桐 11/10(土) 17:08:01 No.20071110170801 削除
「それもいつも同じ男という訳ではない。周りから見たら男漁りそのものだ」
「……」
「別にそのことを非難するつもりはない。しかし、そんな自堕落なお前の行為に江美子を引きずり込むのはなぜだ?」
「……隆一さん」
「おまけに江美子の写真を撮らせて、ご丁寧に江美子の昔の男の名前で送ってくる。なぜそいつが俺のメールアドレスを知っているのかと不思議だったが、ようやく分かった。麻里が送っていたのだな」
「……違う、隆一さん、聞いて」
麻里は必死な表情を隆一に向ける。
「江美子がどうしてお前の男遊びに引きずり込まれたのかは分からない。暴力や脅迫を使ったという訳でないのなら、江美子のことはある程度は自己責任だ。もしそうならこのことについて麻里も江美子もそれほど責めるつもりはない」
「……」
「しかし、許せないのは理穂を使ったことだ」
麻里の表情が青ざめる。
「理穂を……」
「お前は理穂を通じて俺達の情報を得ていたのだろう? 俺達がK温泉に行くことも理穂から聞いていたか?」
「そんなことは……」
「おまけにお前は理穂を使って江美子の心を操ろうとした。江美子の不安感をあおりながら。白いマフラーはお前の差し金か?」
「白いマフラー?」
「理穂が結婚一周年のプレゼントに江美子にプレゼントしたものだ」
麻里は再び強い衝撃を受けたような顔になる。
「携帯メールを送って江美子が俺を裏切るのを見せつけ、俺が江美子に愛想を尽かすのを待っていたのか? それなのに俺がいっこうに行動に移さないから、理穂を使って探りを入れさせたか? 残念だったな。麻里の思ったようにはならないぞ」
言い過ぎているかもしれない。しかし、隆一はもはや言葉が激烈になるのを止めることができない。麻里はじっと顔を伏せ、隆一の次の言葉を待っている。
「俺がお前と別れたのは、お前が有川と不倫をしたからではない。お前が俺に対して裏切りの事実を詫びながらも、二度と繰り返さないとは約束出来ないと言ったからだ」
「……」
「あれでもう駄目だと思った。一緒には暮らせない。麻里と夫婦としてやっていくことは出来ないと」
「……わかっていました」
麻里は小声で呟く。
「何だと?」
「そのことが理由だと分かっていました。私は結婚すべきではなかったのです。でも、あなたと結婚しなかったら理穂は生まれて来なかった」
顔を上げた麻里の頬を幾筋も涙が伝え落ちている。
「あなた……隆一さん、お願いです」
「何だ」
「江美子さんに、二度と私に近づかないように言ってください」
「何だと?」
隆一は思わず聞き返す。
「何を訳の分からないことを言っている? 麻里が江美子を誘わなければ良いだけだろう」
「それが、あの時と同じなのです」
「あの時?」
「隆一さんとの別れの原因になった時です。二度と繰り返さないとは約束できないのです」
麻里は苦しげにそう言うと、隆一を見つめる。
「私も、自分の出来る限りのことはします」
「麻里……」
「隆一さん、理穂をよろしくお願いします。江美子さんとお幸せに暮らしてください」
麻里はそう言うと立ち上がり、深々と頭を下げる。そして白いコートを身に纏い、クリスマスソングの流れる青山通りへと姿を消して行った。
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