[3606] インプリンティング 63 投稿者:迷人 投稿日:2005/09/21(Wed) 00:31
母はずっと父の浮気には目を瞑っていましたが、ある時、どうしても許すことの出来ない浮気を
知り、気が付くと私を背負い、兄の手を引いて橋の上に立っていたそうです。
そのまま川に飛び込もうとした時、兄が泣き出し躊躇していると、私達を探し回っていた父が見
つけて駆け寄り。
「俺が悪かった。死なないでくれ。おまえ達を死なせる訳にはいかない。おまえ達が死ぬぐらい
なら俺が死ぬ。」
そう言うが早いか、川に飛び込んでしまいました。
幸い死に切れずに何とか岸へ泳ぎ着いたのですが、父はその日を境に一滴も酒を呑まなくなり、
タバコも完全にやめて、ずっと母には気を使って来たそうです。
父は酒とタバコを止める事で母に対して、改心した自分を分かって欲しかったのだと思います。
「お袋は、よく忘れる事が出来たな。どうやったら忘れる事が出来た?」
「忘れる事なんて出来ないさ。最初の頃は何とか忘れようとしたけれど、努力しても忘れられる
ものでも無いし、忘れようとする事をやめたら、逆に気が楽になったよ。今でもたまに相手にも
会うし、未だにその頃の事を夢に見る事も有る。」
「今でも相手に会う?」
「ああ、ここまで話したから全て話してしまうが、相手は妹の良子だよ。他の浮気は我慢出来て
も、この浮気だけは許せなかった。」
「えっ、良子叔母さん?」
私は母の辛さを知りました。
私の数倍は辛かったと思います。
もしも妻の相手が私の兄だったなら、私はどうなっていたか分かりません。
「教えてくれ。どうやって2人を許した?」
「おまえには偉そうな事を言ったが、まだ許してはいないのかも知れない。ただ、それはあの頃
のあの人を許していないだけで、今のお爺さんは遠に許している。あの頃とは違う人だと思って
いる。」
「お袋は幸せか?」
「ああ、幸せだね。死ななくて良かった、あの時別れなくて良かったと心底思っている。あの頃
のお爺さんは今でも嫌いだけれど、その後のお爺さんは大好きさ。息子の前で惚気るのも嫌だが、
川に飛び込んだ後のお爺さんを愛している。」
私は母の車を借りてコンビニへ行き、同級生に無理を言って妻を解雇してもらい、実家に戻ると
娘はピアノのレッスンに、釣りから帰った父が連れて行ってくれていて、暫らくすると妻が帰っ
て来ました。
「あなた・・・・・・・・・。」
私の顔を見るなり、妻の目には涙が溜まり。
「お帰りなさい、ご苦労様でした。・・・・・・・・いつ戻られたのですか?」
そう言い終ると、溢れた涙が頬を伝っていました。
「今日帰って来た。2人だけで話が有るから家に帰ろう。」
娘の事は母に頼み、妻と2人で家に帰ると向かい合って座りました。
妻を見ていると、稲垣の所には行かずに頑張って来た、袖口が油で汚れた色褪せたTシャツを着
て、終始俯いている妻を愛おしく感じます。
「頑張っていたそうだな。いくら溜まった?」
「お義父さんやお義母さんはいらないと言って下さったけれど、少しですが生活費も払わせても
らっていたので、まだ百万ぐらいしか溜まっていません。あなたに借りた五十万を返すと、残り
五十万しか有りません。車を勝手に借りていたけれど、あなたが帰って来たから返さないと。工
場やコンビニに行くのに車がいるから、五十万で車を買うと・・・・・・・。」
「奥さんに慰謝料をいくら払うつもりでいる?」
「お金では償えないけれど、百万では余りにも少ないから、あと二百万受け取ってもらおうと思
います。」
「貯金の半分は智子の物だから、それを使えば良かったのに。」
「それは、全て放棄するという約束だったから。」
「2人に借金が有っては大変だから、明日二百万下ろして振り込んで来い。後は俺に一億と二百
万払え。」
「ありがとう。でもあなたへの一億はこのままではとても払えません。でも、頑張って払えるだ
け払って行きますから、それで許して下さい。」
「いや、全額払ってもらう。一億と二百万払ってもらう。」
「ごめんなさい・・・・・それは無理です。」
「いや必ず払ってもらう。ずっと俺と一緒にいて、俺に尽くせ。一年二百万で雇ってやるから、
今から51年間、俺の側にいて尽くせ。その前に俺が死んでも、おまえは必ずあと51年生きて、
俺に尽くせ。絶対に俺よりも先に死ぬな。その為にも、もう無理をせずに体を大事にしろ。それ
まで離婚届は預かっておく。」
多くの感想や励まし、またはお叱りを頂きまして、ありがとうございました。
それに対する返事も書かずに、ごめんなさい。
お許し下さい、失礼致します。
コメント
承認待ちコメント
承認待ちコメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)