桐 10/26(金) 23:22:54 No.20071026232254 削除
「……いえ」
「その後どれくらい続いたんだ」
駄目だ、全部知っている。もうごまかすことは出来ない。
「……一年くらいです」
「その間、水上の奥さんや子供に悪いとは思わなかったのか」
「もちろん悪いとは思っていました。早くやめようと……」
「嘘をつくな。本当に悪いと思っていたらどうしてそんなことが出来る」
「水上さんが、夫婦生活はもう破綻していると言ったから」
「それを信じたのか。本当はどうだったんだ」
「……破綻していませんでした。私と付き合っている間に次のお子さんが出来て……結局それが別れる決定的なきっかけに……私、馬鹿でした」
隆一は土下座をしている江美子にじっと悲しげな視線を向けている。
「麻里も有川にそう言っていたそうだ。俺との夫婦生活は破綻していると。おまえは有川や麻里と同じ種類の人間だ。平気で人を裏切ることが出来る」
「……そんな……違います」
「どこが違うんだ。おまえがやったことと有川がやったことは男と女の立場を変えれば全く同じだろう。違うのはおまえは水上の奥さんにばれなかったが、有川は俺にばれた」
「隆一さん……」
「いや、違うところは他にもあるな。有川と麻里は俺に償いをしたが、おまえと水上は水上の奥さんに何の償いもしていない。そういう意味ではおまえ達の方がたちが悪い」
「そんな……」
「江美子、おまえは不倫相手のことも恋人というのか?」
「えっ」
「この前水上からメールが来た時、おまえは水上のことを昔の恋人としか言わなかった。不倫の関係にあったことを隠していたのはなぜだ」
「……」
隆一の追求に江美子は言葉を詰まらせる。
「隆一さんに……嫌われたくなかった」
「俺は嘘をつかれるのが嫌いだ」
「嘘をついた訳ではありません」
「夫婦の間で、大事なことを黙っているのは嘘をついているのと同じだ」
「隆一さん、聞いてください」
江美子は必死な目を隆一に向ける。
「私が水上さんと不倫の関係にあったのは事実です。でも、最初は水上さんが結婚していることを本当に知らなかったのです。さっきもお話したとおり、知ったのは彼との結婚を意識した、付き合い始めてから一年ほどたってのことです」
「そこできっぱり彼との付き合いをやめるべきでした。私に対して一年もの間、大事なことを話していなかった彼が、今さら奥様とは破綻している、いずれ離婚するなどと言っても信じるべきではなかった。それは頭では分かっていたのです。そう出来なかったのは私の未練です。その時の私は彼を本気で愛していたのです」
「隆一さんの言うとおり、確かに私は不倫の罪を犯しました。奥様に償っていないと言われればその通りです。でも、私は私で苦しんだのです。その後ずっと男性不信になり、結婚も諦めていました。でも、隆一さんに出会ってから私は変わりました」
「事前にお話しておくべきでした。でも、その時はそれがそれほどまでに重いことだと思っていなかった。隆一さんと奥様の離婚の原因が、奥様の裏切りにあるとは知らなかった。もし知っていれば……」
駄目だ、何を言っても言い訳になる。私は本当は何を言いたいんだろう。
「私はあなたを愛しました。本当は、私の醜い過去が知られることであなたに嫌われたくなかった……」
そこまで言った江美子は振り絞るような声で泣きじゃくる。
「……今は本当に、水上とは何もないのか」
江美子はこくりとうなずく。
隆一はしばらく黙ったまま江美子を見下ろしていたが、やがて口を開く。
「すまないが、江美子の言うことをすぐに信じることは出来ない」
「隆一さん……」
「乱暴なことをして悪かった」
隆一はそう言うと寝室を出て行く。残された江美子は裸のまま床にしゃがみこみ、いつまでもすすり泣いていた。
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