桐 11/10(土) 17:13:19 No.20071110171319 削除
「俺は麻里を少しでも癒してやりたかった。K温泉に行ってお前と江美子さんに会わせたのも、麻里の気持ちに区切りをつけさせることと、出来れば江美子さんを交えてでも、理穂ちゃんと定期的に会うことがの出来ればと思ったからだ」
「俺と江美子がK温泉に行くことは、理穂から聞いたのか?」
「理穂ちゃんは江美子さんがお前と結婚してからは、江美子さんに気を使って麻里とは連絡をとっていない」
「それなら、どうして?」
「理穂ちゃんがブログを開いていることを知っているか?」
「ブログだって?」
隆一は有川の意外な言葉に聞き返す。
「理穂はパソコンはやらないが」
「ブログは携帯でも更新出来る。マリアが偶然理穂ちゃんのブログを見つけた」
「そんな偶然があるのか?」
「結構人気のあるブログらしい。両親が離婚した女子中学生のブログってことでな」
隆一がショックを受けているのを見て、有川は「悪かった」と声をかける。
「俺が原因をつくっておいて、無神経だった。とにかくそのブログの存在を俺が麻里に教えた。さっきも言ったが、マリアの記憶は麻里は共有出来ない。だから必要に応じて俺はマリアから麻里への仲介役になった」
「麻里は理穂ちゃんのブログに匿名で書き込みをするようになった。自分が母親であることを明かさずに理穂ちゃんの悩みに色々とアドバイスをするのが麻里にとっての唯一と言って良い楽しみになった。理穂ちゃんが普段は強がりを言っているが本音では母親と会いたがっていることを知ったのもそのブログを通じてだ」
「麻里はお前と江美子さんがK温泉へ行くことを知った。理穂ちゃんは家族の思い出の場所へお前達二人が行くことを否定はしていなかったが、お前と麻里の三人で言った旅行のことを思い出すと寂しくてたまらないと……」
(麻里……理穂……)
隆一の心の中に深い後悔が湧き起こる。
(俺はなんて自分勝手だったのか。俺の知らないところで麻里が、そして理穂がそんな深い悲しみに苦しんでいたとは。二人の苦しみも知らず、江美子という新しい伴侶を得た俺だけが浮かれていたのか)
「理穂はコメントの相手が麻里だとは知らなかったのか」
「まさか……」
有川は首を振る。
「中学生とはいえ、女の勘を甘く見るもんじゃない。お互いに気づかないふりをしていただけだ。しかしそれが結果として、マリアにお前達、特に江美子さんの行動を把握させる手段となった」
「隆一、マリアは父親から、言葉に出来ないほどのおぞましい仕打ちを受けている。それが江美子さんに対する加虐性に向かっている危険性がある。俺がマリアを制御出来なかったために江美子さんに何かあったら――」
「わかっている」
隆一はうなずく。
「そうならないように、麻里、いや、マリアを止めなければ」
ようやくタクシーは目的地につく。隆一と有川は車から降りると、地下のバーへ向かう。
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