桐 11/3(土) 16:33:22 No.20071103163322 削除
(しかし、今度は違う。俺は二度と傷つきたくはない。そして理穂も傷つけたくはない)
(江美子に限ってそんなことはしないと思う。しかし俺は麻里の時もそう思っていた。理穂もいるのにまさか俺を裏切るまいと思っていた)
(何もなければそれが一番いい。しかし、疑いをそのままにしておくことは出来ない)
隆一は翳りがさしている江美子の顔をちらちら見ながらそう心に決めるのだった。
江美子が夕飯の材料が足らないからと買い物に出たのを見計らい、隆一は寝室に入るとタンスの引き出しを調べる。
(またもや女房の下着を調べることになろうとはな)
隆一は内心でため息をつく。下着が入っている引き出しを開けると、几帳面な江美子の性格を反映してか、白がほとんどの下着が奇麗に折り畳まれてしまわれている。ほとんどが隆一にも見覚えのあるシンプルなものだが、中に薄い青やピンク色の艶っぽいものが交じっている。
(これはたしか見たことがある。こっちはどうだっただろうか……)
隆一は奥の方にしまわれたパンティを一枚手に取り、畳み方を良く覚えてから広げて見る。白いレースに縁取られたそれは局部の所が極端に薄くなっており、陰毛まで透けて見えそうである。
(これはこの前はいていたな)
次に手に取ったパンティは手触りからしておろしてから間もないようだ。扇情的な赤のそれは隆一は見た記憶がない。
(どうも良く分からない。疑い出せばきりがない。そういう気持ちで見ればどれもこれもが怪しく感じられる)
隆一は広げたパンティを見ながら考え込む。どれもこれも見たことがあるようで、実は定かではない。そこで隆一はあることに気づく。
(麻里の持っていたものと似ている)
それで分からなくなっていたのだ。隆一の記憶がやや混乱しており、下着には見覚えがあるのだが、それを麻里がはいていたのか、江美子がはいていたのかがはっきりしなくなっているのだ。
(しかし、麻里と別れたのはもう5年も前のことだ。それなのにまだ、江美子のことと混乱するほどその記憶が鮮明だというのか)
少なくとも、江美子の下着の趣味は最近急速に変わって来ている。以前はこのような派手な下着は決して身につけなかった。
(K温泉に行ってからだ。あそこで麻里と有川に会ってから、江美子の様子が変わった)
しかし、なぜ……。
江美子に問いただすべきか、と隆一は考える。
(何も証拠はないのだ)
以前送られて来た「水」という男からのメールも、その後ぱったりと来なくなり、江美子の言った通り、ただの嫌がらせだということで決着している。江美子自身に関しても以前から変わったということは確かだが、寝室の中で積極的になるというのは男にとってはある意味で望ましい変化であり、文句を言うべき筋合いのものではない。
(浮気をすると夫とのセックスを拒むようになるというし……江美子の場合それは一切ない。むしろ自分から求めるようになったほどだ)
それではやはり浮気ではないのか。
(いや、そうと決めつけることは出来ない)
麻里が有川と関係していた時、俺とのセックスを拒んでいた訳ではなく、むしろ積極的だった。だから江美子についても浮気をしていないとは言えないのだ。普通の浮気相手なら、女が亭主とセックスをすることはおもしろくないだろうが、それを許容する男もいる。例えば……
(……有川)
隆一の頭の中に、K温泉で会った有川の顔が浮かぶ。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)