて戻ってきました。私の前にカップが置かれ、珈琲の良い香りが鼻腔を刺激します。私は気持ちを落ち着けるため珈琲をすすりました。

「……」

私は思わず久美の方を見ます。珈琲は私の好みの濃さに入れられており、ミルクや砂糖も私のいつもの量が既に加えられていました。久美はすました表情を私に向けています。

(いったいこいつら、何を考えている……)

私は珈琲カップを置くと、再び村瀬の顔を睨みます。

「人の妻に手を出すのは不法行為だということは分かっているといっていたな。それならどうやって償うつもりだ?」
「慰謝料をお支払します」

村瀬がさらりとそんなことを口にしたので、私は怒りよりも驚きが先に立ちました。

「慰謝料だと? 君はまだ学生だろう」
「はい」
「どうやって払う? 言っておくが、25年間の夫婦生活を壊したら、慰謝料は半端な額ではすまないぞ。学生のアルバイトで払えるような金ではない」
「それはよくわかっています」
「親がそんな金を出してくれるものか」
「いえ、僕が払います。僕は父の会社の株をかなり持たされています。それが2年前、父の会社が株式公開したことで数千万円単位の評価益が出ています。相場以上の慰謝料はお支払いできると思います」

私は力が抜けてソファに座り込みました。

「さっき、結婚相手とセックスはしないといっていたな。そんなことが許されるのか。結婚相手に対して不誠実ではないのか」

私は必死で村瀬に対して一矢報いようとしますが、村瀬は顔色一つ変えずに答えます。

「結婚相手は理解してくれます。というより、相手も僕とセックスするつもりはありません。いえ、出来ないのです」
「どういう意味だ?」
「僕が結婚しようと考えている相手は、同年代の男には興味がないそうです」
「なんだと?」

村瀬と久美が視線を交わしあいました。

「まさか……」
「はい、僕は大学を卒業したら、久美さんと結婚するつもりです」

村瀬の言葉に久美は頷きます。

「僕は大学を卒業したら、今の資金を元手に事業を始めるつもりです。そのパートナーとして久美さんを考えています」
「……」
「僕と久美さんは男女の恋愛感情はもてませんが、それ以外は最高のパートナーといってよい存在です。彼女なしの人生は考えられませんし、彼女もそう言ってくれています」

村瀬の言葉に久美さんは頷きます。

「馬鹿な……人生にそれほどのパートナーがいるとしたら、それは自分の夫であり、妻だろう」
「それは価値観の相違です。ゲイの男女が家庭を持っている例はアメリカなどではそれほど珍しくありません。彼らの間には男女の恋愛感情はありませんが、パートナーとしてはうまくいっています」
「そんな特殊な価値観に妻をつき合わせるつもりか」
「僕は香澄さんに、僕自身の価値観を押し付けるつもりはありません。香澄さんがもしも僕と結婚を望むのなら、僕は喜んで応じます。でも、香澄さんがそれは望まないといっているのです」
WR 1/14(日) 18:14:17 No.20070114181417

私は村瀬、妻、そして久美さんの顔を順に見回します。私は極めて常識的なことを話しているつもりですが、今この場では私は少数派、異端者なのです。ひょっとして自分こそがおかしなことを言っているのではないかという気持ちになって来ました。

「君は今22歳だったな」
「はい」
「あと20年後でも、君は42歳の男盛りだ。その時、妻は67歳だぞ。どうやって愛するんだ?」
「67歳でも大丈夫です。愛せると思います」
「もっと年を取ったらどうする?」
「それは、ある時以降は男と女として愛し合うことは出来なくなるかもしれませんが、香澄さんの面倒は一生見ますし、寝たきりになったら介護もします。僕には母がいませんから、母を介護するつもりでいればどうということはありません」
「……」
「将来は、僕と香澄さん、そして久美と久美の恋人の4人が家族のように暮らせていけたらと思っています」

まさにああ言えばこう言うという感じです。攻め口がなくなった私は気持ちを落ち着かせるために珈琲カップに手を伸ばします。そのとき、視界の隅で村瀬が久美さんと素早く眼差しをかわし、微かに笑いあうのが見えました。

(こいつら……)

村瀬と久美さんは事前に想定問答を組み立て、シミュレーションを行っているのだと感じました。妻から私の性格も聞いており、少なくとも久美さんがいる前では滅多なことで激昂したり、暴力をふるったりする男ではないというのも計算づくなのかも知れません。

「それで、君の望みは何だ?」
「僕個人は特にありません。強いて言えば愛する人の望みをかなえたい、というのが望みです」

村瀬の言葉に妻の表情がぱっと明るくなったので、私は激しい嫉妬を感じました。「こんな陳腐なセリフに浮かれやがって」と、妻に対して腹立たしい気持ちになります。

しかし感情は昂ぶるのですが、同時にどこか冷静になってくる自分がいます。村瀬の世迷言のような言い分を聞いているうちに日頃の仕事での交渉力が目を覚ましたようです。

「わかった、それじゃあ整理するが、香澄は俺と離婚したい。離婚する理由は俺と結婚したままで村瀬と付き合うわけにはいかないから、ということでいいんだな」

妻は一瞬戸惑ったような表情を浮かべますが、村瀬が頷くのを見て「はい」と返事をします。

「村瀬君は俺に対して不法行為をしたということは認識しており、その償いをしたいということでいいな?」
「はい」

村瀬は即答します。

「久美さんは村瀬と妻の不貞行為、つまり共同不法行為の共犯者だということを認める、それでいいな」

私が久美さんに向かってそう言うと、久美さんはいぶかしげな表情を浮かべます。

「あなた……久美さんは……」
「お前は黙っていろ。俺は今、久美さんと話をしている」

私がピシャリと決め付けると、妻は黙り込みます。

「どうなんだ、久美さん。さっきあなた自身が認めたことだ」

私が更に言い募ると久美さんはむきになったように表情をこわばらせ、こっくり頷きました。

「そういうことでいいです」
「わかった、それじゃあ、俺の考えを言おう」

私は三人をゆっくり見回します。

「香澄が別れたいといっている以上、みっともなく引き止めるつもりはない」

三人の顔がぱっと明るくなります。

「いいんですか? あなた」
「黙って話を最後まで聞け」
WR 1/15(月) 17:52:32 No.20070115175232

私はぴしゃりと妻を制止します。

「しかし香澄は5月から今までの半年近くもの間、俺を裏切った。その償いはしてもらう」
「ですから……慰謝料なら出来るだけのことはさせてもらいます」
「そんなものはいらない」

村瀬は少し驚いた表情を私に向けました。

「あぶく銭を持っている人間から金をもらっても気が済むものか。本当にすまない、心から謝りたいと思っているのなら誠意を見せろ」
「では、どうすれば……」
「まず香澄だが」

私は妻の目をじっと見据えます。

「香澄はこれから俺が裏切られた時間、つまり半年間、俺の言うことは何でも聞くこと。それがお前の俺に対する償いだ」
「あなた……」

妻は私の気持ちを図りかねるといった風な顔をしています。

「心配しなくても暴力をふるったり、人前でお前に恥をかかせたりすることはしない。それとお前は村瀬に対して操を立てたいだろうから、最後の一線は守ってやる。俺も今さら香澄を抱くつもりはない」

村瀬と、妻、そして久美さんは不安げな視線を交し合っています。

「それから村瀬君、君も今後半年間、妻との連絡は一切絶ってもらう。話し掛けるのはもちろん、メール、電話、手紙も禁止だ。もちろんフルートのレッスンも、スクールも辞めてもらう。久美さん、君もだ」
「それは……」

村瀬が口を挟もうとしますが、私は更に続けます。

「3人がこのことを俺に対して文書で約定してもらう。これが守れなかった場合は約定違反と、今回の件の慰謝料として5000万円を支払ってもらう」
「5000万円ですって?」

久美さんが頓狂な声をあげます。

「それはいくらなんでも法外です」
「どこが法外だ? 約束を守るなら慰謝料は1円も要らないといっているんだ。そちらにとってこんなに都合の良いことはないだろう」

私は冷たい声で言い返します。

「さらに香澄と離婚はするが、この家から出ることは許さない。俺が良いというまでこの家の主婦としての役割を果たしてもらう。生活費は今までどおり入れるから安心しろ」
「それと離婚するからにはきちんと財産分与も行う。この家の価値が住宅ローンの残債を清算して2000万円、他に預貯金が2000万円ほどあるから、その半分の2000万円の財産を香澄に対して分与する。それを香澄が放棄して慰謝料と相殺すれば、残りはわずか3000万円だ。株を処分すれば村瀬君なら十分払える金だろう」
「しかし、それにしても……」
「もともと俺の方に離婚してやらなければならない理由はない。それを、香澄の希望を入れて別れてやろうといっているんだ。半年くらいどうして待てないんだ。俺は香澄と高校2年から大学を卒業するまで、6年間遠距離恋愛を貫いたぞ。それに比べたら半年くらいなんだ」

三人はぐっと押し黙ります。ようやく交渉の主導権が私に移ってきました。

「それと、言うまでもないことだが、村瀬君は半年の間は禁欲してもらう」
「え?」

村瀬が意表を衝かれたような声をあげました。

「何を驚いている? 当たり前だろう。さっき君は、香澄が生きている間は香澄としかセックスをしない、香澄を最後の女性にするといわなかったか?」
「それは……」
「香澄と結婚しないまでも、一生愛していくんだろう。愛するものが他にいるのに、他の女を抱くつもりか?」
「いえ……もちろん抱きません」
「そうだろう。それでないと香澄を任せることは出来ない」

私はわざとらしく頷きました。

WR 1/15(月) 17:54:09 No.20070115175409

「これもわかっているだろうが、セックス以外の風俗も駄目だ」
「……はい」
「それなら、今の内容を全て文書にして香澄と村瀬君に署名捺印してもらう。久美さん、君には慰謝料と違約金支払の連帯保証人になってもらう」
「どうして私まで!」

久美さんは驚いて大きな声を出します。

「君は最初、今回の件は自分にも責任があると言わなかったか? 村瀬君のことを応援して、結果的に妻の不倫の手助けをしたと言っただろう。最初に妻と村瀬君が関係を持ったとき、アリバイ工作をしたのは君じゃなかたのか?」

久美さんは何か言いたげに口を動かしていましたが、結局言葉を発しないで俯きます。

「香澄も言ったよな。俺と結婚したまま、俺を裏切り続けるわけにはいかないと、そう言ったからにはその言葉をきちんと守れ。半年間守りきったら望みどおり離婚して自由にしてやる」
「しかし……半年は長すぎます」

村瀬が不服そうな顔で言います。

「何を都合のいいことを言っている。この程度のことが出来ないで愛だの恋だの、えらそうなことを言うな」

私は村瀬を怒鳴りつけました。

「本当は倍返しの1年といいたいところだ。しかし、それでは折角香澄が新しい生活をスタートさせようするのを邪魔することになるだろう。だから半年で我慢してやるんだ。お前たちもそれくらい我慢しろ」
「わかりました……」

村瀬は頷きます。私は3人の私に対する約定の内容をワープロソフトで文書にすると4枚印刷し、妻、村瀬、そして久美さんに署名捺印させます。一通を私が持つと、他の3通をそれぞれの控えとして3人に渡しました。

「香澄さん、僕の香澄さんへの愛はこんなことに揺らいだりしない。きちんとご主人との約束を守り、半年後に迎えにきます」

署名を終えた村瀬は、妻の方をじっと見つめてそんな甘い言葉を吐きます。妻がそれを目を潤ませながら聞いているのを私は腹立たしく見ています。

「お前は馬鹿か。今の行為はすでに約定違反だ。妻に話しかけるのは禁止というのを読んでいなかったのか」

そう告げた私に、村瀬と妻がはっとしたような表情を向けました。久美さんは苦々しげにそれを見ています。

「まあ、今回だけは見逃してやる。次に約定を破れば即、違約金を請求するからそのつもりでいろ。それから久美さん」
「はい……」
「俺も村瀬君が約定を守って香澄に近づかないか、また他の女に手を出したりしないかをずっと見張っているわけにはいかない。俺の代わりに君が見張ってくれ」
「え? だけど、村瀬君が約束を破れば、慰謝料が発生して、私もそれを保証しているんでしょう? 村瀬君が不利になることをご主人には教えないわ」
「久美さんが村瀬の約定違反を教えてくれたら、交換条件として君の連帯保証は外してやる」
「……」

久美さんは複雑な表情で村瀬の方を見ました。

「話はおしまいだ。帰ってくれ。次に会うのは半年後だ」

私がそう告げると、村瀬と久美さんはソファから立ちあがり、もう一度深々とお辞儀をして帰っていきました。村瀬と妻が切なげに視線を交し合っていましたが、そんなことをいちいち気にしていては身が持ちません。これから私にとって本当の戦いが始まるのですから。


あれから妻は私に対して従順で、言われたことには決して逆らいません。それは半年の時が過ぎ、晴れて村瀬と好きなように会えるようになるのをじっと首をすくめて待っているようでした。

私は村瀬のことで妻に嫌味を言いたくなる気持ちを必死で抑えました。そんなことをしても妻の気持ちは離れるばかりだと思ったからです。妻はまた、「何でも言うことをきけ」といった割りには、特に無茶な注文もしない私に拍子抜けしているようでした。
WR 1/15(月) 17:56:15 No.20070115175615

私が妻に対して抱いているもの、それは執着なのか、未練なのか、愛情なのかが自分でも分かりません。それをこの半年で私自身がしっかりと見極めようと思っていました。私は村瀬たちと話した翌日から少しでも自分の時間を作ろうと、必死になって仕事をこなしました。

週の半ばの水曜に、私はようやく会社を早く出ることが出来ました。家に帰ると予めネットの通信販売で注文していたものが届いていました。私は妻が作った夕食を、吐き気をこらえながら食べました。妻に対して嫌悪感を露わにしているようでは半年間の戦いには勝てないのです。

「香澄」
「はい」

日曜日の話し合い以来、はじめて私から妻に対して呼びかけました。妻がびくりと肩を震わせたのが分かります。

「食事の後片付けが終わったら風呂に入って、これを身に着けて寝室に来い」

私は通信販売での買い物が入った紙袋を妻に渡しました。妻は怪訝な表情をして袋をあけ、中を覗き込みます。途端に妻の顔が赤く染まりました。

「こんな……」
「半年間俺の言うことは聞くといっただろう、約束は守れ」

そういい残すと私は寝室に向かいました。

私は通信販売でのもう一つの買い物が入った箱をベッドの脇に置き、妻が来るのを待ちました。本を読みながら待っているのですが、内容がさっぱり頭の中に入ってきません。長い時間が経ち、ようやく寝室の扉が開き、薄い水色のパジャマを着た妻が入って来ました。

「どうして言ったものを着てこない」
「……」
「俺の言うことは聞くんじゃなかったのか」
「……この下に」

妻は消え入りそうな声で答えます。

「パジャマを脱げ」

妻は一瞬悲痛な目を向けましたが、私の表情が変わらないのを見て諦めたようにパジャマのボタンをはずします。パジャマの下から真っ赤な色の小さい下着に覆われた妻の身体が現れました。

赤い下着は生地が極めて薄く、妻の乳首や陰毛がすっかり透けて見えます。またブラジャーのカップの部分は小さく、妻のやや垂れた乳房は半ば以上露出しています。

高校1年の頃から数えると、30年以上にわたって妻と付き合っていることになりますが、妻は一貫して性に対しては晩生でかつ臆病であり、このようなセクシーな下着を身につけたことはありません。知的で品が良い妻が扇情的な下着を無理やり着せられ、羞恥に頬を染めているのを見ていると私は嗜虐的な気分が高まって来るのを感じます。

一方妻、いよいよ自分にとっての半年の試練が始まったと感じたのか、緊張した様子で唇を噛み、半裸身を小刻みに震わせています。村瀬や久美さんとの連絡を絶っているため、妻は一人でこの試練に耐えなければなりません。

(村瀬のことを思いながら耐えているのだろうか……)

私は妻の内心を想像して、激しい嫉妬を覚えるとともに闘志のようなものが沸いてくるのを感じます。

「後ろを向け」

私の命令に妻がくるりと後ろを向きます。赤いパンティはTバックというより紐パンで、逞しいばかりに実ったヒップが丸見えになっています。結婚して25年にもなる妻の尻もそんな風に見ていると実に新鮮で、私は急速に欲情していきました。

「こんな下着を着けるのは初めてか?」
「はい……」
「村瀬の前ではどんな下着を着けていた?」
「どんなって……普通ですわ」
「普通ではわからん。村瀬に見せた下着を出してみろ」

妻はうなずくと、寝室の箪笥の引き出しの奥から数枚の下着を出してきます。ほとんどは色は白か薄いブルーで品が良いものでしたが、中にいつか見た赤いものも混ざっています。それらはよく見れば陰部のあたりにレースをあしらわれており、陰毛が薄く透けて見えるようになっています。

WR 1/16(火) 18:13:05 No.20070116181305

「香澄にとってはこれが普通なのか? 少なくとも俺はこんな下着は見たことがないぞ」
「……久美さんが選んでくれたのです。若い人がつけるようなものを着たほうがいいということで」
「ふん……これを着て村瀬に抱かれる前にマンコの毛を見せびらかしたんだな」

私がそんな野卑な言葉を発したので、妻は驚いたような表情を見せました。

性に関して晩生である妻に対して、私はこれまで自分の欲望をまともにぶつけるようなことはしませんでしたし、妻の嫌がる行為は控えてきました。寝室での私は優しく、おおむね紳士であったといえます。それは私の気の弱さのせいもありますし、妻が私にとって思春期の頃からの偶像とも言うべき存在だったからでもあります。

「そんな嫌らしいパンティをはいて、若い村瀬に迫ったんだろう。『ねえ、村瀬君、香澄のマンコの毛を見て』ってな」

私が嘲笑するようにそういうと、妻が真っ赤な顔をして反論します。

「そんなことは言っていませんわ」
「言っていなくても、そんな毛が透けるような下着を着けて村瀬の前に立ったということは、見てと言ってるのと同じことだ」
「……」

妻はこれ以上反論しても無駄だと思ったのか、ぐっと押し黙ります。

「言ってみろ」
「え?」
「その時のお前の気持ちを口に出せといっているんだ。村瀬に見られて感じたか? そうだな、その時のことを思い出し、マンコを突き出しながら『村瀬君、香澄のマンコの毛を見て』と言ってみるんだ」
「……そんな」
「言えないか。そうか、香澄は村瀬のことを『真一さん』と呼んでいるんだったな。『真一さん、香澄のマンコの毛を見て』。どうだ、これなら言えるか?」
「……」
「俺の言うことは何でも聞くんじゃなかったのか?」

私の言葉に妻はため息をつくと、開き直ったように顔を上げ、強制された言葉を小声で吐きました。

「真一さん……香澄の、ま、マンコの……け、毛を見て……」

妻がついにそんな卑猥な言葉を口にしたので私は痛快になり、声を出して笑います。

「よくそんな破廉恥な言葉を口に出来るもんだ。香澄はそんな女だったのか」
「……あなたが言えといったから」
「何か言ったか?」
「いえ……なんでもありません」

妻は頬を染めてうつむきます。

「もっとはっきり、大きな声で言ってみろ」

妻はびくりと肩を震わせ、私の顔を恨めしげに見つめますが、やがて再び口を開きます。

「真一さん、香澄のマンコの毛を見て……」
「もっと大きな声で」
「香澄のマンコの毛を見て!」

妻は自棄になったようにそう言うと、ゆらゆらと腰部を揺らせます。私は妻の背後に回ってぐいと抱きしめ、豊かな乳房をブラジャー越しに揉みあげました。

「ああ……」
「どうだ? 村瀬に見られているような気分になったか?」

妻は苦しげな表情で小さくうなずきます。私は片手を妻の股間に伸ばし、小さなパンティの中に滑り込ませます。驚いたことに妻の秘奥は早くもじっとりと潤んでいました。

「……感じているじゃないか」
「嫌……」
「村瀬に見られているような気分になって感じたのか、ええ?」

妻は私の言葉を否定するように首を振ります。

「違うのか? それじゃあ、どうして濡れている? お前が愛しているのは村瀬じゃないのか?」
「ああ……」
「どうなんだ、言ってみろ」
WR 1/16(火) 18:14:21 No.20070116181421

「……し、真一さんに見られているような気分になって……感じました」

妻は苦しげな表情で答えます。それは私にとって腹立たしい答えであるはずですが、なぜか妻の凄艶な表情を見ているとたまらない興奮を感じます。私はズボンの下で固く勃起したものを妻のお尻にぐいぐい押し付けました。

「だ……駄目……一線は越えないと……」
「心配するな。約束は守る」

私はこのまま妻に挿入してしまいたい気持ちをぐっとこらえます。自分から約束を破ってしまったら何にもなりません。

「香澄のマンコは村瀬のものなんだろう。俺には使わせたくはないよな」
「……」
「どうなんだ、言え、言わないか」

私は妻の秘奥に指を差し入れると、ゆっくりと抽送をはじめました。くちゃっ、くちゃっというぬかるみを歩くような音が聞こえます。

「ああっ……」
「この浮気女め。お前の本心を言わないか。香澄のマンコは真一さんのものです、とな」
「そんな……」
「何を格好つけてるんだ」

私は指先で屹立した妻のクリトリスをつまみあげました。「ひいっ」という絶叫が妻の喉から迸り出ます。

「あっ、あっ、か、香澄のマンコは、真一さんのものですっ」
「俺にはもう使わせないんだろう」
「は、はいっ」

妻は再び叫びます。

「あ、あなたにはもう、使わせませんっ、あ、ああっ!」

異常な快楽の中で妻は気をやり、背後から抱いている私に体重を預け、ブルブルと身体を震わせます。唇を求めると妻はためらわず私の唇に合わせてきます。

「うっ、うっ……」

私は妻が陶然とした表情で預けてくる舌先を貪るように吸い続けました。


立ったまま気をやった妻を私はベッドの上に乗せ上げます。そして両手をベッドに木枠に、両足を大きく拡げてゴルフのクラブを使って縛り付けました。興奮からやや醒めた妻は、恨めしそうな顔を私に向けています。

「……あなたに、こんな趣味があったとは知りませんでした」
「こんな趣味とはなんだ? SMのことか」

私は妻のあられもない姿を楽しげに見下ろします。

「別にSMが趣味というわけではない。むしろ香澄の趣味に合わせてやっているくらいだ」
「私にこんなおかしな趣味はありませんわ」
「さあ、どうかな……」

私は妻のブラとパンティを外します。紐で固定されているためあっさりと外れたパンティを裏返しにすると、妻の鼻先に突きつけました。

「愛してもいない男に悪戯されて、マンコをこんなに濡らす女がそんな偉そうなことを言えるのかな?」

妻はカッと赤くした顔を逸らせます。

「どうなんだ、言ってみろ」
「……愛していないわけじゃありませんわ」

妻は小声でそんな風に答えます。

「そうか、それは光栄だな。しかし、いずれにしても村瀬のほうをより愛しているのだろう。最愛の男がいながら他の男に悪戯されてマンコを濡らすとはどういうことだ?」

妻は口惜しげに唇を噛みます。その表情を見ていると私はなぜかたまらなく興奮してくるのを感じるのです。

WR 1/16(火) 18:16:34 No.20070116181634

私はベッド脇の引き出しからデジタルカメラを取り出すと、あられもない姿を晒している妻にレンズを向けました。妻は私の行為に驚き、悲鳴に似た声を上げます。

「あ、あなたっ、な、何をするつもりですかっ!」
「何をって、見てわからないのか? 香澄の裸を撮影するんだ」
「や、やめてっ! 気でも狂ったの!」
「何をおかしなことを言っている。亭主が女房の裸を撮影してどこが悪い。それに香澄は俺の言うことは何でも聞くと誓ったんじゃないのか?」
「そ、そんな……やっていいことと悪いことがありますわっ」

妻はもともと羞恥心が強く、写真を撮られるのも好きではありません。したがって裸の写真を撮影するなどもってのほかです。これまで何度か妻に、他人には絶対に見せないという条件で裸を撮らせてくれと頼んだことがあるのですが、すげなく断られていました。

「やっていいことと悪いことの区分は最初に言ったとおりだ。暴力をふるったり、人前で恥をかかせたりはしない。逆にそれ以外なら何でも言うことを聞くということだ」
「写真に撮られたりしたら、誰に見せられるかわからないじゃありませんかっ!」
「ふん……」

私は構えたカメラをいったん下ろします。

「それじゃあこうしよう。撮影したデータはカードに入れて、離婚するときに香澄に渡す。その間、2枚しかプリントしない。1枚は俺が持って、これも離婚するときにまとめて香澄に渡してやろう」
「……もう一枚はどうするんですか?」
「決まっているだろう。村瀬に送ってやるんだ」
「い、嫌っ!」

妻は驚愕に目を見開きます。

「や、やめてっ。真一さんにこんな姿を見せないでっ!」
「駄目だ。俺は他人には見せないといったが、村瀬はもう香澄にとって他人じゃないだろう。香澄のこの大股開きの写真と一緒に、マン汁でべっとり濡らしたパンティも送ってやろう」
「嫌、嫌よっ!」
「いい加減にしないか、約定違反だぞっ!」

私の叱咤に妻はびくっと身体を震わせ、黙り込みます。

「やつも半年間、香澄との接触を立たれて禁欲生活を送らなきゃいけないのはつらいだろうから、自家発電用のズリネタを送ってやるというんだ。どうだ、女房を寝取った相手にこんな気遣いをするなんて親切だと思わないか?」
「……ひどい……ひどいわ……」

妻はついにシクシクすすり泣き始めました。

「泣いていたらズリネタに使えないだろう。それとも村瀬はそういうのが好みか?」

私はそんな風にからかいながら枕を妻の首に下に置き、画面の中に妻の顔と秘奥が同時に入るようにすると再びカメラを構え、妻の股間にレンズを向けました。

「ほら、上の口と下の口が仲良く並んでいるぞ。なかなかいい眺めだ」
「撮るなら早く撮って……」
「そう急ぐな。折角だからにっこり笑って、チーズと言ってみろ」

そういわれてもなかなか笑えるものではありません。ようやく妻が引きつったような笑いを浮かべるのを見た私はシャッターを切りました。

少しずつ角度を変え、妻の卑猥な写真を何枚か撮影すると私は通信販売で注文したもう一つの品物が入った箱を取り出しました。

「マンコを撮影されながらまた濡らしやがって……香澄は露出趣味まであったのか」
「……」

私がそうからかいながら妻の顔に顔を近づけると、妻は表情をこわばらせて顔を背けます。妻の気持ちは早くこの辱めから逃れたいという一心かもしれません。

「残念ながら俺は香澄のことは抱かない、一線は越えないと誓ったからな、いくら香澄の準備が十分でも、ここに入れてやるわけにはいかない、わかるな」

しきりに平静を装っている妻をからかうように、私は妻の恥丘のあたりをポン、ポンと叩きました。

「ね、念を押されなくても……わかっておりますわ」
「そうか……もちろん村瀬のチンポも少なくとも半年は銜え込むことは出来ないぞ。助平な香澄に我慢が出来るかな?」
WR 1/17(水) 19:07:54 No.20070117190754

「が、我慢できますわ。ひどいことをおっしゃらないで」

妻は涙で潤んだ目で私を恨めしそうににらみます。

「そうかな? 村瀬の若いチンポを毎日のようにハメ狂っていた香澄が、半年間も禁欲するのはきついだろう?」
「毎日なんかしていません」
「まあ、そうむきになるな」

私がおかしそうに笑うと、妻はさらに眉を吊り上げ、私をにらみます。

「そんな香澄のためにこんなものを注文してやったんだ」

私は箱の中から通信販売で購入したあるものを取り出し、妻の目の前に突きつけました。

「きゃっ!」

妻の目が驚愕に見開かれます。私が購入したのは黒光りした巨大なバイブです。先端は三叉になっており、クリトリスとアヌスを責めるためのアタッチメントがつけられるようになっていますが、今はもちろんそれはついておらず人間のペニスを形状はそっくりのまま大きくしたような状態です。

「村瀬に可愛がられるまでこれが村瀬の代わりだ」
「そ、そんな……大きすぎますわ」

妻が思わず発した言葉に私は噴き出します。

「なんだ、大きくなければ玩具のチンポでも良いということか?」
「そ、そういう訳では……」

妻は首を振りますが、そのバイブの迫力に思わず見入っているのがおかしく感じます。

「村瀬のものとどちらが大きい?」

妻はまた恨めしげな目をちらりと私に向けます。

「どうなんだ、答えろ」
「こんな大きなものは普通の人は持っていないと思います……」
「どういう意味だ? 香澄は俺のものと村瀬のもの以外のチンポを何本も知っているのか」
「そんなことは……」
「それなら普通の大きさなんてわからないだろう……」

そんな風に追求すると、妻は恥らうように顔を伏せます。

「女性週刊誌なんかに書いてあって……」
「ふん、香澄もそんな記事を読むのか?」

妻は消え入りそうな風情で頷きます。

「香澄はそんな俗っぽいことには興味がないと思っていた。意外だな。長く夫婦をやっているつもりだが、わからないことはあるもんだ」

私がそう言うと妻はちらと私のほうを見ます。

「なんだ? 何か言いたいことがあるのか」
「それは私も同じです」
「どういう意味だ?」
「これまであなたが……こんなに嫌らしいことが好きだとは思っていませんでした」
「ふん……」

私は皮肉を言われたのかと妻の表情を窺いますが、特に強い嫌悪感めいたものは浮かんでいません。

「とにかくこれから半年、香澄のマンコに入るのはこのバイブだけだ。半年の付き合いになるのだから、親しみがわくようにバイブに名前をつけてやろう」
「馬鹿なことはやめてください……といっても無駄なんですね。好きなようにして」

妻は拗ねたように顔を逸らせます。

「そうだな……シンイチってのはどうだ。うん、なかなかいい名だ。これからこのバイブの名前はシンイチだ」
「悪趣味ですわ……」

妻が恨めしそうに私を睨みつけます。
WR 1/17(水) 19:11:00 No.20070117191100

私はかまわずバイブのスイッチを入れます。スイッチは「弱」ですが、そのグロテスクな玩具がウィーンという機械音を立てながら小刻みに震えだすと、妻はおびえたような顔つきになります。

「バイブは初めてか? 香澄」
「あ、当たり前ですわ……」
「村瀬は使わなかったか。まあ、奴は若いからこんなものは必要ないだろうな」

私は含み笑いしながらそういうとバイブの先端を妻の内腿にそっと触れさせます。

「あっ……ああっ……」

妻は始めて体験するバイブの感覚にたちまち声を上げ始めます。

「どうした? 感じるのか」
「い、いえっ……あっ……」
「無理しなくていいぞ。ここが香澄の性感帯だということはわかっている」

私はまるで羽箒で撫でるような微妙な手つきで、妻の内腿を刺激します。妻とセックスするときはそこは指先や唇、掌などを使ってくすぐるように愛撫します。妻はそこが特に弱いようで、そこを責めているうちに蜜壷から溢れんばかりの愛液をこぼれさせるのが常です。

「そういえば、村瀬には香澄の性感帯を教えているのか?」
「え……ええっ?」
「女の感じる場所を教えてやっているのか、と聞いているんだ」
「そんなこと……」

妻はなよなよと首を振りますが、突然「ああっ!」と悲鳴を上げます。私がバイブで妻の陰裂をそろりとなで上げたのです。

「なんだ、教えてやっていないのか」
「……」
「奴は経験が浅いのだろう。どうして香澄がリードしてやらない」
「だって……恥ずかしい」
「何をカマトトぶってるんだ」

私はバイブの先端を妻のクリトリスにそっと押し当てます。

「おっ、おおっ!」

妻は獣が吼えるような声を上げました。

「今度会ったらぜひ教えてやれ……といっても半年後のことになるがな」
「う、ううっ……」

妻は必死に快感に耐えているようです。私はバイブを使って妻を追い上げては、絶頂寸前で落とすという「寸止め責め」を加えます。妻の身体を熟知している私がバイブという強力な武器を持ち、当の妻は縛られて身動きが出来ないのですから、これくらいは容易なことです。妻はあっけなく脳乱の極致に追い込まれました。

「なんなら俺が直接教えてやってもいいぞ。香澄の取扱説明書だ。ここをこうしたら感じるということをリストにしてしっかり引き継いでやろう」
「い、意地悪っ……ああっ……」
「どうした? 何か言いたいことがあるのか」
「く、くださいっ……ああっ……」
「何だ? 何が欲しいんだ?」
「あ、あなたの……」
「何を言っているんだ。お前は村瀬を愛しているんじゃないのか」

妻は私の言葉にはっとした顔つきになり、次になんとも情けない表情になります。私にじらされ続けた妻はおそらく訳がわからなくなって、いつものように私とのセックスをしている気分になり、思わずそう口走ったのでしょう。私も妻の痴態を見てすっかり昂ぶっていますので、妻の秘奥を貫いてやりたい気持ちは山々ですが、ここで易々と一線を越えるわけには行きません。

「ああっ、わ、私、どうすればっ」
「どうすればじゃない。そのためにこれを買ってやったんだろう」

私はバイブの先端をほんの少し妻の濡れそぼった秘奥に挿入します。

「あ、あっ、ああっ……」

妻が貪欲に腰を突き出し、それを迎え入れようとするのを見計らい、私はさっとバイブを引きました。行き場を失った妻の大きな尻は空しく揺れ、妻はさも口惜しげにすすり泣きます。
WR 1/17(水) 19:12:10 No.20070117191210

「も、もう……じ、じらさないでっ」
「バイブでもいいのか」

妻はガクガクと頷きます。私は再びバイブで妻の秘奥の入り口をくすぐります。

「折角さっきバイブに名前をつけてやったんだ。『香澄のマンコにシンイチさんをください』と言ってみろ」
「そんなっ……」

妻は苦しげに顔をしかめます。

「言えなければいつまでもこのままだ。気が狂っても知らないぞ」
「あ、ああーっ!」

妻はぐっと身体を弓なりにそらすと「香澄のマンコにシンイチさんをくださいっ!」と叫ぶように言いました。

「よしっ!」

私は黒光りしたバイブで妻を深々と貫きます。巨大なバイブをくわえ込んだ妻のその部分は生き物のようにたちまちキューンと収縮し、妻は「い、いきますっ!」と絶叫します。私は急いでパジャマのズボンとパンツを同時に下ろすと、猛り立ったものをしごき、妻の白い腹の上に射精しました。


それから私はバイブを使ってもう一度妻をイカせると、熱い蒸しタオルで妻の汚れた腹部を拭い、縄を解きました。しばらく妻は無言のままで手首の縄の痕をさすっていましたが、やがて寝室を出ると浴室に行きました。

シャワーを浴びて来た妻は私に背を向けてベッドに入りました。ちらと様子を窺うと、妻の肩が小刻みに震えています。私の思うままに嬲られたことが口惜しくて泣いているのかも知れません。

私は私で、妻との行為の際に感じた不思議な興奮の原因は何なのかを考えていました。25年もの間夫婦として過ごした妻に対して、改めてこのような昂ぶった気持ちを感じることが私には意外でした。

村瀬によって妻を寝取られたことを確認する被虐的な感覚、私を裏切った妻へ復讐しているという嗜虐的な感覚、そしてすでに村瀬のものとなった妻を逆に寝取っているような倒錯した感覚――それらが重なり、錯綜することによって大きな興奮と快感が得られたのでしょうか。

(まだだ、こんなものは序の口だ)

半年後には妻は村瀬のものになっているかも知れない。それなら私は、この奇妙な快感をとことんまで味わい尽くしてやるという気分になっていました。


次の朝、妻はいつものように私に朝食を用意します。私はいつものように吐き気を催すことを覚悟して妻の作ったものを口にしました。

(おや?)

妻の不倫を知ってからずっと知覚していた嫌悪感がなぜか湧いて来ません。妻が焼いた目玉焼きも、トーストも、違和感なく喉を通って行きます。私は思わず妻の方を見ました。

私と目があった妻は、怒ったような表情をして顔を逸らしました。おそらく妻の心の中は村瀬を裏切ってしまったのではないかという自己嫌悪の思いで一杯なのでしょう。私に対して最後の一線を守り通したというのが妻の唯一の心の支えになっているのではないでしょうか。

私はなぜかひどくおかしくなって必死で笑いをこらえます。私は当面は妻の矜持となっているものを奪うつもりはありません。私の戦い、妻と村瀬に対する復讐戦は始まったばかりなのです。

また、村瀬と話をした中で、彼の弱点らしきものがいくつか浮かび上がって来ました。そこをつけばこの勝負の逆転は可能かも知れません。しかしこれも焦りは禁物です。

妻はフルートの個人レッスンはやめましたが、スクールの講師は続けているようです。村瀬と会っているのではないかという懸念はありましたが、私は少なくとも妻の方から今すぐ約束を破ることはないと考え、しばらく放置することにしました。あれだけ念を押し、書面にまでさせた約束をこんなに早く破るようなら村瀬もそれまでの男です。また、そんな村瀬を許すような妻なら私も未練はありません。
WR 1/18(木) 17:57:30 No.20070118175730

しかしあまり急激に妻を追い込むと、行き場を失った妻は村瀬に助けを求めるかもしれません。そうなったらそうなったでも良いのですが、折角開始した勝負をもう少し楽しみたい気持ちのほうが今は大きいのです。

木曜、金曜と私はまた必死で仕事と、体調の悪い社長に変わっての接待をこなしました。土日に休日出勤しなくてすむようにです。私はその一方で新しい商品をネット通販で注文していました。金曜の夜に注文した品物が届いているのを確認した私は、妻との2回戦を土曜の夜に行うことにしました。

私は極力穏やかな表情を保つようにし、妻に対しても世間話程度の会話を交わすようにしました。木曜の朝は硬い表情をしていた妻も、徐々にほぐれて来たのか時々笑みさえ見せるようになります。水曜の夜の出来事は妻の裏切りを知ったことによる私の一時的な激しい怒りのせいで、もともと穏やかな性格の私はそんなに長く怒りを継続させることはないと妻は考えたのかも知れません。土曜の夕食の時には妻は私の冗談に声を上げて笑うほどです。

食事を終え、お茶を飲んでいる時に私は妻に告げます。

「ところで例の写真だが、奴に送っておいたからな」
「写真って……」
「香澄が素っ裸でマンコを丸出しにしている写真に決まっているだろう。香澄が汚した赤いパンティと一緒に村瀬に郵送しておいた。今日あたり受け取っているころだろう」

妻の顔がさっと青ざめ、次に真っ赤になりました。

「な、なんてことを……」
「言った通りのことをしただけだ。香澄も納得していただろう」
「納得なんかしていません!」
「俺の言うことには逆らわないんじゃなかったか?」

そういうと私は通信販売で届いた新しい包みを妻に渡しました。

「今日はこれだ。風呂に入ったらこれを着て寝室に来い。言っておくが上からパジャマを羽織るのは禁止だ」

妻は呆然とした表情で紙包みを眺めていました。

「どうしてこんなことを……私がそんなに憎いのですか」
「寝言は布団の中だけにしろ。原因を作ったのはお前だ」

妻はしばらくの間私を睨みつけていましたが、やがて立ち上がり、荒々しく包みをつかむと部屋を出ました。大きな尻を振りながら浴室に向かう妻の姿を、私は横目で追います。

浴室からシャワーの音が聞こえ始めたとき、家の電話が鳴りました。

「はい、渡辺です」
「村瀬です、いったい、ど、どういうつもりですかっ!」

受話器をとると、いきなり村瀬の大きな声が聞こえてきました。

「なんのことだ?」

私はわざととぼけます。

「あ、あの写真は……」

村瀬は怒りと興奮のあまり言葉が続かないようです。

「ああ、香澄の写真か。気にいってくれたか」
「香澄さんには手を出さないはずじゃなかったんですか」
「手を出さないとはいっていない。一線を越えないといっただけだ」
「あの状況で一線を越えないはずがない」
「世の中のルールを守らないで開き直るお前たちと一緒にするな。俺は言ったことはきちんと守る。それとも何か証拠があって言っているのか?」

私が低い声でそういうと村瀬は言葉を詰まらせました。

「それに、この電話は厳密に言えば約束違反だ。香澄とは連絡しない、電話も駄目だというのを忘れたのか」
「ご、ご主人に話すつもりでした」
「香澄が電話に出たらどうする。その時点で約定違反だ。5000万円を請求されてもいいのか?」

村瀬はぐっと黙り込みました。

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