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北原夏美 四十路 初裏無修正

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女性とはどういうものなのか。

それを私に教えてくれたのは、他ならぬ思春期から青春期に出逢った何人かの女性達でした。
その一人一人が、女性の持つ『性』そのものを私に教えてくれたのです。

当時の事を振り返る時、彼女達との間に生まれた小さなエピソードの一つ一つを鮮明に覚えているのなら、それはそのまま私の心の宝物なんだろうと思いました。
それが喜怒哀楽のどれに繋がる記憶であっても、やはり宝物であることには変わりはありません。

そんな彼女達との出逢いや別れ。
それはそのまま私自身の再出発のスタートラインになりました。

もう30年近くも昔のことです。
でもあの時、彼女達と出逢わなければ…今の自分は無かっただろうとすら思えてくるのです。

タイトルの『ビギニング(beginning)』には、そんな想いを込めてみました。

彼女達への語り尽くせない感謝の気持ちと共に…
第一章①電車の中で

私は女性に対しまったく免疫も無い多感な時期に、痴漢、いえ痴女に出遭いました。
しかも二回も。

今まで生きてきた中で、男同士で自慢できるような事と言ったら、おそらくこれくらいのことしか無いと思います。

初めての痴女との遭遇は、まだ高校に電車通学していた頃のことでした。
その日の朝、満員電車に乗り込むと、私はいつものように混み合う出入り口付近を嫌い、車両の中ほどまで進みました。
そこで両足の間にカバンを挟む様にして置き、文庫本を取り出すと対面シートの肩の部分の取っ手を片手で掴み、そして読み始めました。

(ぷにゅ)

私の文庫本を持つ左手の肘に何かが当たりました。
誰かの体に当たったのは判りましたので、失礼の無いよう私は自分の肘を体に密着させるようにして引っ込めました。

(ぷにゅ)

また肘に何かが当たります。
満員電車の中、私はこれ以上詰めることもできません。

私は顔を上げ、窓の外を見るフリをして窓ガラスに映る私の隣の人物を見てみました。
20代後半のくらいの整った顔立ちのスーツ姿の女性でした。
スーツの襟を形の良い胸が押し上げています。 Dカップはありそうな…。

その女性は私と同じように窓の方を向いていました。
電車は短いトンネルに入り、窓ガラスが鏡のように車内を映し出しました。

(あっ…)

その女性は私を見ていたのです。
窓ガラスを通してハッキリと目と目が合ってしまいました。
そして… 微笑まれたような気がしました。

その頃まだ純情だった私は、慌てて視線を本に戻しました。
たったそれだけの事なのに心臓が早鐘のように鳴り出しています。

私は自分の肘の辺りを横目で見てみました。

なんと、その女性はスーツの襟からブラの透けるブラウスに納まった胸を突き出すようにして私の肘に押し付けているのです。

私の全神経が肘に集中してしまいました。
読んでいる本の内容などまったく頭に入りません。
おそらく耳まで真っ赤になっていたと思います。

その女性は柔らかい胸の頂き辺りを、ゆっくりと回すように私の肘に押し付けてきます。
私の肘は女性の乳首が硬く尖り始めたのを感じ取りました。

(やばい! 起っちゃう!)

乳首のコリッとした適度な硬さの感触が肘に伝わってきます。
それは時折離れてはツンッツンッと私の肘を突付き、先端だけで触れては乳房全体を押し付けたりと私の肘を弄びました。

(俺…誘われてる? どうしよ…どうしよ…)
(やめとけ。 下手に手を出して「痴漢っ!」って騒がれたらどうするっ!)
(何言ってんだっ! 今すぐ振り返って乳揉めっ! 今すぐにだっ!)

私の降車駅までの約10分間、私の心の中で天使と悪魔が取っ組み合いの喧嘩をし始めました。
もう文庫本の文字に焦点すら合いません。

天使と悪魔の決着が付かないまま、電車は私の降車駅に着いてしまいました。
その女性も降りる駅だったようです。 私の前を歩いています。

(声を掛けようか…。 勇気を出せっ! 出すんだっ!)

でも…。
小心者の私は彼女の後姿を見送るだけで終わってしまいました。

その女性とはその後何度か遭遇し同じ目に遭いましたが、結局、小心者の私からは何もできませんでした。

(痴漢って男だけじゃ無い… 女だって痴漢することがあるんだ…)

それは自分にとって一つの衝撃でした。
その女性の生の乳房も見たことが無いのに、その感触だけはしっかりと肘が覚えていました。

私は駅のトイレに走りこみ、遅刻ギリギリまで自慰行為を繰り返したのです。
−−−②場末の映画館

二度目の痴女体験は大学生の頃でした。

友人との待ち合わせの時間までの暇つぶしにと、数百円で入れる格安の映画館を見つけたので入ってみたのです。
どうせ1時間足らずの時間だし座るまでも無いと一番後ろの壁に立って見ていました。

私が入って間もなくして、女性が一人、入ってきました。
その女性は超ミニのワンピースを着ていて私とは5メートルほど離れた場所に立つと、同じように壁に寄りかかるようにして映画を見始めました。

私は横顔をチラッ見てみました。
ピンヒールを履いたロングヘアのとても綺麗な人です。
その雰囲気から、一目見て風俗関係の人だと判りました。
でも… 何だか泣いているように見えます。

(何で泣いているんだろ。 でも、こんな所に一人で居たら痴漢に狙われるって)

私はスクリーンを見続けましたが、その女性の事が気になって気になって、ストーリーなどまったく頭に入りません。
そうこうしているうちに私とその女性との距離が狭まっているのに気付きました。

(って、おいっ!!!)

なんと、その女性の向こう側に、おじさんがピッタリと寄り添うように立っているのです。
どうやら痴漢のようです。
女性は胸や股間を触ろうとする痴漢の手を振り払いながら腰を引いて逃れようとしています。

彼女は痴漢に追われる様にして私の方へ少しずつ逃げて来ていたのです。

とうとう私のすぐ隣に立つことになりました。
私と痴漢に挟まれる格好でそれ以上逃れることができません。

痴漢は女性が声を上げない事をいいことに、執拗にちょっかいを掛けています。

(こんな所にそんな格好で来たら、そりゃ誰だって痴漢するよ。 でも嫌がってるみたいだしなぁ…)

私は意を決してその女性の左腕をグイッと掴み体を引き寄せると私の体の左側へ立たせるようにしました。
そして何か言いたげな痴漢の目を睨みつけアゴであっちへ行けと促しました。
痴漢は諦めてその場を離れて行きました。

(ありゃあアンタが悪いよ)

痴漢を誘うような格好で入って来た女性に少し腹を立てていたのです。
私は女性を無視したままスクリーンを見続けました。
映画のことなど、どうせ頭に入らないのは判っていましたが、そうするしかありませんでした。

(えっ???)

女性が私に体を寄せてきました。
ノースリーブの腕が腕組みした私の腕にピッタリと張付いています。
心臓がバクバクし始めました。 でも女性の顔をまともに見る事ができません。

私の腕のその部分だけが汗を掻き始めたのが判ります。
やがてその女性は、私の腰に腕を回すと胸を押し付けるようにして頭を私の肩にもたれるようにして寄り添ってきました。

「痴漢から助けてくれてありがと…。 しばらく貴方のそばに居させてね?」

何か返事しなきゃと思うのに、乾ききった唇がパクパク動くだけで何も言葉が出てきませんでした。

(ウフッ…可愛いのね…)

全身が緊張で金縛り状態でした。 情けない事に膝までガクガクと震え出しました。

小心者の私は女性をナンパした事も無く、まっとうに生きてきた男です。
それまで何人かの女性と付き合ったこともあり童貞でもありませんでしたが、こんなに綺麗で大人びた色気を漂わせる女性とは一度も話をしたことが無かったからです。

(寒いわね、ここ)

確かに館内は冷房が効き過ぎて寒いくらいです。
女性は私の前に立ち、私の手を取ると、私が体の前に組んでいた腕を降ろさせ、その手を自分の胸の辺りに巻きつけさせました。
要するに私が女性の後ろから抱き抱えるような格好です。
そして、私が羽織っていた股下まである長めの丈のウィンドブレーカーの懐に潜り込むようにして体を包み込んでしまいました。

知らない人が見たら、私達は仲睦まじいカップルに見えたと思います。
でも私の膝はカクカクし続けています。

その女性の体温と共に髪からはとても良い香りがしました。
今まで嗅いだ事の無いような甘い香り…。

形の良いヒップの柔らかさも薄い布地を通して伝わってきます。

(やばいっ! 俺、思いっきり起ってきた!)

私は腰を引き、分数の割り算を頭に浮かべ思考を逸らそうとしました。
私の分身はそんな事にはお構い無しにムクムクと鎌首をもたげ始めました。
それに気付いたのか、女性はクスッと笑い、バッグからハンカチを取り出し唇に咥えるとバッグを私の手に持たせました。

(いい? じっとしてるのよ?)

なんとその女性はウインドブレーカーの中で後ろ手に手を回すと、掌で私の股間を抑えるようにして触り始めたのです。
そして既に私の硬さが充分なのを確認すると今度はジーパンのファスナーを焦らす様にゆっくりとゆっくりと引き降ろしていきました。

(ジッ…ジィィィー…)

ジーパンの中に手が入って来ます。 やがてそれはブリーフの中に…。

私の怒張はしっかりと… その女性の掌に握られてしまいました。
−−−③翻弄

女性は左手も後ろ手に回すと、器用にズボンから私の分身を取り出しました。
そして後ろ手に回した両手で亀頭と竿を包み込むように絶妙なタッチで触り始めました。

やがて私のペニスから先走り汁が出てくると、それをペニスの先端に塗り付けるようにして掌で刺激してきました。

(やばいっ! 出ちゃうっ!)
(いいわよ? 出して…)

その言葉を待たずに、私はビクンッビクンッと腰を引くようにして何度も何度も射精し続けました。
女性はそれをハンカチで受け留めながらペニスを扱いています。
私の射精が終わったのを確認すると精液でヌルヌルに濡れたペニスを再び扱き始めました。
今逝ったばかりだというのに…また射精感が襲ってきます。

(まだ駄目っ!)

射精直前である事を察知したのか女性は刺激するのを止め、竿の根元をギュッと握り締めました。
私が落ち着くのを待っています。

女性は私に背を向けたまま、ワンピースの裾を持ち上げショーツをお尻の方だけ下げたようです。
私のペニスが冷たいお尻に挟まれたのが判りました。
女性は後ろ手に私の腰に手を当て、少し腰を下げるよう促しました。
そして私のペニスを股間に導きました。

ペニスがシャリシャリとした陰毛とヌメヌメと濡れた蜜壷の感触を伝えてきます。
女性はやや前屈みになると自らの蜜壷に当てがいました。
ペニスの先端が熱く熱を帯びた膣口に当たっているのが判ります。

女性はピンヒールの踵を上げ爪先立つようにすると、ペニスの先端を導きながら、ゆっくりと踵を降ろしていきました。

ニュル…。

(あっ…)

ペニスの先端が狭い膣口をくぐり抜け熱い粘膜に包まれたのが判ります。
やがてそれは…1センチ…2センチと、粘膜の中に飲み込まれていきました。

(あぁ…いい…)

女性は完全に私の分身を飲み込み終えると深い吐息を漏らしました。
女性は前屈みになったまま私のウィンドブレーカーに手を交差させて掴まると私に囁きました。

(ね、ゆっくり動いて…)

私は女性の細い腰を掴むとゆっくりと抽送を繰り返し始めました。
射精感に囚われぬよう、とにかくゆっくりと…深く深く奥まで…そしてヌルヌルと引き出すように…。

(上手だわ…続けて…)

私は右手を女性の前に回すと服の上からクリトリスの辺りを刺激しました。
左手は女性の胸を揉み込むようにしながら…。

女性の子宮口が降りてきて私のペニスの先端に吸い付いてくるのが判りました。
もう我慢も限界でした。
私はさらに奥まで届けとばかり突き上げました。

(んっ…あっ…あっ…)

女性は私の射精の前兆を捉えると顔をあげ髪を振りました。
膣奥全体で私の分身を締付けてきます。

(貴方も…)

ぎゅぅぅぅ…。
私はその締め付けをペニスに感じた瞬間、ドクドクと射精してしまいました。
私のペニスはさらに強く締付けられ続けています。
女性の全身が硬直しているのが判りました。 乳房を掴む私の手に大きな呼吸が伝わってきます。

女性はしばらく挿入させたまま体を密着させていましたが、やがて私のペニスをゆっくりと抜き取りました。
そして服装を正してから私の前に向き直りしゃがみ込むと、私のウィンドブレーカーで顔を隠すようにしてペニスをしゃぶり始めたのです。

やがて最後の一滴まで吸い出すと濡れたティッシュで私のペニスを丁寧に拭き始めました。
自分の手指も拭っています。
そして素早くショーツを足から抜き取りました。

(ね、あいつらが怖いから外まで送ってくれる? はいこれ。 お駄賃(笑))

私の手に、たった今まで履いていたショーツを握らせました。
辺りを見回せば、確かに数人の痴漢らしき者たちが私達を見ています。
すぐそばで先程までの行為の一部始終を見られていたのです。

私は放心状態のままコクッと頷くと女性に手を引かれるようにして映画館を出ました。

雑居ビルの陰まで行くと女性はバッグからカードを取り出し何やら書き込み始めました。
そして私のジーパンのポケットにそのカードを差込むと私の耳元で囁きました。

(無口なのね貴方…。 でも、きっと… 女を泣かす男になるわ(笑)

 ね、したくなったらいつでも電話して。

 それじゃ… またね(笑))

私の唇に軽くキスをすると何事も無かったかのように背を向け立ち去っていきました。

私は手にショーツを握り締めたまま、まるで夢のように通り過ぎた時間がまだ理解できないままでいました。

(俺… 一生の運を使い果たしたかも知れない…)

街角に女性の姿が見えなくなると我に返り、友人との待ち合わせの時間が迫っている事を思い出しました。

(あいつに言っても信じないだろうな、こんなこと…)

待ち合わせの場所に向かって走り出しながら、私はジーパンのポケットから女性がくれたカードを取り出しました。
それには、お店の電話番号を二重線で消して電話番号が書いてありました。

『朝なら居ます。 XXX−XXXX』

(やった! また彼女に逢えるかも知れないっ!)

それが嬉しくて、私はガードレールを一気に飛び越えると猛然とダッシュを始めました。
第二章①彼女への贈り物

その女性は、私より7つ年上の28歳のソープ(当時トルコ風呂と呼称)に働く人でした。
私が割のいい夜の時間帯のアルバイトを好んでしていたせいで、その人とは生活のパターンがよく似ていました。
私のアルバイトが休みの時はその人を店まで送り、鍵を借りて部屋で帰りを待っていることが多くなりました。

その人は売れっ子だったようです。
毎日何人もの男の欲望を受け留めては「あー疲れたぁ」と言って帰ってきました。
私はそんな彼女を、大変な仕事なんだなと思いこそすれ、嫌だなと思った事は一度もありませんでした。

「私が誰かに抱かれているのが気にならないの?」
「別に。 それが仕事だと思っているから…」
「ふーん、変わってるね」
「いつも疲れているみたいで…それが可哀想…。 見ていて辛くなる」
「そっかぁ…。 ありがと(チュッ♪) あ、待たせてゴメンね? 今すぐ作るから待っててね?(笑)」

彼女はどんなに疲れていても私には必ず手料理を食べさせてくれました。
休みが合えば遊園地や映画、時には飲みにも連れて行ってくれたりと、年下の私を何かにつけ可愛がってくれたのです。

支払いはすべてその女性が済ませてくれました。
ですが、お小遣いなどの現金を貰ったことなどは一度もありません。

「子供じゃないんだから、男ならお金は自分で稼ぐのよ? いい?」

彼女はいつも、そう言っていました。

キャンパスに顔も出さずアルバイト三昧だった私には多少のお金はありました。
女に奢って貰うのは格好悪いと、せめて自分の分は自分で払うからと言っても聞いてくれる人ではありませんでした。

「何言ってるの子供のくせに。 私が誘ったんだから遠慮しなくてもいいの」

彼女はいつも、そう言っていました。

確かに自分でも子供なのか子供じゃ無いのか、よく分からない年頃ではありました。

彼女は同棲しようとも言いませんでした。
それどころか私が連泊することを絶対に許さない人でした。

「貴方はヒモじゃ無いんだから学校には必ず通いなさい」

彼女はいつも、そう言っていました。


私の就職が決まった年の冬。 彼女の誕生日の日。
私達は彼女の誕生日のお祝いと私の就職内定祝いを兼ね、中華街の高級飯店で食事をしようと待ち合わせをしました。
その頃、中華料理と言えばラーメン、チャーハンしか知らない私に、何種類もの料理を好きなだけ食べさせてあげるからと彼女が予約を入れてくれたのです。

その日、私はアルバイトで貯めた貯金の全額をはたいて指輪と花束を買いました。
彼女はその日、レストランに先に来て待っていました。
私は背中に隠し持っていた花束を差し出しました。

「はい、これ。 誕生日おめでと(笑)」
「わぁ綺麗。 ありがと〜♪」
「へへ。 今日はね、特別な日だからそれだけじゃ無いんだ」
「何?」
「これ…」

私はリボンで結んだ真っ赤な小箱をポケットから取り出しました。

「卒業したら結婚して欲しいと思って…(笑)」

私は彼女に喜んで貰えるとばかり思っていました。

彼女は…みるみるうちに目に一杯涙を浮かべると、私に向かって怒り出しました。

「バカッ! そんなこと… できるわけがないじゃない!」
「ど…どうして?」
「どうしてもっ! もぅ帰るっ!」

彼女は突然立ち上がると、コートを受け取り、そのまま外へと飛び出して行ってしまいました。

私は慌てて小箱を手に掴むと、食べてもいない料理の精算を済ませ、彼女の跡を追いました。
外にはチラホラと白いものが舞い始めていました。


遠くに見慣れた彼女の毛皮のコートを見付けました。
私は港のそばの公園辺りで、やっと彼女に追いつくことができました。
そして彼女の腕を掴んで引き止めました。

「待ってってば! どうしたんだよ。 俺、何か悪い事をした?」
「何も悪い事なんてしてないっ!」

彼女は振り返ると私に抱き付き、そして唇を重ねてきました。

「バカね…。 何も悪い事してないから怒ってるんじゃない…(泣)」

私の胸に彼女の嗚咽が響きました。

「意味が解かんないよ、そんなの…」
「駄目といったら駄目なのっ! 年上だし、第一、私…」
「そんなの関係ないっ! 本当に好きなんだっ! 卒業したら結婚したいんだっ!」
「だから、そんな事できないってば!」

「この指輪…受け取って貰いたくて一所懸命働いたんだ…」
「もうっ! そんな話、聞きたくないっ! 何よっ子供のくせにっ!」

『あっ!』

二人は同時に声を上げていました。

彼女が私の腕を振り払った拍子に、私の手から真っ赤な小箱が転がり落ちていったのです。
そしてそれはコロコロと転がり…港へと流れ込む川の水面に落ちていきました。

「ごめんなさいっ! 私… 私…」

彼女は目にいっぱい涙を浮かべたまま、私の手を振り払うと公園を走り抜けて行きました。

「あ、待って!」

私は彼女の後姿と、ゆっくりと流れていく小箱を交互に見ながら、まず指輪を何とか拾い上げなければと思い、辺りに道具になるような物は無いかと探しました。

でも、そんな物はどこにもありませんでした…。

私は小箱が港からの波に弄ばれ、やがて沈んでいくのを… ただ呆然と見ていました。

彼女が立ち去った小道を振り返れば、ただ粉雪だけが音も無く白い絨毯を紡ぎ続けています。

(本当なら二人で歩けた道なのに…)

そんな小道を、私は一人、歩き出しました。

終電までの間、彼女のマンションに何度か電話をしてみましたが、呼び出し音が空しく返って来るだけでした。
下宿先に帰る電車の中で、冷たい窓ガラスに額を当てると、哀しいのか、悔しいのか、わけのわからない涙が後から後から溢れ出してきました。


その後も彼女のマンションに何度か電話をしてみました。
彼女はお店も辞めてしまったようでした。

気が付けば彼女が住んでいたマンションの前に佇み、彼女の部屋を見上げていたこともあります。
部屋の灯りはいつも消えていて、インターホンにもドアのノックにも応えてくれる大事な人は居ませんでした。


私は指輪と共に彼女まで失くしてしまったのです。
−−−②再会

彼女の誕生日から、ちょうど2ヶ月くらいたった日の事です。

『え、らっしゃーぃ!』

私は失恋の痛手が癒えぬまま、いつものように24時間営業の牛丼屋で夕方5時から夜11時まのアルバイトを再開しました。

卒業まで、あと僅かの日数を残すのみです。

『え、らっしゃ…い…』

一瞬、その人が彼女だとは判りませんでした。
長かった自慢の黒髪を切りショートカットにしたその人は、カウンターの中の私のまん前の席に座りました。

「あの…ご注文…は…」
「並…」

『並一丁っ!』


(コトッ)

私が牛丼を置いても彼女はそれを食べようとはしませんでした。
そんな彼女の事がとても気にはなりましたが、私は他の客の対応に追われていました。

彼女はただ黙って…あちらこちらの客に対応する私の姿を見ていました。

「ごちそうさま…」

牛丼に最後まで箸を付けないまま、彼女はそう言うと私に代金を支払いました。

「ね、アルバイトが終わるのは何時?」
「11時だけど…」
「今日は何か予定はあるの?」
「いや別に…無いけど…」
「それじゃアルバイトが終わったらウチに来て」
「う…ん…」

--------------------------------------------------------------------

彼女のマンションの部屋のインターホンを鳴らしました。

「僕…だけど…」
「鍵は開いてるわ。 入って来て」

ドアを開けると部屋の中は真っ暗でした。

「灯りは点けないでっ! 鍵を掛けたら…お願い…そのままこっちまで来て…」

驚いた事にマンションの中には家具らしい家具は何一つ無くなっていました。
私は手探りで壁を伝うようにして彼女のベッドルームに入りました。

窓から差し込む街明かりで部屋の真ん中に何かがあるのは判りました。

彼女はフローリングの床にホットカーペットを敷き、電気毛布にくるまり顔だけを出していました。
そして毛布の端を少し持ち上げると私に言いました。

(服着たままでいいから、来て…)

私は言われるままに彼女の毛布に潜り込みました。

彼女は毛布の下で全裸で横たわっていました。
そして私の服を一つ一つ脱がせると私の体の上に被さるようにして唇に舌を差し入れてきました。

(なんて暖かくて柔らかい…)

全身が彼女の体温に同化していくのがわかりました。

(冷たいね…貴方の手…。 大丈夫? 寒くない? 手、貸して…)

彼女は私の冷え切った手を自分の股間に挟み込み暖めてくれました。
手首に陰毛のシャリシャリした感じが伝わってきます。
汗ばんだような陰唇にピトッと掌が吸い付くように密着しています。

(お腹…空いてない?)
(バイト先で食べてきたから…)
(そう…。 ね、いつもあんな風に働いているの?)
(うん…。 昼間の人より時給がいいから1日4千円くらいにはなるんだ)

どうだ、結構稼いでいるだろうと、少し得意気だったかも知れません。

(あの時の指輪、いくらしたの?)
(バイト代の…3か月分…)

彼女に食べさせて貰った分、何処かに連れてって貰った分、それらはみんな、あの指輪を買う為に貯金したのです。

(本当にバカね。 それだけあればバイクとか、もっと好きな物が買えたでしょうに…)
(だから… 一番好きなものを手に入れたくて…指輪を買った…)
(バカ…)

私の手が指先まで温まった頃、彼女は私の全身を唇で辿り始めました。
首筋、肩、胸、乳首、わき腹…。
やがてその唇が私の中心を捉えると…その先端に唇を被せていきました。
それは長く続き全身まで吸い込まれそうな気がしました。

『あっ出る! 出ちゃうっ!』
(出して…)

私が射精を繰り返す間、彼女は根元まで咥えたまま、じっとそれが治まるのを待ってくれました。
やがて搾り出すようにして舌で絡め取ると喉を鳴らして飲み込みました。

(ね、もう1回…。 できる?)

私が頷くと、再び私のペニスを喉の奥まで飲み込んでいきました。
−−−③彼女からの贈り物

やがて硬さを取り戻した私のペニスに手を添えると、熱く濡れた花芯に押し当て、静かに腰を降ろしていきました。
そして、ゆっくりと腰を上下させていきました。 私のペニスの先端が時折子宮口まで届くのが判ります。

(ああ…いい…。 もっとちょうだい…貴方の…)

徐々に彼女の動きは早くなり登りつめていくのがわかりました。

(ん…ん…ん…あっ…)

突然、彼女は乳房を押し付けるようにして私にしがみ付くと全身を硬直させました。

ぎゅっ…ぅぅぅ…。

膣全体がペニスを締め上げるのが判り、我慢し続けていた私もそれが限界でした。 彼女の子宮に向かって激しく脈動を繰り返しました。
二人はしばらくそのままでじっとしていました。
やがて彼女は私の胸から顔を上げ、私の目を見つめました。

(まだ…できるよね?)

彼女はそう言うと私のペニスを蜜壷の奥深く飲み込んだまま、膣をギュッギュッと締め付け始めました。
その快感に私の体は再び硬さを取り戻していきました。
彼女はそれを膣の奥深い所で感じ取ると私の分身の根元を握り、手馴れた仕草でコンドームを付けさせました。
そして私に背を向けるようにして横向きになると私の怒張を愛液にまみれたアナルへと導いたのです。

(ね…、今度はこっちに…)

私がペニスに手を添え彼女の小さな蕾にあてがうと彼女は大きく息を吸い込みました。

(お願い…そこは初めてだから…やさしくして…そっと…)

そこは彼女の言葉とは裏腹に、硬く閉ざされたままでした。
私は彼女の蜜壷から蜜をすくい上げては、その入り口の中と周りに充分に塗り込みました。
そして最初に親指を挿入させると中の広さを確認しました。

(あっ嫌っ!)

強い締め付けがあり指の進入をも阻んでいます。

(お願い…息を吐いて…力を抜いて…)
『あ、駄目っ! やっぱりできないっ! あ、嫌っ! 駄目っ! 抜いてっお願いっ!
 抜いてーーー!!!あっあぁぁぁ…入って来る…入って来ちゃうぅぅぅ…うっ…うっ…うっ…』

私は彼女が逃げようとするその肩を羽交い絞めにするようにガッチリと掴むとペニスを根元まで一気に押し込みました。

『あっ…あっ…嫌っ…あぁぁぁーーっ!!!』

収まってみれば彼女の中は窮屈で、ペニスの先端から根元まで、特に根元辺りを万力のように締付けています。
私は彼女の乳首を摘むようにして乳房を揉みながら、ゆっくりとした抽送を繰り返しました。

『あぁ…嫌っ!…お尻で逝っちゃう…あぁそんなに奥まで入れちゃ嫌っ…嫌っ、逝くっ逝くっ!』

彼女は乳房を掴む私の手を握り締めると、うずくまる様にして全身を痙攣させました。
私はそれに構わず、彼女の体の前に手を回し彼女の股間に手を差し入れました。
彼女のクリトリスの小さな突起を皮を剥く様にして親指と人差し指で軽く摘みました。
中指と薬指、そして小指を使い蜜壷の中を掻き回すように埋没させました。
それは彼女が背後から犯される時にとても好んだ弄り方でした。

『あっ駄目っ! そんなにいっぺんにいじっちゃ駄目っ!
 お尻とお○んこを同時に苛めないで、お願いっ! あぁ、また逝くっ! 
 また逝っちゃう・・・お願いっ! 駄…目…あぁっ…溢れちゃう…』

ビシュッ! ビシュッ!

私の手を激しい勢いで濡らしながら、ひときわ強い痙攣が彼女を襲いました。
私も永遠に続くかと思われるほどの射精を放ち続けました。

二人とも肩で息をしながら、しばらく動けずにいました。

(嫌…私…。 お尻で逝っちゃった…)
(アナルに入れたのなんか初めて…。 でも感動した…。 ずっごく良かった)
(そう? 良かった…。 私の体で貴方に上げられるもの…他に無かったから…)

やがて彼女は素肌に毛皮のコートを羽織ると、たくさんのタオルを持って来ました。
そして濡れてしまったホットカーペットの上にそれを敷き詰めました。

二人は再び、向かい合うように横になりました。

(髪、短かくしちゃったんだね…)
(そうよ? …変?)
(ううん。 似合ってる、とっても。 長い髪も素敵だったけど… なんだか別人みたいだ…)
(そう別人…。 もう貴方の知らない人になると決めたの)
(ど、どういうこと?)
(私、田舎に帰って結婚する事にしたの。 母もうるさいし…。 相手の人はとても優しくていい人)
(そんな…)

(お願い、聞いて。

 もう決めたの。

 私に貴方は似合わない…。

 だから…

 貴方は貴方で、早くいい娘を見つけて幸せになって)

「勝手過ぎるよっ! そんなのっ!」

(そうよ? 知らなかった?(笑)

 私は勝手な女なの…)

彼女は顔を上げバッグを引き寄せると中から小箱を取り出しました。

(はい、誕生日のプレゼント。 私のも給料の三か月分くらいだと思う。

 でも…

 貴方がくれようとした指輪ほどの価値は無いわ(笑))

今日が私の22回目の誕生日である事を彼女は覚えていてくれたのです。
彼女に促されるまま、中身を取り出すとズッシリとした重量感のある金色に輝く腕時計でした。

(気に入った?)
(う…うん…。 でも、こんな高そうな物…僕には似合わない…)
(じゃあ、早くそれが似合う男になりなさい。
 彼女ができたり、その時計に飽きたら貴方の指輪を失くしたあの場所に捨ててくれればいいわ。

 売ってもいい。

 とにかく…それで、おあいこにして)

(こんなものより、僕は…)
「もう何も言わないでっ!

 明日になったら私も… ここを出て行くんだから…」

彼女は私の頬に両手を当て涙を零しながら熱い唇を重ねてきました。


(貴方が気が済むまで私を抱いて。

 そして気が済んだら、私のことは忘れて…

 私も…


 貴方の事は忘れるから…)
−−−④旅立ち

私は彼女の乳房を吸いました。
彼女の乳首も初めて甘噛みし、うなじから背中、太腿、ふくらはぎ、足首へと唇を這わせていきました。
そして彼女の体を仰向けにすると、つま先から徐々に彼女の中心部へと舌を這わせていきました。

カーテンも無くなった部屋は、外から漏れてくる灯りだけで彼女を鑑賞するには充分な明るさを保っていました。

(全部…見せて…)

彼女はコクッと頷くと自ら股間を大きく開いて私に見せてくれました。
彼女の恥毛は割れ目の上の方だけを残して綺麗に剃毛され、そこだけが子供のようでした。
中からとてもエロティックなクリトリス、小陰唇が覗いています。

(剃っちゃったんだね…。 綺麗だ…)
(貴方が喜ぶと思ったの…。 恥ずかしいから…そんなに見ないで…)

私は彼女の花びら全体を頬張る様にして嘗めました。

(美味しい…。 それに…ツルツルして、とても舐めやすい…)
(あ、いやっ…恥ずかしいこと…。 貴方に食べて欲しかったの…。 いっぱい、いっぱい、食べて欲しかったの…)
(奥まで見せて…)
(あ、嫌っ! そんな所…、開いて見ないで…)
(嫌だ。 全部、目に焼き付けておくんだ)

彼女の勃起したクリトリスに唇を寄せると舌で弾くように転がしました。
彼女の花びらを両手で広げるようにして唇で摘み、蜜壷の奥まで舌を差し入れました。

(あぁ、いい…。 お願い…。 私が貴方の事を忘れられないように…たくさん…して…)

私は彼女のそばに置かれたコンドームを取り出すとペニスに手早く被せました。

(こっちに入れるよ? ここは…僕だけのものだから…)

彼女はその瞳を閉じたままコクッと頷きました。

-------------------------------------------------------------------

翌日、寝台列車で帰るという彼女を、その始発駅まで見送りに行きました。

私達はホームの柱の陰で長いキスを繰り返しました。
彼女の豊かに膨らむセーターを捲り上げ乳房を掌で揉みました。

私が欲しがっていることを感じ取ってくれたのだと思います。
彼女は出発までの時間を確認すると私のコートの懐に入り、そしてミニスカートを捲くり上げるとタイツとパンティを降ろしたのです。

(もう一度…最初に出逢った時のように犯して…)

私は彼女の体を支えながら挿入しました。
彼女の中心部はとても熱く濡れていました。

二人の姿は少し不自然に見えたかも知れません。
行き交う人が柱の陰の私達をチラッと見ては通り過ぎて行きます。

(あっ…見られちゃう…。 あ、また…。 ね、強く…ああ…感…じ…る…)

しばらくして彼女の膣が脈打つように私の分身を締め込み始めました。
私は彼女の体を背後から強く抱き締めながら、彼女の深奥へと大量の樹液を迸らせ続けたのです。

-------------------------------------------------------------------

出発の時刻が迫っていました。

(これが最後…)

そう言うと彼女は私の胸を正面から抱き締め私の唇に軽く触れました。


もう彼女は、口も利かなければ目を合わせようともしませんでした。
売店で駅弁を一つ買い列車に乗ると、彼女は私の居るホームとは反対側の端の席に座ってしまいました。
そして私とは反対側の窓の外を見て、二度とこちらを見ようとはしませんでした。

発車のベルが鳴りました。

『ひとみっ!』

窓ガラスを叩いて彼女の名前を叫びました。
彼女は一瞬ビクッとし、顔を両手で覆ってしまいました。

ベルの音は思ったより長く鳴り続けたような気がしました。

(ゴトン…)

列車が動き始めました。

『まことっ!』

突然、彼女は立ち上がり振り返ると私の名前を呼びました。

「…ハァハァ…何?」

彼女は目の前に息を切らした私が立っているのを見て、目を丸くして驚いています。

『ど、どうして!?』
「…ハァハァ…、一人にしたくなかった。 だから送って行く…。 もう決めたんだ」
「バ…バカ…」
「いいんだ、バカでも」

自分でもどうして乗ってしまったのか解からなかったのです。
私は不貞腐れたようにドカッと彼女の前の席に座りました。
そして窓の外に流れる夜景を眺めました。

窓ガラスに映る彼女は、顔を覆ったまま、いつまでも泣き続けていました。
やがて顔を上げると涙を拭いながら私の隣に座りました。

「私…今まで色んな男に泣かされて来た…。 でも…、貴方には一番泣かされた…。 本当に酷い人ね」
「ごめん…」
「バカね…そういう意味じゃ…」

彼女は微笑み、そして私の唇にキスをすると、さっき買ったばかりのお弁当を取り出し始めました。

「ね、お腹空いてない? これ、食べる?」

彼女は私の返事も聞かず、そして涙を拭いながら、一つしかない弁当の紐を解き始めました。
最終章①北へ

列車が走り出し、彼女が広げてくれた弁当を食べ終わった頃、車掌が検札にやってきました。
私は慌てて財布を取り出しました。
彼女はそれを制して私の分の切符を買い求めようとしました。

「勝手に付いて来たんだ! 自分の分くらい自分で払うよっ!」
「駄目。 私を無事に送り届けてくれるんでしょ? 守ってくれるんでしょ? これはその為のバイト代」
「また、そんなこと…」

彼女は私の言うことなど無視して車掌に目的地までの料金を支払ってしまいました。

「いい? 私の為にお金を使う気持ちがあるなら自分の為に使って。
 私、その方が嬉しい。 それに第一貴方…

 お金持ってるの?(笑)」

「うっ…そ、それは…(汗) ちょっと…足りない…だけ…だよ…」

私は彼女が支払った予想以上に高額な料金に正直驚いていました。
それを見て、覚悟は決めていたのです。
帰りは鈍行に乗って帰ればいい。 それでも足りなきゃヒッチハイクで、と。

「やっぱり…(笑)」


しばらくして車掌が再び現われると二人のベッドの準備を始めました。
私達はその間に洗面所に行き顔を洗うことにしました。

化粧をすっかり落とした彼女の笑顔はショートカットの髪と相まって、あどけない子供のように思えました。
彼女が歯ブラシを貸してくれました。
そして私が顔を洗い終えるのを待ち、今度は私の顔をタオルで拭き始めました。

(もー、そうやって、すぐ子ども扱いするっ!)
(いいから、ちゃんとこっちを向いて(笑))

(ね。 私達にはベッドなんて一人分でいいよね?(笑))
(うーん…。 それじゃあ寝台の分のお金、返して貰って来よっか(笑))
(うん。 頑張ってね(笑))

まだしばらくは、こうして二人だけの時間を過ごすことが出来る。
それが二人の気持ちを高ぶらせていたのかも知れません。
私達は些細な冗談にも顔を見合わせてはクスクスと笑い転げました。

車掌が立ち去るのを見計らい、私達は上段のベッドに二人並んで毛布に潜り込むとカーテンを引きました。

(やっぱり…ちょっと狭くない?)
(こうすればいいでしょ?)

彼女が私の体の上に乗りました。 そしてセーターをたくし上げました。

(ね、外して…)

私は彼女のブラを外しました。
彼女はポンポンと脱いだものを下のベッドに放り投げました。

(私だけ裸? まことは脱がないのかな?
 さ・せ・て・あ・げ・な・い・ぞ・?(笑))

彼女はそう囁くと、私の耳たぶを噛みました。
私は慌てて彼女と体を入れ替えるとすべてを脱ぎ去りました。

(これでいい?)
(うん。 それじゃ、バッグからティッシュ持って来て)
(何だよ! そんなの裸になる前に言ってよ!)
(文句言わないの(笑) さ、早くぅ…もぅ我慢できないんだけどなぁ…)

私はスッポンポンでベッドから降りると彼女のバッグからティッシュを探しました。
彼女はカーテンから顔だけ出すと、あっちだこっちだと笑いながら指図しました。

(あなたったら、丸見えざますわよ?(笑))
(覚えてろ!)

私はやっとのことでポケットティッシュとタオルを掴むとベッドに上がり彼女の毛布を捲り上げました。

(キャッ!) 彼女が体を隠しました。
(駄目。 見せて。 全部) 彼女の膝を開かせました。
(あ、いや…)
(見ちゃった(笑) これでおあいこだ) 彼女の素肌の上に乗り毛布を被りました。
(もーっ! させてあげないっ!)
(じゃ、抱いてあげないっ!)
(ふーん、私の体、要らないの? 我慢できるの? こんなにおいしそうなのになぁ…)

彼女は乳房に両手を添えると乳首を私の胸にこすり付けました。

(あ、もう、起ってるし) 彼女が笑いました。
(ひとみだって…ほら…もう濡れてる…)
(あん…入れて…。 まことの…)

私達は一つになりました。
声を出すことも動くこともままなりませんでしたが、それで充分でした。
一度二人揃って逝くと今度は彼女が上になりました。
そして、また二人揃って逝くと彼女は股間に私を挟み込んだまま、私の胸に頬を当てました。

(ね…)
(うん?)
(このまま…寝てもいい?)
(うん)

ギュッと一際強く抱き締められました。

やがて彼女の寝息だけが私の耳に届きました。

私は彼女の髪を撫でながら、どうしようもなく好きで好きで堪らない自分の気持ちが整理できずに、彼女の体をただ抱き締めていました。

-------------------------------------------------------------------

翌朝早い時間に彼女が降車する駅に着きました。
私達は駅前のビジネスホテルに入り、そしてまた愛し合いました。
ただお互いの体を貪るようにして爛れた時間を過ごしたのです。


(ね、私のウチに来ない? 今日は貴方を帰したくない…)
(ここに一緒に泊まろうよ)
(今日帰ると伝えてあるの。 心配すると思うから…)
(でも…いいの?)
(う…ん…。 明日また貴方を送るわ、この駅まで…)

彼女は私の胸に顔を乗せるとつぶやきました。

(それで本当に…貴方のこと…忘れるわ…)
−−−②夜空

彼女の実家は東北の寂れた炭鉱町にありました。
その地方都市の中心部にある駅から1時間以上もバスに揺られて行った…。
そんな記憶があります。

その町がまだ往時のように石炭を産出していたのかは分かりません。
ただ、活気がある町とは言えませんでした。
真っ白い残雪と対照的な黒い板張りの住宅が規則正しく並ぶそんな風景が、ある目的を持って生まれた場所である事を物語っていました。

彼女は長屋の一画の家の引き戸を開けると途端に東北訛りになりました。
実際の会話はその地方独特の訛りで交わされていますが、私にもそのニュアンスは多少ですが伝わりました。

彼女は玄関に出迎えた母親に、私が会社のアルバイトの子で、こっちに旅行に来たついでに荷物を持って貰ったのだと紹介しました。
母親は重い荷物を持たされて大変だったでしょうと私を居間に上げてくれました。

座敷に上がると彼女の父親にジロッと睨まれました。

「この子、あんまりお金持ってないのよ。 今夜は泊めて上げていいでしょ?
 明日、お礼にお城を案内してあげるって約束しちゃったの」
「泊まるってドコにだ」
「私の部屋。 さ、こっち、こっち」

彼女の部屋は一番奥の部屋でした。
家の中をだるまストーブの煙突が横切り、どの部屋もとても暖かく感じました。
その家は玄関と台所、居間、お兄さんの部屋、彼女の部屋と、縦に走る廊下に沿って並んでいました。
彼女は部屋に入るなり私に抱きつき唇を重ねてきました。

「お父さん、怒ってるみたいだ」
「いつもあんな風だから気にしないで(笑)
 あ、お風呂行ってきなさいよ。 この町のお風呂は共同浴場でタダだから(笑)」

彼女に勧められるまま、ドテラと私には小さ過ぎてカカトの入り切らない長靴を借り、タオルをマフラー代わりにして風呂屋に向かいました。

シーンと静まり返る町に私の長靴のパコパコという音が響きました。

そこはごく普通の小さなお風呂屋さんという感じでした。
違いがあるとすれば番台に誰も座って居ない、ということでしょうか。
時間も午後3時頃と早かったせいか中は私一人でした。

私が大きな浴槽に浸かっていると片肌に刺青をした男の人が入って来ました。
そして体を流し風呂に入ってくると、一目見てこの町の人間じゃ無いと判る私に話し掛けてきました。

「あんちゃん、どこからだ?」
「……です」
「おー、うちのひとみと同じかい(笑)。 そーか、俺の妹もな、今日…」
「その、ひとみさんを送って来たんです。 旅行のついでに…」

刺青を見てスッカリその手の職業の人だと思った私は、もう怖くて怖くて彼女に口裏を合わせるしかありませんでした。

「はー? あっはっは。 そうかぁ、ひとみにこんな可愛い坊やがおったんかぁ(笑)』
「いえ、そんな間柄じゃあ…」
「ええよ何でも。 そうか、ひとみが…(笑)。 おい、あんちゃん! 背中流してやっからコッチ来なっ!」
「あ、いえ…」
「いいから、いいから。
 アイツはな。 今までウチに誰かを連れて来た事なんて一度も無いんだ。
 こんな汚ねぇトコまで連れて来たってことは…
 少なくとも、あんちゃんがひとみに嫌われてる奴じゃ無ぇってことだ。
 だろ?(笑)
 さ、座れ」

半ば強引に背中を流されました。 私もお返しせざるを得ませんでした。
私はその人の背中を流し始めました。

「知ってるよな?
 ひとみはな今度結婚するんだ…
 あんな男だか女だか判らん奴と…」
「は…はぁ…」
「あんちゃんはいい体してっけど、金は持ってなさそうだなぁ(笑)
 学生さんか? そっか。
 お、ありがとよ。 さ、帰るか」

風呂屋のまん前に、地べたに張付きそうなくらい無茶なシャコタンにした車が停まっていました。
チェーンは巻いてあるけど…、とても雪道を走れるとは思えませんでした。

「さ、乗んな」
「あ、はい」

それはもう、雪道にガタンガタンと突き上げられるように走り、彼女の家までほんの僅かの距離を走っただけで尻が痛くなるほどでした。

「ひとみー、坊やと風呂で会ったぞー」
「はーぃ…。 もう、お兄ちゃんと会っちゃったの? 驚いたでしょ(笑)」
「うん。 あ、いや…(汗)」
「なに言っとる。 この坊やに背中流してもらっただけだ。 なぁ?(笑)」

町を出て行く家族が多い中で、彼女のお兄さんは炭鉱で働く残り少ない人の一人でした。
彼女の父親は体を痛め炭鉱の仕事からは遠ざかっているんだそうです。
その父親は相変わらず民放の映らないテレビを見ていました。

夕食が用意され酒を勧められました。
彼女が母親とお兄さんと楽しそうに話を続けている間、私は時折り曖昧に笑うのが精一杯でした。
その地方の訛りの強い言葉を私が理解できる部分など殆ど無かったからです。

すでにかなり酔っていました。

食事が終わり、コタツの上の片づけが済むと、彼女は酔い醒ましに散歩に行こうと私を誘いました。
またドテラと、私には小さ過ぎてカカトの入り切らない長靴を借り、パコパコと音を立てながら彼女の後に続きました。

外は雪灯りで道が光っていました。
所々に在る小さな街灯と、残り少ない家族が住む家の窓から漏れる灯り以外何もありません。

「すぐそこに私の通った小学校があるの」

彼女は白い息を吐きながら指を指しました。
通りの外れに小っちゃな木造校舎の小学校がありました。
彼女は私の手を引くと除雪された道を辿り、広い校庭の真ん中まで私を連れて行きました。

両側に除雪した雪がうず高く積まれ周囲の灯りを閉ざしました。

「ね、見て」

彼女が空を見上げました。

『うっわぁー、すっげぇーっっっ!!!』

雪で切り取られた空。
そこには満天の星が広がっていました。

「ほらっあそこっ!」

こんなにも星というものは降るものなのでしょうか。
しばらく見上げている間にも星が一つ二つと蒼い空から剥がれ落ちてきます。

「ね? これならお願い事する時間、たっぷりあるでしょ?(笑)」

彼女が笑いました。

「ホントだ。 でも、もういいんだ。 叶わないこともあるって解ったから(笑)」

彼女の顔が少し曇りました。
私はそれを見て、しまった、と思いました。

『ごめん…』

二人の言葉が重なりました。

彼女は私の胸に顔を埋めると私の手を握り締めました。
彼女が顔を上げ、そして私がその瞳を見つめると自然に唇と唇が重なりました。

やがて私の手をぎゅぅっとさらに強く握ると肩を震わせ始めました。
彼女の涙が私の唇にも流れて落ちていきました。

私は残る手で彼女の背中を抱き、そしてまた空を見上げました。

星達はまだそこに…。

そして流れ星がまたひとつ…。

(代りに何か言ってくれ…)

私が何かを言葉にすれば…きっとまた…彼女を泣かせてしまう…。

その背中を強く抱き締めながら、私は彼女の嗚咽が収まるまでその場所に立ち尽くしていました。
−−−③最後の夜

30分ほどして家に戻るとコタツの上にお茶とおはぎが用意されていました。
普通のおはぎより一周りも二周りも大きいおはぎです。

父親は相変わらずムスッと押し黙ったままテレビを見ていました。
彼女のお兄さんはすでに隣の部屋で大きなイビキを掻いて寝ています。

私は居間のコタツに入ると黙々とおはぎを口に運びました。

やっと食べ終わりお茶をすすっていると父親は私の顔を見る事も無く自分の分のおはぎの乗った皿を私の方に押しやりました。
私は父親の横顔とおはぎを交互に見つめ、その意味を理解すると『いただきます』と言って、またそのおはぎを黙々と食べ始めました。

『ねー、おはぎのお代わりはー?』

彼女が台所からの声を掛けてきました。
私は慌てて口の中のおはぎを飲み込みました。
さすがにもうこれ以上は入りません。

「もぅ…」
「持って来てやれ(笑)」

私が断るより早く彼女の父親の言葉が重なりました。
振り返るとそこに、この家に来て初めて見た彼女の父親の笑顔がありました。

私はまた届いたおはぎを黙々と食べ始めました。
あんなに好きだったおはぎが…今は私を責め立てました。

(これはきっと…彼女を泣かせた罰だ…)

その時は本気でそう思いました。

でも、何だかとても暖かい罰だと思いました。

-------------------------------------------------------------------

私の布団は一番奥の彼女の部屋に敷かれていました。
彼女はお兄さんの部屋に寝ることにしたようです。
ふすまを隔ててお兄さんの大きなイビキが間断なく続いていました。
そしてひんやりと冷たく、重い布団。
この分では一晩中寝られないだろう。そう覚悟しました。

重い布団は潜り込めば息苦しく、私はお兄さんのイビキを聞きながら何度も寝返りを打ち続けました。


どれくらい経った頃でしょうか。
コトッと音がしてふすまが開き、浴衣を着た彼女が入って来ました。
唇に指を当てシッと私の言葉を制しました。

(お兄ちゃんのイビキがうるさくてゴメンね? 私も眠れないの(笑))

彼女は私の枕元に手を付くと私を見つめました。

(ね、しちゃおっか)
(え、でも…)
(大丈夫、誰も起きたりしないから)

私も彼女が欲しくて堪らなかったのです。
私がコクッと頷くと、彼女は立ち上がり浴衣の紐を解くと、浴衣で私の頭を隠すようにして跨りました。

(ね、舐めて…)

そこはすでに熱く濡れていました。 慣れ親しんだ彼女の味がしました。
私は彼女のすべてを吸い尽くすようにして嘗め回しました。
彼女の口から甘い吐息が、お兄さんのイビキと交差するようにこぼれました。

やがて立ち上がり浴衣の前を合わせると、私の布団の中に滑り込むように入って来ました。
そして腰の辺りに潜り込むと私の浴衣の裾を割り、手早くブリーフを脱がせました。
彼女の唇は私の先端部分を捉えたまま、時折舌が這い回りました。

最初それは、刺激するというよりもただ味わっている。 そんなしゃぶり方でした。

ずいぶん長いこと吸われ続けたと思います。
私の意識からお兄さんのイビキの音が消えました。
私の脈動が始まりました。
そんな風に二回、彼女の唇で吸い取られました。

三回目。
私の分身がもうこれ以上我慢できない状態にあることを知ると、彼女は私の腰に跨り、それに手を添え膣奥深く迎え入れました。

(あぁ…やっと彼女の中に…)

彼女の乳房を両手に掴みながら興奮がすでに頂点に達していた私は、根元まで飲み込んだ彼女が二三度腰を上下させただけで、あっけなく果ててしまいました。
彼女は膣奥深く迎え入れたまま、膣をぎゅっと締め付け私の脈動が収まるのを待ってくれました。

(ね、今度は私…)

彼女はペニスを飲み込んだまま、膣をぎゅっぎゅっと間歇的に締付け始めました。硬さはすぐに回復しました。
彼女は私と体を入れ替えると太腿を抱えるようにして私を迎え入れました。
私は彼女に体重を預けるようにして彼女の両足を抱え上げると奥深くまでゆっくりとした抽送を繰り返しました。
今度は彼女を満足させられるまで持つ…。
そう思いました。

(もう…もう…んっ…んっ…あっ…奥まで入るっ…入っちゃうっ!)

一瞬、彼女の子宮口に先端が潜り込んだような気がしました。
彼女は私の背中に絡めていた両手両足を更にペニスの根元まで迎え入れようと私の腰を強く引き付けました。
ビクンッビクンッと彼女の体が痙攣を繰り返しました。

ぎゅぅぅぅ。

それに合わせる様に一段と強い膣の収縮が始まりました。
私は搾り出されるようにして彼女の体の奥深く放出を繰り返しました。
彼女が長い吐息を漏らしました。

(お願い…。 もう少し…このままで…いさせて…)

しばらくじっとしていた彼女は、やがて私のそれが萎えていくのを感じ取ると股間に手拭いを当てながら私のそれを抜き取りました。
そして私の股間と自分の股間を丁寧に拭い始めました。

気が付けば隣の部屋からは相変わらず断続的なお兄さんのイビキが響いています。

(すっごく気持ち良かった…(笑) それじゃね。 お・や・す・み…)

私の顔に挨拶の文字の数だけ口付けをすると布団から出て立ち上がり浴衣を羽織りました。

(あ、こっちの子にも…)

彼女は悪戯っぽく笑うと、もう一度浴衣を大きく開き私の顔を跨ぎました。
そして私の顔を見下ろしながら花びらを指で開きました。

(見える? この子からの最後のキス…)

ブチュッと私の唇に彼女の花びらを押し当てました。
私がそれに舌を入れ、上端にある突起を吸おうとすると、

(あ、駄目っ! そんなことしたら、また…。 もう寝よ? お願い…)

彼女は私の唇から名残惜しそうにそれを離すと、再び腰を上げ、浴衣の紐を結び直しました。

そしてもう一度私に口付けをすると、後ろ手で手を振りながら、隣の部屋へと消えていきました。
−−−④彼女からの手紙【完】

翌朝、私を起こす人は誰も居ませんでした。
私がゆっくりと目覚めた時には彼女の父親もお兄さんも家には居ませんでした。
私は遅い朝食を頂き、次の便のバスで帰ることになりました。
私達はバスに乗ってからずっとお互いの手を握り締めていました。

バスが駅に着くと列車の時刻までの間、彼女はその地方都市にある有名なお城を案内してくれました。
彼女は持参した小さなカメラをポケットから取り出すと、私だけの写真を何枚も撮り始めました。
私が彼女の写真を撮ろうとしても頑なに拒否されました。

「駄目。 貴方に彼女ができた時、私の写真を持っていれば、きっとその子が傷つく」

それが理由でした。
何度も頼み込み、やっと城主の銅像の前で彼女と二人の写真を取ることができました。
二人で取った写真は、後にも先にもこれ一枚きりとなりました。

そんなプチ観光を彼女と過ごした後、彼女は駅まで私を見送ってくれました。
彼女は蒲鉾やら燻製やら、食べ物ばかりのお土産を紙袋いっぱい買い込み私に持たせてくれました。

そして一人分の切符を買い求め、それを私に…。

私達はホームの隅で人目もはばからず抱き合い、そして唇を重ね合いました。

発車の時刻になりました。
私は列車のステップに乗り込み彼女を振り返りました。

「ね、最後にもう一度、顔を良く見せて」
「嫌だ」

今にも泣き出しそうな自分がそこに居ました。

「バカね…。 ほら…」

彼女はハンカチを私に渡しました。
それを受け取った途端、今度は私の方がみっともないほど泣けてくるばかりで、彼女が涙を見せることはありませんでした。

「いい? ちゃんとご飯、食べるのよ?(笑)」
「子供扱い…する…なよ」
「そう…だね。 ごめん…」

発車のベルが鳴りました。

彼女は私の頬を両手で引き寄せると最後の口付けをしてくれました。

ベルが鳴り終わりました。

「別れたこと、きっと後悔させてやる…んだ…」
「バカね、そんなこと…」


「もう、とっくの昔に後悔しているわ(笑)」


ドアが閉まりました。

彼女はドアの窓ガラス越しに私の掌に手を当てると微笑みました。
そして動き出した列車から二三歩下がると、笑顔で私に小さく投げキッスの仕草をして小さく手を振りました。

しばらく私の姿を追った後、やがて私に背を向けるとコートのポケットに手を入れて歩き出しました。


そしてもう二度と…

私の方を振り返ることはありませんでした。

-------------------------------------------------------------------

私は卒業と同時に下宿を引き払い、社会人としてのスタートを切りました。
会社勤めにも慣れ始めた初夏の頃、彼女からの分厚い封筒が下宿の住所から転送され実家に届いていました。

私がそれを受け取ったのは、さらに二ヶ月も経ったお盆を挟んだ数日間の夏休みに帰省した時でした。

その封筒には差出人の住所も名前も書いてはありませんでした。
中からはお城で撮った私だけが写った写真と、彼女と相手の方が二人並んだ結婚写真が出てきました。
あの城主の銅像の前で撮ったはずの彼女と二人の写真は…やはり入っていませんでした。

彼女が選んだ人は見るからに優しそうな人でした。
彼女を大事にしてくれそうな人でした。
彼女の手紙には、結婚した相手は問屋の三男坊だと書いてありました。

手紙には私と彼女が出逢った時から、彼女が別れを決めた時までの経緯が書かれていました。

彼女は元々はごく普通のOLでした。
勤めていた会社の人と不倫関係になり、いつまでも煮えきらない相手の態度に嫌気が差すと、家族にも内緒で会社を辞めてしまったのだそうです。
そして半ば自暴自棄になり、夜の仕事を転々としたあげく一年足らずの間に「あの仕事」に付いたのだそうです。

彼女のマンションにその不倫相手が尋ねて来たことは何度かあったそうです。
でも、彼女がドアを開けることはありませんでした。
そして、私と映画館で出遭ったあの日。
お店にその不倫相手が突然訪ねて来たんだそうです。
奥さんとお子さんと別れたから一緒に暮らして欲しい、と。
もう二度と会えないし…会いたくなかった人だった…。
ましてやその店の中では…。

彼女の出した結論は、店長に頼み、その不倫相手を店から追い返して貰う事でした。
その不倫相手が店から叩き出された後、彼女は店の制服のまま顔見知りのおじさんが窓口に居るあの映画館に飛び込み泣いていたのだそうです。

そこで私と出逢いました。

彼女は痴漢から助けた私を、最初はからかい半分、次に一人身の寂しさを紛らわす相手、やがて本当の弟のように思い、私と付き合っていたのだそうです。

そんな私からプロポーズされた時は本当に嬉しかった、一緒になれたらどんなに幸せだろうと思ったのだそうです。
でも…いつか歳の差の事や「あの仕事」をしていた事が…きっと二人の間の障害になるに決まっている…。

(貴方は…貴方の両親や友達に私の事を何と言って紹介するつもりだったの?)

彼女が手紙で問いかける一言に私は答えることができませんでした。

彼女の事が好きだ。

自分が判っているのはたったそれだけで、それ以外の事など何も考えていなかったからです。

(きっとそんなこと、貴方は考えた事も無いよね)

彼女の手紙は続きました。

それを考えると怖くて、とても結婚なんかできないと思った、と。
「あの仕事」をしていた事を本当に後悔したし、その事を知る私とは決して結婚できないと思った、と。
そして…もっと早く知り合いたかった、と。

(貴方が貴方のままでいて、私が私じゃなかったら、きっと貴方と一緒に暮らしていたと思う)

私と知り合わなくても、いずれは田舎に帰り、見合い結婚でもするつもりだったのだそうです。
私との事があり、ただそれが早まっただけだ、と。
自分の過去を知らない人なら誰でも良かった…。
相手がどんな人でも最初から結婚するつもりだった…。

私の前から姿を消した二ヶ月の間に実家に戻り、以前から紹介されてた知り合いのおばさんからのお見合いの話を受けたのだそうです。

彼女の手紙は続きました。

-------------------------------------------------------------------
 彼から結婚指輪をもらいました。
 大きな粒のダイヤモンドのリングで高かったんですって。
 だから、炊事や洗濯の時にはいちいち外さなくちゃいけないし…。
 失くすのが怖くて、結局はめていないの。 おかしいでしょ?

 でも、貴方からもらった指輪の方は、ちゃんとはめているの。
 私にだけ見えて、他の誰にも見えない指輪。
 そのことが私をとても幸せな気持ちにさせてくれる。

 指輪のこと本当にごめんね。
 薬指を見るたびに貴方のことを思い出します。

 ね、ちゃんとご飯、食べてる?
 食事の支度をしていても貴方のことを思い出します。

 星空を見上げては、あの時歓声を上げた貴方のことを思い出します。

 貴方からもらった物は他にもたくさんあるのに、私の方からは何一つ返せなかったよね。
 だから私、貴方にお守りを送ることにしたの。
 きっと、貴方のこと守ってくれると思うから。
-------------------------------------------------------------------

封筒から丁寧に折られた半紙が出てきました。
彼女は大事な所の縮れ毛を半紙に挿んで送ってきたのです。

-------------------------------------------------------------------
 私だと思って大事にしてね。
 そして、少しでいいから私のことを思い出して。

 私のこと、忘れてって言ったのは、ぜんぶ嘘。
 私、まことが好き。
 もう一度、まことに会いたい。
 もう一度、まことに抱かれたい。
 ねぇ、駄目なのかな。
-------------------------------------------------------------------

彼女の手紙は中途半端に、私が応えようが無い言葉で終わってしまっていました。

私はもう一度、彼女とそのご主人の写った写真を見つめました。

何度見返しても…写真の中の彼女の相手の人は見るからに優しそうな人でした。
何度見直しても…彼女を幸せにしてくれそうな人でした。

彼女は、彼女の事ならすべて知っていると思い込んでいた私ではなく、彼女の事など何も知らないその人を選んだのです。
私は彼女のそんな想いを、時間を置いてから受け取ったことで素直に受け止めることができるようになっていました。

人は時として…何も知らない方が…何も聞かない方が…良いのかも知れません。
大事なことは…すべて出逢った時から始まる二人で過ごす時間の方なのですから…。

彼女と私を運んでくれた、あの列車の始発駅と地方都市の駅は、彼女との別れの思い出の場所になりました。
どちらの駅も当時の面影などまったく残していませんが、今でも出張などで訪れると切なくなる場所には違いはありません。

その東北の地方都市を結ぶ時間は驚くほど短縮され、人も、風景も、慌しく過ぎ去るようになりました。

でも、彼女と過ごしたあの頃は、すべてがゆっくりと、たおやかに流れる時間の中に漂っていたような気がするのです。

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