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北原夏美 四十路 初裏無修正

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七塚 11/1(水) 15:47:46 No.20061101154746 削除

 不意の木崎の出現に、時雄は驚くよりもショックを受けた。あれほど苦しい思いをして探していた人間が、自分からのこのこ現れたのだ。
 一昨夜、時雄に殴りつけられた木崎は、痛々しい顔の傷以外にも相当のダメージを受けているらしく、よろめくように車から降りた。その姿を見つめる時雄の心はむしろ呆然としている。
 時雄が何か言おうと口を開く前に、木崎は言った。
「千鶴はここにいるのか?」
 どういう―――ことだ?
 不可解な顔をした時雄の反応に、木崎はひとりで納得したようだった。
「そうか、いないのか」
「・・・千鶴はお前のところに戻っていないのか?」
 ゆっくりと時雄は木崎に近づいていく。木崎の目に警戒心と怯えのようなものが見えた。その木崎の肩を時雄は掴む。
「どうなんだ!」
「いない、俺のところにはいない」
「じゃあ、どこにいるんだ」
「知らない。俺はてっきりお前のところだと思っていた。だから来たんだ」
 時雄は木崎の肩を掴んだまま、しばらくその顔を睨みつけた。
 木崎も精一杯の虚勢を張って、時雄の顔を睨み返す。
 そのまましばらく対峙していた。
「とりあえず、俺の部屋に来い。そこで話を聞かせろ」
 やがて、時雄は言った。

「本当に・・・いないようだな」
 木崎の呟きを無視して、時雄は煙草に火を点ける。
 煙を吐き出しつつ、問う。
「いつから千鶴はいなくなった?」
「昨日からだ。・・・お前にやられたこの怪我のせいで、俺はその前の夜から家でずっと寝ていた。いつまで待っても千鶴も戻ってこなかったんでな。千鶴はここにいたんだろ?」
「・・・・・・」
「それは本人から聞いた」
 木崎は唇の端で薄く笑った。
「あいつを抱いたんだろ?」
「・・・・千鶴は翌朝早く、知らないうちに出て行った。やはり、その後一度お前のもとへ帰ったんだな」
 木崎の言葉をまたも無視し、時雄は話を続けた。
「そうだ。朝帰りしておきながら、ご丁寧に俺の怪我の手当てをして、また出て行きやがった。昨夜も戻らない。それで俺はまたお前のところへ行ったのかと思ったんだ」
「出て行くときに引き止めなかったのか」
「ふん。何があったのか知らないが、俺の話なんて聞きやしない。ただただ泣いてわめいて、『このままではいられない』、『お世話になったお金は返す』の一点張りだ。それに引き止めようにも、俺のほうは怪我でろくに動けやしなかったからな」
「・・・・・・」
「いったい俺が今までいくらあいつに金を遣ったか・・・それを元の亭主に会うやいなや、あっさり俺を捨てていきやがった。まったく、たいした女だよ」
「・・・お互いさまだろ。いったい、この七年でお前は千鶴に何をした? レイプしたあげくに、金で縛って、言いように玩具にしていたんだろう」
 凄いほど怒気を孕んだ声で、時雄は言った。
「お前が千鶴の人生を壊したんだ。俺の人生もな」
 木崎は一瞬怯んだようだったが、すぐに持ち前の皮肉な笑みを浮かべた。
「たしかにそうかもな・・・だが、俺だって別に幸せだったわけじゃない。ずっと、長い間」
「知るか」
 時雄は短く吐き捨てた。
「俺は大学時代ずっと、あいつのことが好きだった。それはお前も知っているだろう?」
 時雄の言葉を今度は木崎が無視して、話を続けた。
「だが、お前がいた。お前もまた千鶴のことが好きで、なんとかモノにしようとしていることは、すぐ分かったぜ。内心焦ったよ。お前には、お前にだけは勝てる気がしなかったからな」
 いつも尊大な口調でしか、時雄に向かい合わなかった木崎が、なぜかそのときは様子が違っていた。そんな木崎に時雄は戸惑いを覚えた。
「そして筋書き通りに、千鶴はお前のものになった。あのときは、口惜しくてたまらなかった。逆恨みとは分かっていても、千鶴も、千鶴を奪っていったお前のことも、憎くてしょうがなかった」

 木崎の千鶴への思い入れも、時雄と同じく凄まじいものがあった。
 同じサークルにいる以上、いやでも時雄と千鶴が、恋人となった千鶴の姿が目に入る。それが苦痛で仕方ない。ならばさっさとサークルをやめればいいのだが、木崎はそれもしなかった。あくまで千鶴に執着していた。
 だが、そのときはまだ千鶴を時雄から奪い取ってやろうとは考えていなかったという。
「最初に千鶴がお前のものになったと聞いたとき、ああ、やっぱりなと思った。俺はもともとお前を恐れていたんだ。俺には、お前が別の次元にいる人間のように思えた。絵の才能も男としても、とてもかなわないと思っていた」
 だが、屈折した木崎は内に秘めた思いを口に出すことはなく、むしろ傲慢な調子で時雄に接した。時雄が年下だったことも、木崎のプライドを刺激したようだ。
 とはいえ、時雄から千鶴を奪うことは出来そうにない。二人は誰が見ても似合いのカップルだった。
 だからといって、千鶴を忘れられもしない。
 あるときなどは千鶴のあとをつけて、時雄のアパートの部屋に入るのを見とどけ、それから朝までそのアパートを外から眺めていた。
「暗すぎて笑えるだろ? あの頃はとても正気じゃなかったな」
 自嘲の笑みを浮かべながら、木崎は回想した。

 やがて、木崎にとっては暗い思い出となった大学時代が終わった。
 一時は美術関係の職につくことを志した木崎はしかし、平凡なサラリーマンとなり、平凡な毎日を送っていた。恋に敗れ、夢に敗れた木崎は新しい何かをみつけることも出来ず、ただ鬱々としていた。
 そんなときである。大学の美術サークルの同窓会の話が持ち上がった。
 その知らせを聞いたときはもちろん断ろうと思っていた。しかし、そのとき電話してきたかつての仲間の話を聞いて、木崎は顔色を変えた。
 大学時代の苦い思い出の象徴ともいえるあの男。今では千鶴と結婚したあの横村時雄が、かつて木崎も志望していたデザイン系の会社に就職しているという。
 時雄は木崎の手に出来なかった夢も、恋もすべて手に入れたのだ。
 電話を切った後も、その日はショックでずっと寝つかれなかった。
 敗北感、喪失感、そして嫉妬の念が木崎の中でどろどろと渦巻き、身を焼いた。
 千鶴の顔が浮かぶ。大学時代、時雄も千鶴もシャイな性格なので、人の目のあるところでは決してべたべたしなかったが、ふとした瞬間に千鶴が時雄を見つめていることに気づくことがあった。その顔に浮かんでいる幸福さと愛しさの表情は、まさに恋する女のそれだった。
 いったい何度、苦い想いでそんな千鶴の表情を木崎は見つめたことだろう。
 友人からの電話で、絵に描いたような二人の近況を聞いたとき、木崎の脳裏に浮かんだのは、まさにそのときの千鶴の表情だった。
 あの女は今もまだ時雄の傍らで、そんな幸せな表情を浮かべているのだろう。
 その様子を思い浮かべると、木崎は気がおかしくなりそうだった。いや、すでにおかしくなっていたのかもしれない。そのときにはもう、木崎の頭にうっすらとあの同窓会の夜の計画が具体的な形を取りつつあったのだから。

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