[3542] インプリンティング 36 投稿者:迷人 投稿日:2005/09/02(Fri) 21:23
離婚するにしてもしないにしても、このまま別れたのでは後で必ず後悔すると思っていても、私
から離婚だと言い、出て行けと言っていた手前、出て行くなとは言えません。
妻の本当の気持ちは知りたいくせに、この様な大事な局面でも自分の本心は出せないのです。
出て行かないでくれなどと言って、少しでも自分が不利になる様な事は出来ないのです。
この件についての、絶対的有利を崩したくないのです。
このまま別れてしまえば、残るのは金銭的な問題の有利不利だけで、妻をもう責める事も出来ず
に、夫婦としての有利不利など無くなってしまうのに。
取り上げていた妻の携帯を渡し、口から出たのは思いとは逆の言葉でした。
「もう会う事も無いと思うから、今後の事は電話で話し合おう。」
妻は暫らく、渡された携帯を見詰めていましたが。
「理香は連れて行かせて下さい。理香と離れる事なんて出来ません。お願いします。」
これを聞いて、少しだけですが気が楽になりました。
何故なら、娘を渡さない限り妻との縁は切れないからです。
実の娘では無いにしても、今まで愛情を注いで来た可愛い娘まで、妻との駆け引きに使おうとし
ている自分が情けなくなります。
「本当の父親でも無いお前なんかに権利は無いと言いたいのか?奴との愛の結晶を奪うのかと
言いたいのだろ?俺とは別れたいが、好きな稲垣との子供とは別れられないか。」
「違います。私はあなたとも・・・・・・・・・・。ごめんなさい、もう何を言っても信じては
頂けないですね。」
妻が玄関に行くまでずっと、どの様に引き止めようか考えていたのですが、良い言葉が見つかり
ません。
妻はこのまま、稲垣のものになってしまうのかと思うと、悔しくて堪りません。
「おまえが行ける場所は稲垣の所しか無いはずだが、今は奥さんが来ているぞ。これから2人で
奥さんを追い出すのか?」
「彼の所には二度と行きません。」
「それなら何処に行く?もう嘘はつかなくてもいい。別れるのにこれ以上、俺に嘘をついたとこ
ろで同じだろ。」
「何処に行けば良いのか分かりません。私が行ける場所はどこにも無いです。駅に行って、始発
を待ちながら考えます。あなたや典子さんへの慰謝料の事も有るから、何処か住み込みで働ける
所でも探してみます。」
「それが本当なら、行き先も分からずに、理香を連れて行くつもりだったのか?やはり理香を連
れて、稲垣の所に行くつもりだったのだろ?」
「違います。本当に彼の所には行きません。」
妻はそう言い、暫らく考えてから。
「そうですね。理香を連れて行きたいと言ったけれど冷静に考えれば、落ち着く先が決まっても
いないのに、理香を引き取る事も出来ない。勝手なお願いですが、それまで理香の事をお願いし
ます。」
「それまでも何も、理香は絶対に渡さん。お前は今迄、俺の子供では無いと分かっていながら俺
の母親に預けて、あいつに抱いてもらいに行っていたのだぞ。理香の不憫さが分からないのか?」
妻が泣きながら出て行ってしまい、私の心に大きな穴が開いてしまいました。
正確に言うと娘の事が有るので、大きな穴が2つも開いてしまった状態です。
暫らくの間ぼんやりと考えていたのですが、考えれば考えるほど私の怒りは稲垣に向かい、稲垣
の携帯に電話をしたのですが、出たのは奥さんでした。
「折角来て頂いたのに、帰れと言ってしまい申し訳無かったです。アパートに着いたらご主人だ
け、またこちらに来てもらって下さい。」
「私もお邪魔しても良いですか?車に乗ってから主人が重大な事を告白したので、車を止めて話
していて、実はまだ近くにいるのです。その事をご主人と智子さんに聞いて頂きたいのです。」
私には、奥さんの言う重大な事が娘の事だと分かっていたので、別に今更聞きたい話でも無く、
奥さんがいては怒りをぶつけ難いので、本当は稲垣だけに来て欲しかったのですが。
「ええ、構いません。ただ智子は出て行ったのでいませんが。」
「えっ、何処に?」
「分かりません。駅で始発を待つと言っていたので、今頃まだ駅に向かって歩いているのか、駅
に着いていたとしても始発までには、まだ何時間も有りますから、駅のベンチにでも座っている
のではないかと思います。」
私が詳しい話をしたのには、奥さんの優しさに縋り、妻を連れ帰って欲しいという期待が有った
のかも知れません。
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