桐 10/30(火) 21:21:25 No.20071030212125 削除
次の日、土曜の朝、理穂が学校へ行った後、隆一と江美子はマンションで二人きりになる。孝之の件が後に引いているのか、隆一との間は相変わらずぎこちない。ダイニングで無言で新聞に目を落としている隆一を見て、江美子は小さくため息をつく。
(このままではいけない……)
悪気はなかったとは言え、孝之の件を黙っていたのは自分に責任がある。なんとかこの状況を打開しなければ――江美子はそう思い定めると寝室へ向かう。
江美子は姿見の前で裸になると、昨夜麻里から手渡された紙袋から白いTバックショーツを取り出して身につける。
(これは……)
江美子はこれまで実用度の高い、地味な下着しか身につけたことがない。余分な飾りのないスポーツ用のTバックは実用本位だが、それを履いた自分の姿は思いがけないほど扇情的である。
白い布地がいわゆるVゾーンに食い込み、股間の筋までが浮き出しているようである。江美子は顔を赤らめながら、脇からはみ出した陰毛をショーツの中に押し込める。
次に身体を反転させた江美子は、自らの後ろ姿を見ていっそう狼狽する。ショーツの布地は江美子の双臀の割れ目に食い込み、豊かな両の尻肉はすっかりあらわになっている。
(これなら裸の方がずっとましだわ)
江美子は慌てて麻里から渡されたスポーツウェアを身につける。オレンジ色のウェアは、江美子の小麦色の肌に良く映えているが、セパレーツタイプの上衣の薄い生地には江美子の乳首がくっきりと浮き出しており、肌に張り付くスパッツも江美子の羞恥を和らげる役割はほとんど果たしていない。
(こんな格好で隆一さんの前に出たら何と思われるかしら……)
隆一はこれまで自分に対して清楚な印象を抱いていたのではないかと江美子は思う。そんな自分のイメージをぶち壊しにして、隆一を失望させることにならないかと江美子は懸念する。
(やっぱり私、とんでもない馬鹿なことをしようとしているわ)
そう考えた江美子がオレンジ色のウェアを脱ごうとした時、昨夜の麻里の声が蘇る。
『心配ないわよ、江美子さん。たまには貞淑な女の殻を打ち破り、娼婦みたいに隆一さんを悩殺してあげなさい』
『私は……そんな』
『あら、Tホテルの露天風呂で、有川さんの目の前で裸を晒したところなんか、私は感心したのよ。なかなか大した度胸だし、娼婦としての素質は十分だわ』
『あれは……麻里さんが先に……』
『私は有川さんに命じられたからだし、そもそも私は平気で不倫が出来る女よ』
『そんな……平気だなんて、思っていませんわ』
『気にしなくてもいいわ、江美子さん』
麻里は大きな瞳を妖しく光らせる。
『男は自分の妻に淑女と娼婦の、二つの役割を求めるものよ。昼は貞淑な妻でよき母親、夜は奔放な娼婦。二人の妻をほしがるのよ』
(二人の妻……)
江美子は鏡の中の自分の姿を改めて見つめる。
(そういえば、孝之も同じようなことを言っていた。自分には二人の妻がいるのだと。私は孝之の欲求を満たすための娼婦だったのだろうか)
そこまで考えた江美子は、急に胸が締め付けられるような感覚に陥る。
(もし、隆一さんが同じように二人の妻を求めたら、私には耐えられない。罪を犯した身だからわかる。利己的と言われようが、孝之の奥様のようには絶対になりたくない)
(隆一さんは私の不倫の過去を知ってしまった。私は隆一さんにとって、貞淑な妻の仮面をかぶり続ける訳には行かないのだ。奔放な私を愛してもらわないと……)
江美子はそう心に決めると姿見に向かい、薄く化粧を施す。そして黒髪をヘアバンドでまとめると思い切って寝室を出る。
オレンジ色のトレーニングウェアを身につけた江美子が、リビングルームに現れると、隆一は読んでいた新聞から顔をあげて江美子を見る。
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