桐 11/10(土) 09:29:42 No.20071110092942 削除
(何をとぼけているんだ)
隆一は皮肉っぽい気分になる。
(結婚している時は分からなかったが、これほど裏表がある女だったとは――。やはり俺の感覚は間違っていない。俺は麻里に裏切りを許せないから別れたのではない。麻里が人を裏切るような女だから別れたのだ)
「でも、折角のクリスマスなのに、私と食事なんて良いの?」
「イブはまだ10日以上先だ」
「まあ、その日は江美子さんと予定がありということね。ご馳走様」
麻里はくすくすと笑う。
「お前だって有川と過ごすのだろう」
「さあ、どうかしら。彼とはずっと会っていないから」
「そうなのか?」
「ええ、この前のK温泉以来会っていないわ。あの旅行だって本当に久しぶりなの。それまでも2年近く会っていなかったかしら」
「それなら、ずっと一人で暮らしているのか?」
「ええ」
それで寂しくなって頻繁にマンションに男を引き入れているのか。隆一はしげしげと麻里の顔を見る。
「どうしたの、私の顔に何かついているかしら?」
「いや」
隆一は首を振る。
食前酒と前菜が運ばれてくる。イタリアンとしては値段もかなりのものだが味は悪くない。しばらく世間話をしながら二人は食事を楽しむ。
いや、少なくとも隆一には楽しむ余裕はない。自分が江美子を陥れようとしていることなど素知らぬふうに、屈託なげに話す麻里が信じられない。
(麻里、いつからお前はそんな化け物のような女になった?)
聖母のような顔をして江美子を食い殺し、その後釜に座ろうとする。そんなことを隆一が許すと思っているのか。理穂を抱き込めばそれが可能だと思ったのか。
(有川とはもう切れている、と言いたいのもそういうことか? お前をずっと待っていた有川はどうなるんだ?)
隆一はたまらず麻里に切り出す。
「麻里」
「はい?」
「最近、江美子と会ったことがあるか?」
「えっ?」
フォークにパスタを巻き付けるのに夢中になっていた麻里は顔を上げ、怪訝そうな表情を見せる。
「いえ、K温泉以来会っていませんけど」
「本当か?」
隆一が念を押すと、麻里の顔が見る見る青ざめる。
「隆一さんはどこかで、私と江美子さんがいるのを見かけたのですか?」
「質問しているのは俺だ」
「まるで尋問ね」
「冗談を言っているんじゃない」
麻里はぐっと押し黙る。しばらく答えを待っていた隆一は沈黙したままの麻里に焦れて口を開く。
「渋谷のAというカウンターバーだ。そこで週に二回は江美子と会っているだろう」
「……」
「そこで男二人と待ち合わせ、四人でお前のマンションへ行く」
隆一の言葉を聞いた麻里は衝撃を受けたような表情になる。
(何をいまさら驚いている。自分がやっていることだろう)
隆一は麻里のわざとらしい演技に苛立つ。
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