桐 10/31(水) 21:20:50 No.20071031212050 削除
「どうした、江美子。その格好は」
「最近ちょっと太りぎみだから、ダイエットしようかと思って」
「そうか……」
隆一は興味なさそうに頷くと再び新聞に目を落とす。
江美子は気がくじけそうになるが、ここであきらめるのは早すぎる。江美子は麻里から借りたDVDをプレイヤーの中にセットする。
休日の朝、パジャマのままで新聞を読んでいる夫の目の前で、肌に張り付くようなセパレートのトレーニングウェア姿の妻がストレッチを始める。
(まるで安手のコントだわ)
江美子は自分がやろうとしていることの滑稽さと恥ずかしさにそう自嘲する。
モデルとしても有名な米国の映画女優が演じるワークアウトのビデオである。これに合わせて身体を動かせば、多少は恥ずかしさも紛れると麻里から勧められたものだ。
軽快な音楽とともにレオタード姿の女優が現れ、ストレッチを始める。江美子は画面の女優の動きを真似始める。テレビから流れる音が気になったのか、隆一が再び顔をあげて江美子の方を見る。
「ごめんなさい、うるさいかな?」
「いや、かまわないよ」
隆一はそう言うと再び新聞を読み始める。
江美子は出来るだけ隆一のことは気にしないようにしながら、ワークアウトに集中する。どうやら初心者向けのコースのようだが、日頃の運動不足のせいか、江美子にはかなりハードである。江美子は次第に夢中になって身体を動かし始める。肌が徐々に汗ばみ、ウェアの薄い生地が江美子の素肌に張り付いて行く。
画面の中の女優は大きく身体を前傾させ、お尻を思い切り突き出しながら背筋の運動を始める。手を床に付けて、身体をゆっくりと前に倒す。まるで猫が伸びをするような動作を繰り返す江美子は、いつの間にか隆一が自分の身体に時折視線を送っていることに気づく。
(こっちを見ているわ)
隆一に見られていることを意識し始めた江美子の身体が、急にかっと熱くなる。
(馬鹿なことをしている、と思っているかしら……でもここまで来たら恥のかきついでだわ)
硬い身体が徐々にほぐれていくのに従って、江美子の動きはより滑らかになっていく。DVDはストレッチの段階を終了し、ダンス音楽に乗った本格的なワークアウトが開始される。
10分もしないうちに江美子の息があがっていく。江美子は「はっ、はあっ」とリズムに合わせて息を吐きながら懸命に身体を動かす。
隆一はもはや新聞をテーブルに置き、江美子の動きに見とれている。江美子はそんな隆一の視線が、ウェアの薄い生地を通して肌に突き刺さってくるような気がする。
(隆一さん、気づいているかしら。私が挑発していることを)
激しい運動のせいか、江美子の頭は次第にぼんやりと霞んでくる。江美子は麻里の言葉を思い出す。
『貞淑な妻でよき母親、そして奔放な娼婦。男は二人の妻をほしがるのよ』
(私は隆一さんの前ではずっと貞淑な妻でいた。麻里さんに代わって理穂ちゃんの良い母親になりたいと思っていた。それなのにこんなことを……)
K温泉で有川と麻里に出会ったことが自分を変えたのか。それとも自分にもともとそういった素質があったのだろうか。
『娼婦みたいに隆一さんを悩殺してあげなさい』
(娼婦……そう、私は娼婦だわ。あられもない格好で隆一さんを誘う娼婦)
江美子は次第に夢中になって、画面に合わせてダンスを踊る。グラマラスな金髪美女が踊るダンスは不必要なまでにエロチックである。江美子は隆一の熱い視線を感じながら、次第に陶然としてくるのであった。
ワークアウトの映像が一時中断される。床に崩れ落ちそうになった江美子を、いつの間にかリビングに入って来た隆一がいきなり背後から抱き締める。
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