桐 10/24(水) 21:44:21 No.20071024214421 削除
次の週の半ばになっても、江美子は孝之に連絡が取れないでいた。
いや、こちらから連絡をしていないのである。あの後落ち着いて考えてみたが、孝之が今になって江美子の卑猥な画像を隆一に送ってくるのはいかにも不自然である。確かに孝之は卑劣な人間だが、半面小心で計算高い。自爆テロのような愚かな振る舞いは孝之にはどうにも似つかわしくないのだ。
さらに江美子には、孝之からあのような写真を撮られた記憶はない。子供の付き合いではないのだから孝之とは肉体関係があったし、彼に妻子がいると判明するまでは恋人だと思っていたから、行為の後で寝入ってしまうことはあった。その際にあのようなしどけない姿を撮影された可能性はないとはいえない。
しかし、孝之の軽躁な性格上、そういったことをしたら江美子に対して黙っていられないのではないかと思うのだ。
それに江美子が見せられた二枚の写真、そのうち下半身を撮影したものは江美子のものだとは限らない。ネットから拾ってきた卑猥な画像を送ってきただけかもしれない。
(孝之でないとすると、いったい誰が……)
残業でかなり遅くなった江美子は会社から帰る電車の中で、窓に映る自分自身の姿をぼんやりと見つめながら考える。
だからといって孝之以外の「犯人」も江美子には思いつかない。江美子に対して、または隆一に対して恨みを抱いている人間がいないか思い巡らせてみたが、見当がつかない。また、もしそうならもっと直截的な方法をとるのではないかとも思うのだ。
(ひょっとして……)
江美子は麻里の顔を思い浮かべる。
麻里なら出来るだろうか──江美子はその可能性を考える。
先週の金曜に、うかつにも酒に酔って麻里のマンションに泊まったとき、寝顔を撮影された可能性はある。それを麻里は、自分の携帯を使って隆一の携帯に送ったのではないか。
(しかし、それなら『水』と記されていたのはなぜ? どうして孝之さんと私の関係を知っている?)
麻里は江美子が酒に酔って「主に隆一とのセックスの話」をしたと告げた。その時は水上との不倫の関係まで喋ってしまったかと慌てた江美子だったが、いくらなんでも自分がそこまで自制心を失うとは思えない。
(それに、メールに添付されていた写真の髪の色が栗色だったことが理屈に合わない)
もし麻里が自分を撮影したのなら、当然髪の色は今のもの──黒であるはずだ。ウィッグを使って撮影すれば、栗色の写真も撮れるが、そんなことをしたら少なくとも現在は江美子が水上と関係を持っていないことを証明しているようなものである。
(いずれにしても、私と隆一さんの関係に水を差したい人間がいることは確かだ)
確信が持てない以上、こちらから動くのは禁物だ、と江美子は考える。水上との関係について隆一にきちんと話せていないのは、江美子にとってウィークポイントでもある。
(いずれは話さなければならない。だけど、今はその時ではない。今の隆一さんは、麻里さんがと久し振りに再会し、おまけにそれが自分から麻里さんを奪った有川さんと一緒だったからかなり動揺している)
結論がでないまま家に着く。玄関に隆一の靴があるところを見ると、先に帰っているようである。
「ただいま」
声をかけるが返事がない。江美子が戸惑っていると、寝室から隆一が顔を出した。隆一の顔は今朝見た時と比べてすっかり憔悴していたので江美子は驚く。
「隆一さん……」
「入れ」
隆一に促されて江美子は寝室に入る。
「さっきまたメールが届いた」
「えっ」
驚く江美子に隆一が携帯を突き付ける。そこには裸の江美子がうっとりと目を閉じ、硬化した男の肉棒を咥えている写真が表示されていた。
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