桐 10/14(日) 14:16:30 No.20071014141630 削除
罪を犯しながらも麻里を手に入れることが出来なかった有川は、いつか再び麻里が自分の元から去るのではないかと脅えている。そんな有川にとって、隆一が再婚したということは朗報だっただろう。
(やはり有川さんは、なんらかの手段を使って私たちがここに泊まるのを知って、待ち伏せしていたのでは…)
理穂が何らかの機会に、いまだある程度の交流を持っている麻里の父親──理穂の祖父に、この週末の隆一と江美子の不在を知らせたのかもしれない。
(いえ、今はそんなことはどうでもいい。隆一さんが麻里さんと復縁するのを望まないということでは、私と有川さんの利害は一致しているのだ)
江美子は湯の下で手を伸ばし、隆一の手を握る。隆一がしっかりと握り返してきたのを確認した江美子は、裸身を摺り寄せるようにする。隆一は江美子の方に顔を向けるとこくりと頷く。
「有川、やめろ」
隆一の声に有川は、麻里を愛撫する手を止める。
「そんなことをしなくても、俺はもう麻里には未練はない。お前の言うとおり、もうこだわりは捨てよう」
「本当か」
「本当だ、まあ、すぐにすべて元通りというわけにはいかないが」
「……」
「ただ、俺の前で麻里のそんな姿を見せないでくれ。あまり気分がいいものではない。俺もお前に対して、それだけはしなかったはずだ」
有川は虚を衝かれたようなような顔つきをしていたが、やがて苦笑を浮かべる。
「……そうだな。それは北山の言うとおりだ。悪かった」
有川は神妙に頭を下げる。
「江美子さんにも申し訳ないことをした」
「いえ……」
「せっかくの水入らず──風呂の中で水入らず、っていうのもなんだかおかしいが──のところを失礼した。俺たちは先に上がるよ」
有川はそう言うと麻里の方を見て、「いくぞ」と声をかける。
麻里は湯の中でタオルを身体に巻き、隆一に一礼し、江美子に向かって「江美子さん、ごめんなさいね」と声をかける。
「いえ、いいんです」
江美子はほっと胸をなでおろす。
有川はタオルを腰に巻きながら立ち上がり、麻里の手を引くと隆一に顔を向ける。
「それじゃあ、ゆっくりしていってくれ、ってまあこれも俺が言うせりふじゃないのかもしれないが」
「ああ」
最後に麻里がもう一度隆一と江美子にお辞儀をする。バスタオルから白い乳房がこぼれそうになっているのが江美子の目にまぶしく映る。有川は麻里の腰に手をまわすようにしながら、脱衣所の方へ歩いていった。
隆一は無言で二人の後ろ姿を見送っている。有川と麻里が完全に見えなくなったとき、江美子が隆一に声をかける。
「隆一さん……」
「ああ」
隆一はそこで改めて江美子の存在に気づいたような顔をする。
「江美子にはおかしなことに巻き込んでしまって、悪かったな」
「いえ、いいんです……でも……」
江美子は再び隆一の手を握る。
「これからまた、有川さんと以前のような友達付き合いをするんですか?」
「まさか」
隆一は微笑を浮かべる。
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