[3528] インプリンティング 27 投稿者:迷人 投稿日:2005/08/26(Fri) 21:46
何処か遠い所で妻の声が聞こえます。
「あなた、ごめんなさい。あなた、ごめんなさい。」
その声は徐々に近くなり、私を戻りたくない現実へと戻してしまいます。
現実に戻れば、悲しみから気が狂ってしまうのではないかと思っていた私は、現実に戻るのが怖
かったのですが、人間の脳は上手く出来ているのかも知れません。
許容量以上の悲しみが急に襲って来た時には、心が壊れてしまわない様にそれらの全てを受け付
けない様にして、守ってくれているのかと思えるほど冷静な私がいました。
きっと後になってから、今以上の悲しみが襲って来るのでしょうが。
「以前から分かっていたのか?」
妻は流石にもう離婚を覚悟したのか、泣いてはいても、割とはっきりとした口調で。
「いいえ、考えた事も有りませんでした。彼から聞くまでは・・・・・・。」
「奴から聞いたのはいつだ?どうして奴に分かる?」
「彼が支店長として赴任してきて、4ヵ月ほど経った頃です。」
妻の話によると、稲垣のアパートで私と妻の血液型、娘の血液型を聞かれたそうです。
血液型で性格判断でもするのかと思い、私と妻がA型で、娘がO型だと答えると。
「やはりそうか。」
妻が、何がやはりそうなのか聞くと、稲垣は立ち上がって窓から外を見ながら。
「お互いA型の夫婦からは、A型の子供かO型の子供しか生まれない。稀にそうでは無い子供が
生まれるケースも有るらしいが、そんな確率はごく僅かで無いに等しい。またA型同士の夫婦か
らはA型の子供が生まれる確率が高いらしいが、理香ちゃんの血液型はO型。俺もO型だ。」
妻には稲垣の言っている意味が分かり。
「そんな事は有りません。確率はそうかも知れないけれど、理香は主人の子供です。」
「どうして分かる?DNA検査でもしたのか?智子は理香ちゃんが生まれてからも、2人目が欲
しくて避妊をした事が無いだろ?しかし子供は出来ない。その前だって5年も出来なかった。結
局、十数年避妊しないでセックスしていて、出来たのは理香ちゃん1人だけだ。その理香ちゃん
が宿った時期に私と関係をもっている。」
「でも・・・・あの時は、子供は出来ないと・・・・・・・・・・・。」
「私も最近までそう思い違いしていたが、よくよく思い出せば、出来ないのではなくて出来る可
能性が低いというだけで、全く可能性が無い訳では無かった。だからその前に1度・・・・・・・
君にもそう説明した覚えが有る。」
妻が、その時期私とも関係をもっていたので、それだけでは決められないと言って食い下がると。
「私も智子も、不妊の原因は智子に有ると決め付けていたが、もしもご主人に原因が有ったとし
たら?何度も言うが、ずっと避妊せずにセックスしていても、理香ちゃん以外出来なかったじゃ
ないか。」
妻は信頼している稲垣の言葉に、次第にそうかも知れないと思う様になり、問題が大き過ぎて涙
も出ずに、座り込んだまま立てなかったそうです。
それを聞いた私も、その確率が高いと思いました。
昔、子供を生めない嫁はいらないと、一方的に離縁された時代も有ったそうですが、私もそこま
で酷くは無いにしても、男の勝手な考えで、妻に原因が有ると思い込んでいた時期が有りました。
思い出せば、妻が一晩外泊した後、それまで妻から誘われた事は一度も無かったのに、妻は毎晩
の様に求めて来た様な記憶が有ります。
その時は無断外泊をした事で、私の機嫌をとっているのだろうと思ったのですが、今考えると、
稲垣と関係をもってしまった罪悪感からしていたのか、または稲垣との間に子供が出来てしまっ
た時の事を考えて、私の子供だと誤魔化す為に、セックスをせがんで来たのかとも思え。
「あいつとの子供が、出来てしまっても良い覚悟で抱かれたのか?それとも、あいつの子供が欲
しくて抱かれたのか?」
「違います。あなたとの子供が欲しくて・・・・・・・・・・。」
私との子供が欲しくて稲垣に抱かれたとは、さっぱり意味が分かりません。
「理香の事は俺にとっては何よりも大切な事だ。俺と喧嘩して、あいつの所に行ったところから、
詳しく聞かせてくれ。」
話している内に妻は、娘に会って帰って来た時の様な状態になっていて、淡々と詳しく話し出し
ました。
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