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北原夏美 四十路 初裏無修正

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[3532] インプリンティング 28 投稿者:迷人 投稿日:2005/08/27(Sat) 19:52

当時妻は子供が出来ない事で、軽いノイローゼの様な状態になっていて、時々何もかもから逃げ
出したい気持ちに襲われ、そのような時は、つい私に当たってしまっていたと言います。
しかし私は情け無い事に、妻が多少辛そうだと思っていても、そこまで精神的に追い込まれてい
たとは気付かずに、妻が私に突っ掛かってくる事が不愉快で、つい言い争いになっていました。
「特にお義母さんから、子供はまだかと言われるのが辛かったです。お義母さんは、私を実の娘
の様に思っていてくれていて、悪気なんて無く、本当に心配してくれているのが分かっていただ
けに、余計辛かったです。それと、単純に子供が欲しかったのも有りましたが、私は一人になる
のが怖かったから、どうしてもあなたの子供が欲しかった。あなたの子供を生んで、あなたとの
絆をもっと強くしたかった。そうなればお義母さんとも、血の繋がりは無くても子供を通して、
もっと本当の親子の様になれると思った。」
「それなら尚更、どうして稲垣と関係を持つ事になったのかが理解出来ない。本当に俺との絆を
強くしたかったのなら、稲垣なんかに抱かれないだろ?言っている事と、やった事は逆の事だ
ろ?」
銀行は昼の間も営業している為に交代で昼食をとるそうですが、私と言い争った翌日、偶然稲垣
と昼休みが重なり、稲垣を見つけると隣に座って、子供が出来ない事で私との仲が、最近ギクシ
ャクしていると話しました。
「今仕事の事で頭がいっぱいだから、一人にしてもらえないか?」
妻を女性として意識していた稲垣は周囲の目が気になったのか、素っ気無く答えると席を立って
しまい、残された妻は落胆を隠せませんでした。
稲垣の態度でより落ち込んでしまい、今夜もまた何かで私と言い争いになってしまわないか心配
になり、重い気持ちで銀行を出た時に稲垣が追い掛けて来て、今日はもう少しで帰れそうなので、
喫茶店で待っていて欲しいと言われたそうです。
一度は素っ気無い態度をとられているだけに、やはり気に掛けてくれていたという喜びは大きく、
私に電話をしてから喫茶店で待っていると、入って来た稲垣は座りもせずにレシートを掴んで言
いました
「ここではお客さんに会うかも知れないので、要らぬ誤解を受けても嫌だから、私のマンション
へ行って話そう。」
妻は稲垣の奥さんにも聞いて貰えると思い、稲垣に案内されて当時住んでいたマンションに行く
とリビングに通され、ソファーに腰を下ろした時、初めて奥さんは実家に行っていて留守だと聞
かされました。
疚しい関係では無いにしても奥さんに悪い気がして、一度は帰ろうと思ったのですが、じっと見
詰める稲垣の目と目が合った時に、この人なら助けてくれると思ってしまい、不妊で悩んでいる
事を話し、どの様にしたら夫婦の仲が上手く行くのか相談すると、何も言わずにただ妻を見詰め
ていた稲垣が話し出した内容は、信じ難いものでした。
「このままでは、いずれご主人との仲が取り返しのつかないほど壊れてしまう。全ての原因は子
供が出来ないという事だけだ。それならば、子供が出切る様にすればいい。」
「それが出来ないから悩んでいます。お医者さんにも行きました。でも駄目なのです。」
「ご主人も行ったのか?医者は何と言っていた?」
「主人はいずれ行くと言っていて、まだ行ってくれませんが、私はホルモンのバランスが崩れて
いると言われたので、おそらく原因は私に有ると思います。」
「婦人科の医者をしている友人がいるのだが、智子さんの話を聞きながら彼が言っていた事を思
い出していた。彼が言うには、不妊の中にも色々有って、病的な物には医学的な治療が必要だが、
精神的なものも多く、その中には『慣れ』と言うのも結構有るそうだ。」
「慣れ?・・ですか?」
「ああ。動物には発情期が有って、その時に交尾をするのだが、子孫を残す目的だけで交尾をす
る彼らは余程の事が無い限り、ほとんどが妊娠するそうだ。そうでないと種族が絶えてしまう。
ところが人間には、その様な発情期は無くて年中発情している。言い換えれば年中発情期だとも
言える。いつでも妊娠可能だ。しかし、やはり人間も動物の中の一つにしか過ぎないので、体質
によっては、本当の発情期にセックスしないと、ただの排卵日にしても妊娠し難い人が少なく無
いらしい。」
「いつが発情期なのですか?」
「言い方が悪かったが、残念ながらどの季節が発情期だというものは無い。身体が発情期の様な
状態になっている時。つまり、身体が発情している時が発情期だ。」
「では、いつ発情しているのですか?」
「新婚時代は身体も昂っていて、多くの場合、その時期は発情期に当たるらしいのだが、その後
は人それぞれなので、いつが発情期なのか、いつ発情しているのかは分からないらしい。ただ問
題なのが、その後発情期が来なくなってしまう場合が有る。身体が発情しなくなってしまう場合
が有る。興奮や快感は普通に有るので、勿論本人は気付いていないが、夫婦間でのセックスに慣
れてしまい、身体が発情期にならないケースが結構有ると言っていた。それが彼の言う『慣れ』
による不妊症だそうだ。そういう人の特徴は、1番にホルモンのバランスを崩してしまっている
場合が多いと言っていた。2番目が、絶えずイライラしてしまう。本人は他の理由からイライラ
していると思いがちだが、本能的に子孫を残そうとしているのに、身体がその状態にならない。
身体が発情しない事のズレから来るイライラらしい。言い辛いのだが、今の智子さんは『慣れ』
から来る不妊そのものだと思う。」
こんないい加減な話に、切羽詰っていた妻は真剣に耳を傾けました。
「どうすれば良いのですか?どうすれば正常になるのですか?」
「残念ながら発情を促す薬などは無いらしい。気持ちを興奮させる薬は有っても、気持ちの興奮
と身体の発情とは全く異なるものらしい。」
妻は稲垣の話にのめり込み、ずっと身を乗り出して聞き入っていましたが、治療法や薬も無いと
聞き、気落ちして俯いてしまうと、その時を待っていたかの様に。
「ただ、方法が無い訳では無い。他の牡と交尾をする。そうすれば、それから暫らくは発情期と
なる。つまり、ご主人以外の男とセックスをすればその刺激で発情し、その後2、3ヶ月は身体
が発情期に入る事が多いらしい。」
「でも、その様な事は聞いた事が有りません。」
一瞬期待して顔を上げた妻でしたが、内容が内容だけにふて腐れた様にそう呟くと。
「私もそうだった。しかし彼が言うには、この様な事を発表してしまえば、不妊で悩んでいる人
の浮気が増えてしまって世の中が乱れてしまうし、仮にご主人も納得してそうなった場合でも、
その時は良くても、後々その事で夫婦仲が悪くなってしまう可能性が高いから発表は出来ないら
しい。自分の患者にも浮気を進める事になってしまうから、とても言えないと言っていた。世間
に発表出来ないのは倫理的な観点からだと思う。」
この話を事実だと思い込ませる為に、稲垣は必死になって話していましたが、妻は疑っているの
ではなくて、稲垣の話を信じていても、自分には出来ないと思っていたのでしょう。
「そう言われてみればニュースでも時々有るだろ?男性関係の派手な女性に限ってすぐに妊娠
してしまい、子供を産んで殺してしまったとか、捨ててしまったとか。その様な女性は、それこ
そ絶えず発情期の状態になっていて、妊娠し易いのは事実らしい。」
何か良い方法が有るのかと、最初から興味深く聞き入っていた妻も稲垣の話が終わると、いくら
子供が欲しくても、やはりその様な事は出来ないと思い、また、その様な事を出切る相手もいな
いので、期待が大きかっただけに落胆も大きく、溜息をつくと黙って俯いてしまいました。
この様な嘘を咄嗟に考える事が出切るほど頭の回転が速い稲垣には、妻の気持ちなど手にとる様
に分かるのか。
「智子さんにその様な事が出来ないのはよく知っている。でも、君がみすみす不幸になるのを見
るのは忍びない。思い切って言うが、私が相手をしても良いと思っている。私もご主人や妻の事
を考えれば、とても出来ないのだが、君が幸せに成る為なら、どの様な罪でも甘んじて受ける。
私は一生罪悪感で苦しむかも知れないが、君がその分幸せに成ってくれれば、どの様な苦しみも
甘んじて受ける。」
ただ妻を抱きたいだけの言葉が、妻には分かりません。
潜在意識の中に、稲垣の事を信頼出来る特別な人間だと刻み込まれてしまっている妻には、少し
冷静になれば、誰にでも分かる事が分かりませんでした。

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