桐 10/13(土) 01:05:50 No.20071013010550 削除
「四人でちょうど良い大きさだな」
「そうですね……」
有川に話しかけられた麻里は隆一から顔を逸らすようにして頷く。有川の視線はじっと江美子に据えられており、江美子は恥ずかしさにますます動揺する。
(やっぱりはしたない声を聞かれてしまったのでは……)
どぎまぎしている江美子に、有川が話しかける。
「さっき麻里に似ていると申し上げましたが、やはり麻里よりずっと若いせいか、肌の張りが違いますね」
江美子を品定めをするような有川の口調に、隆一の顔が不快そうに歪む。麻里があわてて「あなた……」と有川をたしなめる。
「いいじゃないか。お互いに裸なんだから飾ったことを言ってもしょうがない」
有川はそう言うとニヤニヤ笑いを浮かべる。
(先にお湯から出ようか……でも……)
この位置では出るときに有川にまともに裸のお尻を見られることになる。有川は女の好みが隆一と同じで、大き目のお尻が好きだと自分で公言していた。
隆一から麻里を奪った有川の目の前に、タオル一枚で覆われた裸をさらすだけでもたまらなく恥ずかしいのに、その好色な視線にお尻をさらすなんてとても出来ないと江美子は考える。
「家族風呂にいたんじゃないのか」
隆一がたまりかねて口を開く。有川は今度は隆一のほうを向いてにやりと笑う。
「札を見たのか」
「ああ」
「あんな風に予約の札を出しておけば、お前たちが俺たちを避けて露天風呂に入るんじゃないかと考えたんだ。まんまと予想が当たった」
隆一が苦々しい顔つきになる。
「北山の行動はだいたい予想がつくよ。学生の頃からそうだっただろう。俺が予想が出来なかったのは麻里に対する手の早さだけだ。いや、あれは麻里の方の行動が予想できなかったと言った方がいいか」
「何をしに来たんだ」
「俺たちが露天風呂に入っちゃいけないか? いや、こういう言い方はさすがにずるいな」
有川はニヤニヤ笑ったまま続ける。
「北山と仲直りをしたいんだ」
「仲直りだと?」
隆一は眉を上げる。
「お前……お前たちが五年前に、俺に対して何をしたのか忘れたのか?」
「もちろん忘れてはいない。悪かったとは思っているよ」
有川は依然として顔に微笑を貼り付けたまま隆一に視線を向けている。
「しかし、あの件についてはこちらも慰謝料を払って解決しただろう」
「解決なんかするもんか」
「そういわれても困る。お互い示談書に署名したということは法的には解決したということだ」
「気持ちの問題だ」
「気持ちの上でも吹っ切れたから、お前は再婚したんじゃないのか」
有川はもう笑ってはいなかった。有川の言葉に隆一は黙り込む。
「昔の話にさかのぼるときりがない。俺はお前と麻里が結婚する前から麻里のことが好きだった。それはお前にもきちんと話していただろう。それを抜け駆けのように俺から麻里を奪ったのは北山じゃないのか」
「奪ったわけじゃない」
「本当にそうか? 俺が麻里と何度か2人だけで会っていたことはお前にも話していた。お前が俺と同様、麻里に気があるのはもちろんわかっていたが、だからこそ正々堂々と俺のやっていることを公開していたんだ。しかし、お前はその陰で俺に内緒で麻里と会っていた」
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