桐 10/29(月) 21:09:44 No.20071029210944 削除
(私の時と同じだ)
江美子は言葉を失い、麻里の話を聞いている。
「おまけに一度だけのことなのに、そのメールには私はもう何度も有川さんに抱かれると書かれてあったの。私はパニックになったわ。絶対に秘密を守ってくれると約束してくれたのに、有川さんに裏切られたと思った」
「それで、麻里さんは認めたのですか?」
「否定したわ。でも、私の青ざめた顔色やうろたえた態度が私の言葉を裏切っていた。その日は週末だったから、携帯電話を取り上げられた私は寝室から一歩も出ることを許されず、有川さんに連絡を取ることもできなかった」
「その間もメールは次々に届いた。私が有川さんと……口には出せないような卑猥なことまで行っているという内容のものーー普段の私は貞淑そうな仮面を被っているだけで、実態は淫らな牝猫だと。それらのメールにももちろん写真が添付されていて……」
「厳しく責め立てられた私はついに有川さんとの関係を認めた。隆一さんは有川さんをすぐに呼び出し、問い詰めた。有川さんは一切の言い訳をせず、すべて自分が私を隆一さんから奪いたくてやったことだと認めたの」
「そんな……」
麻里の衝撃的な告白に江美子は息を呑む。
「麻里さんは弁解しなかったのですか。メールの内容は嘘だと」
「そうしたかったわ。でも、一度だろうと何度だろうと、私が隆一さんを裏切ったのは事実よ。その時の彼の悲しそうな顔を見ると、その時の私は何も言えなかった」
「そんなこと、変です。有川さんにメールのことを抗議しなかったんですか」
「もちろん後になって問いただしたわ。どうしてあんなメールを送ったんだって。でも彼は約束は破っていない、メールを送ったのは自分ではないと言ったの」
「えっ……」
江美子は驚きに目を見開く。
「それじゃあ、一体誰が」
「隆一さん自身よ」
「そんな……まさか……」
「私もまさかと思った。でも、そうとしか思えないの」
麻里は静かに首を振る。
「私が有川さんとその……関係を持った時、写真を撮られることはなかった。有川さんもそんなことを要求しなかったし、要求されたとしても私は絶対に拒んだわ。私が眠っている間に撮られたのかとも思ったけれど、どう考えてもその……無理なポーズがあったわ」
麻里は頬を薄赤く染めて口ごもる。
「目の前にどんな証拠が突き付けられようとも、私は断固として否定すべきだった。そうすれば、隆一さんは私のことを信じたと思うの。私は彼が差し出した踏み絵を踏むことが出来なかった。いえ、平然と踏めばよかったものを、ひどく狼狽してしまった。それが隆一さんの不信感を決定付けたのよ」
江美子は麻里の告白を、言葉を失って聞いている。
「江美子さん、これからもし、隆一さんがあなたに対して同じようなことをすることがあったら、全力で否定するのよ」
「えっ」
江美子は麻里の言葉に虚を突かれる。
「たとえその中に真実の一端があったとしても、すべて否定するの。そうすれば隆一さんは安心するわ。あなたを試すようなこともいずれしなくなる」
「……」
「まあ、こんなことを言わなくても江美子さんは心配ないわね。私のように隆一さんに対して隠さなければならないことは何もしていないだろうから」
麻里はそう言うと微笑する。江美子はそんな麻里の表情に気圧されるものを感じながら頷く。
「隆一さんとはその後うまくいっているの」
「え、ええ……」
「何だかはっきりしない返事ね、何か心配があるの?」
「いえ……」
「やっぱりセックスのことかしら?」
「えっ……」
麻里の唐突な問いかけに江美子は狼狽する。
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