桐 10/22(月) 21:58:42 No.20071022215842 削除
「すみません、少しお手洗いへ……」
椅子から立ち上がった江美子は急にふらつき、麻里に抱きとめられる。
「大丈夫、江美子さん」
「だ、大丈夫です」
手洗いに行った江美子は鏡の中の自分の姿を見つめながら考え込む。
(麻里さんの言うとおりなんだろうか……本当に隆一さんは私の中に麻里さんの面影を……)
鏡の中の自分の姿が、隆一に見せられたアルバムの中の麻里の顔と一瞬重なるような気がした江美子は、再び軽い眩暈を知覚する。
(いけない……落ち着くのよ、江美子)
江美子は必死で気持ちを落ち着けようとする。ふと腕時計を見た江美子は、すでに11時近くになっていることに気づき慌てる。
(隆一さんにメールを打たなくちゃ……)
江美子は携帯電話をカバンから取り出し、キーを打ち始める。その夜のその後の江美子の記憶はすっかり抜け落ちていた。
目を覚ましたとき江美子は自分が見慣れないベッドの上に仰向けに横たわっていることに気づく。下着姿の江美子は反射的にシーツを胸元まで引き上げる。
(しまった……)
ここはどこだろう。少なくとも自宅ではない。いったいゆうべ、あれから自分はどうしたのだろうか。
江美子が混乱していると、麻里が珈琲が入ったカップを持って入ってくる。
「あら、やっと起きたのね、江美子さん」
「ここは……」
「私のマンションよ」
麻里がにっこりと微笑む。
「江美子さん、昨夜すっかり酔ってしまって、とても一人では帰れそうになかったから、このまま泊まっていただいたの」
「えっ……」
麻里がカーテンを開ける。朝の光がさっと差し込み、江美子はまぶしさに目を細める。
「ごめんなさいね、私が調子に乗って泊まっていったら、なんて勧めたせい……」
「いけない、隆一さんが……」
江美子は自分が帰ってこないことに隆一が心配しているのではないかと、慌てて携帯電話を取り出し、送信メールの履歴をチェックする。
『隆一さん、ごめんなさい。つい友達と話し込んで遅くなってしまいました。今夜は彼女のマンションに泊めてもらいます。先に休んでいてください』
(これは……)
確か手洗いで携帯を取り出し、隆一にメールを打ち始めた記憶はある。しかし、こんな内容だっただろうか……。
(帰りが遅くなると打ったつもりだったんだけれど……)
次に受信メールを見る。江美子からのメールを受け取った隆一からの返事である。
『たまには女同士でゆっくり話をしてくるといい。友達にあまり迷惑をかけるなよ』
結果として隆一には心配をかけていないことがわかり、江美子はほっとする。一方で江美子は「友達」というのが実は麻里のことだということを隆一に告げていないことに罪悪感を覚える。
「大丈夫?」
麻里が江美子に声をかける。江美子はそこで改めて、昨夜麻里に対して醜態を見せたことによる恥ずかしさがこみ上げる。
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