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北原夏美 四十路 初裏無修正

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[3512] インプリンティング 19 投稿者:迷人 投稿日:2005/08/22(Mon) 21:06

その様な事を考えていた私はいつしか眠ってしまったのですが、嫌な夢に魘されて飛び起き、時
計を見ると、長い夢を見ていた感覚なのに1時間しか経っていません。
夢の中の私は妻を探し回り、あのアパートに行って郵便受けを見ると、稲垣の下に妻と娘の名前
が書いて有ります。
それを見た私が絶望感と激しい孤独感に襲われていると、妻と稲垣が手を繋ぎ、楽しそうに話し
をしながら出て来て、私の事など見向きもせずに通り過ぎて行きました。
それまでは2人だった筈なのに次の瞬間、稲垣のもう一方の手には娘の手が繋がれているのです。
私は走って追いかけ、惨めな格好で妻の足に縋り付いたのですが、見上げるとそれは妻では無く
て稲垣で、私を見下ろして不気味に微笑んでいました。
すぐには夢と現実の区別が付かずに、不安な気持ちのまま妻を捜したのですが何処にもいません。
キッチンの椅子に座り込んで考えていると、夢の中で感じた気持ちが本心で有り、夢の中の私が、
今の私の本当の姿ではないかと思え、妻は稲垣のアパートに行ったのかも知れないと心配になっ
て玄関まで行った時、妻がドアを開けて入って来ました。
「帰って来たのか。どうせ奴の所に行ってしまい、もう帰って来ないと思ったから、これで楽に
なれると思っていたのに帰って来たのか?」
「違います。もうあそこには二度と行きません。」
妻が戻って来てほっとしている筈なのに、口からはこの様な言葉しか出て来ませんでした。
やはり私には、妻に縋り付く様な真似は出来そうにも有りません。
「それなら何処に行っていた?」
「すみません。理香に会って、お仕事が忙しいから少しの間会えないと言ってきました。」
私はまた嫌な事を言って妻を虐めたいと思いましたが、妻の言葉には感情が無く、目も虚ろとし
ていて様子がおかしかったので、何も言わずにキッチンへ行くと、妻も夢遊病者の様に後をつい
て来て、椅子に座りました。
「上手い事を言って、本当は稲垣の所に行こうと思ったのでは無いのか?何か忘れ物を取りに来
たのでは無いのか?お前の言う事は何も信用出来ない。」
「いいえ、本当に理香に会いたかっただけです。勝手な事をして、ごめんなさい。」
妻は嫌味を言われても泣く様子も無く、焦点の合わない目でテーブルをじっと見ながら、口では
謝っていても、やはり言葉に感情が有りません。
「俺の質問に答えるのが嫌で、逃げようと思ったのでは無いのか?」
「いいえ、もう何でもお話します。」
私は『もう』という言葉が気になったのですが。
「それなら訊くが、おまえは稲垣の事が好きになったのか?もう俺の事は嫌いなのか?」
「支店長の事は好きです。でも恋愛感情では有りません。私が愛しているのはあなただけです。」
「意味が分からん。好きだが恋愛感情とは違う?それなら、どうして抱かれた?本当に俺を愛し
ていたら、その様な行為はしないだろ?さっぱり意味が分からない。俺が不審に思っている事に
答えてくれ。もう昔の事だが、そもそも俺が初めての男だったと言うのは本当だったのか?俺と
関係を持つ前に、稲垣とそういう関係は無かったのか?本当は何か有ったのだろ?」
「はい、あなたと知り合う前にキスまでは有りました。ベッドで抱き合ってキスはしましたが、
それ以上の関係は無かったし、キスをしたのも恋人としての愛情からでは有りません。」
私は、妻の理解不能な話から、妻と稲垣との得体の知れぬ、普通では無い関係を感じていました。
相変わらず妻の言葉には感情が感じられず、魂が抜けてしまったかの様な状態です。
「稲垣との繋がりを、最初から詳しく教えてくれ。俺の知らない智子全てを教えてくれ。」
妻はゆっくりと頷いて、淡々と話し出しました。
「あなたもご存知の通り、私の父は酷い暴力を振るっていて、それは母だけに留まらず、私や姉
にも及んだ為に、母は離婚を決意しました。幸い父の実家は資産家だったらしくて、父の両親は
私達と完全に縁を切らそうと、今後、養育費やその他の権利を全て放棄するのを条件に、多額の
手切れ金を払ってくれたので、私達の生活は困らなかったのですが、それまで優しかった母が、
寂しさからかお酒に溺れる様になり、絶えず違った男を家にまで連れて来る様になりました。母
の連れてくる男達は私や姉を嫌らしい目で見る事が多く、中には胸やお尻を触ってくる男までい
て、父の事で男性不信になっていた私は、余計に男性を避ける様に成って行きました。」
妻が短大生の時に母親は病気で亡くなったのは聞いていましたが、まさか母親がその様な状態だ
ったとは知らず、それまで親子3人幸せに暮らしていたと、勝手に思い込んでいました。

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