桐 10/30(火) 21:19:58 No.20071030211958 削除
「江美子さん、この前この店で飲んでいる時に、私にそのことで悩んでいるといっていたじゃない?」
「私、そんなことを言ったんですか?」
「あら、覚えていないの?」
「ええ……」
江美子はちらりとカウンターの向こうのバーテンダーに視線を向ける。バーテンダーは素知らぬふりでグラスを磨いている。
「そんなに酔っていたかしら……そう、確かに酔っていたわね。あの時は私も、調子に乗ってお酒を勧めて、悪かったわ」
「いえ、いいんです」
江美子は首を振る。
「それより私、何を言っていたんですか?」
「ちょっと言いにくいわね……やっぱりもう少し飲みましょう」
麻里はカクテルのお代わりを注文する。2つのグラスがカウンターに並べられると、麻里はそれが癖なのかグラスを掲げて「乾杯」と声を上げる。
麻里が一気に3分の1ほどグラスを空けるのに釣られて、江美子もレモンライムの爽やかな味が利いたカクテルを飲む。少し酔いが回るのを感じ始めた江美子の耳元に、麻里がそっと囁く。
「もっと隆一さんにベッドの中で愛されるにはどうしたらいいか、って私に聞いていたわ」
「えっ……」
江美子は頬が一気に赤くなるのを感じる。
「私、そんなことを麻里さんに聞いたんですか」
「そうよ、本当に覚えていないのね」
「ええ……」
麻里は困惑する江美子を楽しそうに眺めている。
「それで……」
江美子は羞恥に頬を赤らめながら口ごもる。
「それで、何なの?」
「麻里さんは何と答えたんですか」
「まあ、やはりそれが悩みだったのね」
麻里は小さく笑うと、足元に置いた紙袋を持ち上げると、中から紙の包みを取り出す。
「その時は私も酔っていたせいか名案が浮かばなかったの。後でいろいろと考えたのだけれど、これが一番手っ取り早いわ」
「何ですか、これは」
「開けてみて」
麻里はそう言って包みを江美子に手渡す。江美子が包みを破ると、そこからオレンジ色のトレーニングウェアが現れた。
「これは……」
「セパレーツタイプで、下はスパッツになっているの。身体にぴったりフィットするようになっているから、これを着る時は普通の下着は駄目よ」
麻里はさらに小さな紙の包みを手渡す。江美子がそれを開こうとすると麻里は「ここでは開けないで」と止める。
「スポーツ用のTバックよ」
「まあ……」
「ストレッチやヨガ、エアロビクス、なんでもいいからあの人の前で動き回りなさい。思い切りお尻を突き出すのを忘れないでね」
「そんなこと……」
「K温泉で言ったでしょう。隆一さんは女性のお尻が大好きなの。特に大きくて形の良いお尻が」
確かに自分と麻里は胸はそうでもないが下半身が豊かなところが似ている。有川はそれが隆一の変わらない好みだと指摘したが、隆一がそんなに女性のお尻に対する執着があったとは、江美子にとっては意外なことだった。
「それじゃあ、健闘を祈るわ。これは私から江美子さんへのプレゼントよ」
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