桐 11/4(日) 09:18:15 No.20071104091815 削除
「そうですね、ちょっと遅くなってしまいました。ごめんなさい」
江美子は微笑すると靴を脱ぐ。出掛ける前に見られた翳りは、今の江美子からは感じられない。
「どうかしましたか?」
自分にじっと注がれる視線を感じたのか、江美子は小首を傾げて隆一を見る。
「いや、なんでもない」
「おかしな隆一さん」
江美子は微笑すると「少し汗をかいたので、着替えて来ます」と言い残し、寝室に入る。
(今日は確かに晴れていて、もう12月としては暖かいが、ちょっとばかり外に出ていたからといって汗ばむほどだろうか)
隆一は江美子の後ろ姿を見送り、首をひねる。そのまましばらく隆一は悶々としていたが、思い切って寝室の扉を開ける。
「きゃっ」
素っ裸の江美子が驚いて立ち竦んでいる。ベッドの上にはそれまで着ていたセーターやスカートが畳まれ、脱ぎ捨てられた純白の下着が床の上に見える。丸まっているので良く分からないが、レースをあしらった高級そうなものである。
「駄目よ、着替え中に入ってくるなんて」
「急に江美子の裸が見たくなった」
「もう……いくら夫婦の仲だって礼儀というものがありますわ」
江美子は裸のまま引き出しの中から新しい下着を出す。隆一には見慣れたシンプルなものだ。江美子は脱ぎ捨てた下着をつまみ上げ、白いバスタオルを身体に巻き、新しい下着とセーター、そして部屋着にしているジーンズを抱えて寝室を出ようとする。
「そんな格好でどこへ行くんだ」
「このままシャワーを浴びちゃいます」
「理穂が部屋にいるんだぞ」
「裸という訳じゃなし、さっと浴室へ入っちゃえば大丈ですわ」
「風邪を引くぞ」
「大丈夫です」
そう言うと江美子は部屋を出て、廊下を小走りに浴室へ向かう。
(ああいうことも昔はなかった。よくいえば、これまで俺と理穂の二人所帯だったこの家で、自分の家のようにくつろいでくれているということになるのだが)
隆一は心に引っ掛かるものを感じ、浴室へ向かう。音を立てないようにそっとドアを開く。
脱衣所に入った隆一は、曇りガラスの扉の向こうで江美子がシャワーを浴びているのを確認すると、脱衣籠の中を確認する。
(下着がない……)
自分で浴室へ持って入り、洗っているのか。
(シャワーを浴びたいといったのはそのせいか)
隆一は何げなく脱衣籠の中のセーターを押さえる。
(何だ?)
隆一は何か硬いものの感触を掌に感じ、畳まれたセーターをめくる。
(これは……)
そこで隆一が目にしたものは、ピンク色の小さなローターだった。
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