WA 11/18(火) 13:32:33 No.20081118133233 削除
明くる日、出社すると所長に呼ばれます。
「江村さん、昨日はご苦労様、山下常務も大変喜ばれていた。
よくぞ江村さんを採用してくれたと私も褒められた」
「まあ、嬉しいです。でもそんなに言って頂いて、私は
只言われるままに通訳しただけです」
「そんな事はない、商品もよく知っている。
ところで常務がお礼をしたいそうだ、本社で
お待ちになっている。急で悪いが本社に行ってくれないか」
「えっ、今からですか?でもここの仕事が」
「こっちは大丈夫だから行って来なさい」
「はい、解りました」
ドキドキしながら本社へと向かいました。大きな商社に勤めた事はあって
も役員さんとは話した事もありません。今の会社も総勢で500人くらい
とは言え東証二部上場を目指しています。本社に向かう途中、私は後悔
しだしました。いつもの通勤着のまま飛び出したのです。下はぴったり
としたジーパン、上は白いカシミヤのV-ネックのセーターです。家に
一旦帰って着替えてくるべきだと思ったのです。でも今はもう時間
がありません。
役員室の前で立ち竦んでしまいます。自分の姿を役員室の前の硝子に
映したら、とても入れる格好ではありません。でも仕方ありません、
ドアーをノックします。
「どうぞ」
山下常務の声が聞こえます。
思い切って入ります。
「よく来てくれました」
「あのー、済みません、こんな格好で」
「いや、僕の方が悪かった。急に呼び出して、
かえって、恥ずかしい思いをさせて申し訳ない」
「そう仰って頂くと私も気分が楽になります。
でもこんな格好で伺って申し訳ありません」
「いや、とても素敵だ。ジーパンにセーターか。
君に良く似合っている」
そう言って山下常務は私の頭の先から爪先までじっと見入っていました。
「いや失礼、君があまり綺麗だから見とれてしまったよ」
お世辞でもそう言って頂くと悪い気はしません。幾つになっても男の方
から褒められると女は嬉しいものです。
「履歴書も見させてもらったが、特技に何も書いていなかった。
どうして中国語を書かなかったんだね」
「募集している内容に関係がなかったものですから」
「奥ゆかしい人なんだね。ところで薫子は、かおるこって言うんだね」
「はい、でもみんなには、かおるって呼ばれます」
「おっと、もう12時か、近くに旨いイタリアンを予約してある。
さあー行こう」
「でも私、こんな格好ですから」
「大丈夫だ。そんな事を気にする店じゃない」
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