七塚 10/29(日) 18:00:45 No.20061029180045 削除
「・・・あなたは」
時雄はようやくのことで声を絞り出した。
「どうしてそのとき何もしなかったんですか? その女性―――紙屋さんは決して望んでやっている様子ではなかったんでしょう? 木崎に強制されて無理やりそんな・・・ことをやらされていたんでしょう? どうして」
助けてやれなかったのか―――。
語っているうちに、怒りと悲しみが降るように湧いてきて、言葉が詰まる。
胸が詰まる。
息が詰まる。
「あんたもいい年なんだから分かるでしょ? 嫌よ嫌よも好きのうちってね。そういうプレイなんだよ。男が卑猥なことを女に強制して、女はいやがる素振りを見せながら従うことで、下半身を濡らす。本当にいやだったら、まともな神経をしていたら、そんな馬鹿げたことをやる女はいないよ。私が口を出す問題じゃない」
わけ知り顔で伊藤は言う。
時雄の脳裏に一昨日の木崎の顔が蘇る。
木崎の言葉が蘇る。
(・・・女のほうも望んでやっているんですよ・・・)
(・・・そういうのが好きな女なんです・・・)
「まあ、そんなことがあってからだね、私と木崎さんとその・・紙屋さん・・・奥さんか、三人の付き合いが始まったのは。それからはたまに連絡を取り合って、三人で遊ぶことがあった。まあ、遊ぶといってもご想像通り、世間一般のおとなしいものじゃない。今から思えば木崎さんはたしかにまともじゃないね。女房を私のようなよく知りもしない男に抱かせて、自分はそれを見て悦んでるんだから。ときには写真なんか撮ったりしながら。とはいえ、奥さんはあれだけの美人だし、身体もよかった。私も夢中になっちゃってね」
(あいつは心の底から俺に惚れているのさ。だから俺の望むことなら、何でもしてくれる。ただ、それだけだ。理屈も何も関係ない)
「私もこの年になるまで色んな女を抱いたが、あれほどの極上品は他にはいなかったね。木崎さんに色々仕込まれていたっていうのもあるだろうが、まるで風俗嬢のように男を悦ばせるテクニックを知ってるんだ。普通の女なら決してやらないようなことでも、言えばなんでもやってくれた。あれは真性のM女だね。木崎さんもいい女をものにしたもんだ。まったく、男の玩具になるために生まれてきたような女だったよ」
(そのときから私は決して彼の言うことに逆らえない女になってしまったんです―――)
「普通なら虐待といえるようなことでも、マゾの女には最高の刺激なんだな。写真を撮られながら、夫以外の男に奉仕させられる奥さんのほうもまんざらでもない様子だったよ。ときには私と木崎さんの二人がかりで責められてヒイヒイ泣いていた。あの奥さん、顔もいいけど声もいいんだよな。汗びっしょりになりながらハメられてるときなんか、こっちもゾクゾクするほどいい声で啼くんだよ」
(千鶴もまんざらでもない様子だぜ。お前と別れてから、初めて本当の女の悦びってやつを知ったんだよ、あいつは。もちろん教えたのは俺だがな)
(女はいいな、どんなことも悦びに変えてしまう)
「まあ、そんなこんなで私も大いに楽しませてもらったし、世話にもなったからね。奥さんにあのバーを紹介したんだよ。オーナーと私は昔からの知り合いだからね。でも、あの店でもときどき客をとってるらしいね。前に会ったとき、木崎さんが言っていたよ。ほんと、イカれてるよなあ」
(あなたに軽蔑されるのが怖かったんです―――)
「・・・黙れ」
突然、低い声でそう言った時雄に、伊藤はきょとんとした顔になった。その顔を時雄は睨みつけた。
心が、身体が、バラバラになりそうだ。
「もういい・・・そんな話はもう聞きたくない。やめてくれ」
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