樹氷 投稿日:2008/01/09 (水) 15:34
その夜、私達夫婦は気まずい重苦しさに包まれながら過ごした。
妻は、リビングの尿まみれになったカーペットを、羞恥心を胸に秘めて、剥がし、クリーニングに出すべく整えていた。
お互いが、お互いの確信に触れぬままに、寝室へ行き、眠る事の出来ない時間が過ぎて行った。
私は妻の問い掛けに答える事が出来なかった。
「何で?何でこんなもん私宛てに送られて来たん?何でサイズぴったりなん?」
答える事は出来ない…
何故なら…それらを全て伝えるには、あのボンデージを…あのリアルな巨大な疑似ぺニスの装着されたボンデージを着た妻の予想を遥かに超えた変貌ぶりが、妻の秘めたる本質が重過ぎた。私の手元にある妻が、ボンデージを身に着け、自慰に耽り、乱れに乱れた姿を記録したボイスレコーダーの存在、そして何よりも山田君に私の願望を全て明かし、妻を嵌めたなど説明など出来無いのだ。
しかし…妻が巨根マニアだったとは…
私に嫁ぐ前の妻の彼氏が巨根だったとは…
この10年間は何だったのだろう…私は妻に接しながら、妻が性に淡白な女だと思い込んでいた。
しかし【妻は…妻の中には、性に貪欲な牝】が、深く根付き、長きの間、息を潜めていたのだ。
悶々とした思いの中で、時は過ぎて行き、やがて外は夜の闇が白々と明け始め、明るくなってきた。
眠れぬままに朝を迎えていた。
傍らで眠っている筈の妻も寝苦しそうだ…
案外、妻も様々な、やりきれぬ思いの中で眠れずにいたのかも知れない。
微かに昨夜の妻から発せられた淫臭と尿の匂いが残るリビングで、お互いが言葉少なく朝食を食べ、気まずい空気の中で私は仕事に出た。
しかし衣装部屋と寝室に再度ボイスレコーダーを仕掛ける事も忘れなかった。
形の見えない予感と不安が、そこにはあった。
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