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北原夏美 四十路 初裏無修正

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七塚 10/16(月) 06:56:47 No.20061016065647 削除

 自分がかつて最も愛した女―――。
 その女の坂道を転げ落ちていくような人生―――。
 時雄には辛すぎる話だった。もうやめてくれ、とさえ思った。
 だが、千鶴は語り続ける。何か得体の知れないものに衝き動かされてでもいるように。

「風俗のお店で働いているときには、いつも母のことを想っていました。母のためだ、母を救うために私は働いているのだと強く想っていなければ、私は私を支えられそうになかったんです。その一方で見知らぬ男性と肌を合わせているときには、いつもあなたの顔が浮かびました。あなたはいつも私の心も身体も大切にしてくれていた、愛してくれていた。それなのに私はあなたを裏切り、あげくの果てにこんなことをしている。そう思うと、あなたへの申し訳なさと自分への情けなさで気がおかしくなってしまいそうでした」
 実際、思い余った千鶴はいっときは自殺すら考えたという。
 だが、母親のことを思うと、それも出来なかった。
 ぎりぎりの状態まで千鶴は追い詰められていた。
「そんな頃でした。木崎がお店に現れたのです」
 木崎が『客』として自らの目の前に現れたとき、千鶴は驚愕し、そして憤った。
 現在の自分の境遇を知己に見られる恥ずかしさなどというものもなかった。ただただ、自分をこんな境遇まで堕とした男への憎しみがあった。
 もし、その日、木崎が『客』として千鶴を意のままにしようとしていたら、千鶴はその場で木崎を殺すか、自分が死ぬかぐらいのことをしたかもしれない。千鶴はそう語った。
「でも・・・木崎は私に何もしなかったんです」
 意外なことに木崎は、千鶴に憐れみの視線を向け、自分のしたことを詫びたのだった。木崎が千鶴を買った時間の間ずっと。
「もちろん、私は木崎の言葉を聞く耳を持っていませんでした。いまさら何を言ってるのだ、と思うだけで、彼を憎む心は消えませんでした」
 木崎はそれからもたびたび店に訪れた。訪れるたび、木崎は千鶴を指名し、ひたすら自分のしたことを謝罪し続けた。
 そんなことがずいぶん長く続いた。
 いつしか千鶴の心も変わっていった。
「最初は木崎の顔を見るのも厭でした。彼が私に対していくら謝っても、彼のしたことが消えるわけではありません。でも・・・その頃の私は日々の生活に、仕事に本当に疲れていました。たとえ厭な相手であっても、木崎が来ているときは、その間だけは私は嫌いな仕事から解放されることが出来たんです」
 やがて、千鶴は木崎の訪れを心待ちにするようになっていった。
「認めたくないことです。でも、本当のことだから・・・。その頃の私は本当にひどい精神状態でした。そしてそんな私に優しい言葉をかけてくれたのは木崎だけだったんです。自分でいやになるくらい、私も女だったんですね。表面的には木崎を憎もう憎もうと思っていても、いつしか彼に対して甘えの心が生まれていったんです」

 千鶴の変化を敏感に察知したのか、やがて木崎はひとつの提案をすることになる。
『君の今の境遇はすべて俺のせいだ。その罪滅ぼしとして、俺が君のお母さんの治療費を払う。だから、君はこの店をやめても大丈夫だ』
 千鶴はその言葉に何も応答せず、その日木崎は帰っていった。
「木崎の言葉が何を意味するのか、分かっていました。その提案を受け入れたら、どうなるのか、私にもよく分かってはいたんです。だから、この件に関しても、私は何一つ言い訳は出来ません」
 次に店を訪れたとき、木崎は再びその話を持ち出した。
 千鶴は―――その提案を受け入れた。
「その日、私は初めて自分の意思で木崎に抱かれました」
 そして千鶴は店をやめ、木崎のものとなった。

 千鶴の話はそこで終わった。
 時雄は―――打ちのめされていた。
 言いたい言葉はやまほどあった。
 だが、言うべき言葉が思いつかなかった。
 激しい虚脱感が時雄の全身を覆っていた。

「おかしいじゃないか・・・」
 苦しい沈黙の後で、時雄はようやく言葉を発した。絞り出すような声だった。
「君が木崎に救われたのは分かった。たとえ木崎にどんな思惑があったとしても、だ。その当時木崎は君を救った。これは間違いない。だが、なぜ今の君はその木崎の言いなりになって、他の男に身体を売るような真似をしている。絶対におかしい。納得できない」
 子供のように痛む頭を振りながら激しい言葉を投げつける時雄を、千鶴は憐れむような哀しむような瞳で見た。
「あなたに納得できないのは当たり前のことです。私にだって自分のしていることが分からない・・・。ひとつだけ言えるのは、木崎の提案を受け入れたとき、私は彼にすべてを売り渡してしまったんです。自分が追いつめた女に対する同情だけで、彼があんな提案をしたとは私だって思っていませんでした。でも、私はそれを受け入れてしまった。その頃、私はひどい境遇にいて、なんとしてもそこから逃れたかった。だから私は木崎の差し出した手を掴んでしまったんです。ひとりの女としての誇りも何もかも投げ出して」
 そのときから私は決して彼の言うことに逆らえない女になってしまったんです―――。
 千鶴はそう言った。
「何もかも投げ出して・・・か。その何もかもに、俺も、俺との思い出も含まれていたんだな」
 時雄は呟いた。絶望が身体中の血に溶けて、全身を駆け巡っているようだった。
「ごめんなさい・・・」
 すっと顔を伏せながら千鶴が言った言葉を、時雄はどこか遠い場所で聞いた。

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