[46016] 器8 Tear 投稿日:2009/09/23 (水) 06:06
しばらく待っていても私の送ったメールに対する返事は来なかったが、
それ以上メールを送ることはしなかった。
1月の初旬、18時を過ぎずとも辺りはもう真っ暗になってしまう。
ホテルから一緒に出てくる所を写真に撮影できればいいのだが、試しに携帯で写して
みると、明かりも足りない上に距離的にも無理があった。
それも予想がついていたことで、さっさと私は妻の車が止めてあった駅へ向かった。
ホテルからの道順と妻が車を停めている場所の2つを考えると、このさほど大きくな
い駅で、男が妻を降ろす場所は容易に限られてしまう。
私は周囲の光が当たりにくい場所に車を停めてその瞬間を待っていた。
車の時計が緑色の文字で18:57と表示していた時に、駅の隅に黒っぽいハッチバ
ックが停まって女が降りた。
私のいる位置から少し離れていたので、女の顔がはっきりと見えた訳ではなかったが、
凝視するまでもなく、その影しぐさから、残念ながら妻である事は明確だった。
女を降ろしたハッチバックは、すぐにそのまま走りだした。
私の目の前を通過した時に、私はそのハッチバックの後を追いかけるべく、アクセル
をグッと踏み込んだ。
ハッチバックと私の車の間に他の車はない。
ホテルに停まっていた2台の黒のハッチバック。
こうして後を追いかけたことでナンバーも分かり、おかげ様でどちらでご休憩してい
たのかも分かってしまった。
それからしばらくの間、運転にも注意が必要だった。
私は赤信号で離されないように、信号のある交差点に近づけば距離を縮め、それ以外
は距離を少し開けて走った。
途中、横から出来てた車が割り込んできそうになったので、それは運転手の方に嫌な
気をさせて申し訳なかったが、多少強引な運転によって遠慮してもらった。
街灯や店の明りがあってもこの暗がりである。
よほど気をつけていない限り、前を走っている男が後をつけられていることに気がつ
くとはとても思えなかった。
しかし、住宅街近くになった時、交通量が極端に減ってしまった。
やむなく距離を開けて走るしかなかったのと、男が車を停める時に私の車を見られる
ことを避けるためにも、最後までびったりと後をつけることは出来なかったが、それ
でも男の車のライトが消えるおおよその場所は把握することができた。
私はライトが消えて2、3分してからその辺りへ向かった。
住宅街の駐車場でその車を見つけるのは難しいことではなかった。
近くで車から降り、歩いてその家へ向かった。
玄関の表札には「有田」と書かれている。
築数年の比較的新しいこの住宅の駐車場には、男のものと奥さんのものと思われる車が
2台並んで停まっていた。
それ以外は外観からこの家族構成が分かるものは見当たらなかった。
私はこの住所を記憶すると、忘れないうちに車に戻ってメモをしておいた。
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