WA 11/21(金) 12:56:23 No.20081121125623 削除
ロビーで待っています。本社に呼ばれたのは3時です、ひょっとしたら、
その後常務さんとご一緒出来るかも知れないと半分期待もあったのです。
私の心はときめいていました。程なく常務さんがお見えになりました。
「今日はタクシーで帰ればいい。チケットをあげよう」
常務さんのお心使いが嬉しいのです。
ステーキハウスのカウンター席に座ります。常務さんと二人だけのお席です。
目の前でコックさんがお肉を焼いてくれるのです。コックさんは窓を背に
しています。ここは24階、窓には広い東京の煌びやかな夜景が映ります。
美味しいお肉と美味しいワイン、私の胃の腑も満たされて、心地良く酔って
しまうのです。
「どうかな、旨いかな」
「ええ、とっても」
「僕は此処から見る夜景が好きでね、嬉しい時も、嫌な気分の時も
一人で良く此処へ来る」
「今日はどちらなんですか」
「それは野暮な質問だよ。嬉しいに決っている。
それも飛び抜けてね」
「私も嬉しいです」
「嫌な事も此処へ来ると、どうでも良くなってしまう。
仕事の事も家の事もね」
「家の事ですか?」
「家内と上手くいってない。離婚を考えている」
「済みません。嫌な事、お伺いして」
「いや、いいんだ。僕から言った事だ。
ああ、久しぶりに気分がいい。カクテルバーでもう少し飲もう」
半個室になっているお席に移ります。少し緊張もしますが、酔いも
手伝って常務さんの隣の席に座ります。軽いカクテルを飲んでいます。
二人とも無言で窓の外を眺めています。常務さんは寂しそうに窓の外
を眺めています。
「どうかされたのですか?」
「いや、何でもないんだ。僕は時々こうなるんだ。
それも嬉しい時に限ってね」
「変ですわ。私に何か出来る事があれば仰って下さい」
「こんな幸せな時間がいつまでも続くわけがないと思ってしまうんだ」
「まあ」
私の頬が熱くなるのです、それはお酒の火照りとは別のものだと解ります。
常務さんの肩に知らず知らずに私の頭を預けているのです。
もう10時です、帰らなければいけません。でもまだ帰りたくない私も
いるのです。
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