桐 11/6(火) 21:18:55 No.20071106211855 削除
(いきなり携帯を突き付けたのはまずかった)
翌日の日曜、朝食後の珈琲を飲みながら隆一は昨夜の流れを後悔する。
(確かに江美子の言う通り、あんなメールではなんの証拠にもならない。江美子のものでないかもしれないし、仮に江美子のものであってもなんでもない場面を写したものかもしれない)
江美子は昨日の朝同様、隆一に背を向けたまま食器を洗っている。理穂は友人と映画に行く約束をしているということで、朝から出掛けている。
隆一はちらと江美子の後ろ姿に目を向ける。昨夜と違ってパンツ姿だが、ぴったり生地のフィットしたそれには下着の線が見当たらない。
(またTバックか、それとも……)
隆一はそれ自身が生き物のようにくねくねとうごめく江美子のヒップをぼんやりと見つめる。
あんなことがあったのも、江美子はすっかり忘れたように平然としている。隆一を魅了する江美子の逞しいまでに豊満な尻も、一方でなにか女のふてぶてしさといったものを感じさせる。
昨夜いきなり素っ裸になった江美子は、隆一にのしかかり騎乗位の姿勢になると、激しく腰を使いあっという間に隆一の精を絞り取った。そしてことの終了後、唇や舌を使って隆一のものを奇麗に掃除したのだった。かつての江美子には考えられない積極的な行為だった。
「ああ、江美子、こんなに隆一さんを愛しているんです。そんな私が裏切るようなことをするわけないじゃないですか」
江美子はそんな風に甘く囁きながら隆一を粘っこく愛撫するのだ。
「わかるものか」
すっかり江美子のペースに乗せられた腹立たしさもあって、隆一はわざと冷たい口調でいう。
「不倫女の江美子のことだからな、完全に信じる訳には行かない」
「隆一さんの意地悪……」
江美子は隆一のものから口を離すと、くるりと後ろを向き、隆一の目の前で豊かな尻をゆらゆらと振るのだ。
「ねえ、お仕置きして、隆一さん。不倫女の江美子を思い切りお仕置きして……」
(勢いに負けてメールも削除してしまったし……これでは江美子に主導権を取られっぱなしだ。しかし、江美子がこんな強い女だとはおもわなかった)
江美子は隆一よりも六つ年下で、かつては職場での部下ということもあり、結婚前、いや、ほんの少し前まで隆一に対しては素直で、どちらかというと従属的な女だった。もちろん自分の意見をはっきりもっているところはあり、そんな強さに隆一がひかれたのは確かだが。
一方、今の江美子は少しでも隆一に疑いを生じさせるようなことがあれば、女の武器を最大限に駆使してそれを叩き潰していく。まるで別の人間になったようである。しかしながら以前と変わらない素直さや純真さも残っているのだ。昨日、理穂からマフラーをプレゼントされた時に流した感激の涙が偽りのものであったとは思えない。
(水上との不倫が発覚してからだ)
あれから江美子はしばらくの間沈んでいたが、ある時から開き直ったような態度を見せるようになった。水上との関係は隆一にとって愉快なものではなかったが、隆一と出会う前のことであり、江美子も最初は水上という男を独身だと思い込んでいたのだから、所詮、隆一が今になっていつまでも責め立てて良いような問題ではない。
結婚前に、相手に対して自分の過去をすべて明らかにしなければならないといった決まりはない。そんなことを言い出せば、隆一にも江美子に話していなかったことはたくさんあるのだ。
(たとえば、麻里と離婚した理由だ)
隆一は、麻里が有川と関係をもったことに対してはもちろん憤りを感じたし、今でも完全に許せた訳ではない。しかしそのことだけなら麻里と別れを選ぶことはなかっただろう。
誰にでも過ちはある。そして償えない過ちは滅多にないというのが隆一の考えである。理穂のためにも夫婦関係をやり直すという選択肢は当然隆一の頭の中にあった。
(しかし、俺は麻里との別れを選んだ。それは、俺が麻里のことが分からなくなったからだ)
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