投稿者:異邦人 投稿日:2004/09/17(Fri) 12:49
問いただせば簡単に済む問題も、自分が躊躇した瞬間から妻に対する疑いの形に代わって行った。
疑いを解決する方法は色々有るのかもしれない、灰皿を見つけた時に妻に問い詰める方法、或いは吸っている現場を押さえる方法。
いずれにしても、妻がガラムを吸っていた事は明白であり、この段階で私の中には妻の素行に興味が移っていたのかも知れません。
妻は長女の出産を期に一度勤めていた会社を退職したが、長男が生まれてから少しすると、
前の上司の進めもあり派遣社員の形で、また同じ会社に勤めていた。
その会社は、そこそこ名の知られた観光会社である、二度目の時は経験も評価され、添乗の仕事もある事を妻は私に納得させていた。
元来家に閉じこもっているのが似合うタイプの女性ではないと思っていた私は、妻の仕事に口を挟む期はなかった。
行動を起こすでもなく、数日が過ぎたある日仕事も速めに終わった私は同僚の誘いも断り、
妻の勤める会社の近くに私は足を進めていた。
妻の素行が知りたいという私の気持ちは、気づいた時には探偵の真似事をさせていました。
町の目貫通りに面した妻の会社は人道通りも多く、人並みの影から様子を伺うにはさほどの苦労は無かった。
午後6時頃現場に着いた私は、15分位でしょうか、探偵気取りで道路の反対側にある妻の会社の出入り口に神経を集中していると、
突然聞きなれた女性の声で、私は出入り口から目を話すことになった。
その女性は、妻の会社の同僚の佐藤さんでした。
「奥さんと待ち合わせですか?」
突然の会話に、答えを用意していない私は多少狼狽していたことでしょうが仕事の関係上帳尻を合わせて会話するのは容易でした。
「たまたま近くに居て、仕事が速く終わったので女房を脅かしてみようかと思って」
「大分待ったんですか?」
「そんなでも無いですよ、今来たばかりです。」
「そうなんだ、でも連絡すれば良かったのに、奥さんもう帰りましたよ」
「そうなんですか。」
「今 私と別れたばかりですよ、そこの喫茶店で。」
新婚当時、妻がまだ正社員の頃は何時も夕方6時ごろに会社に迎えに行きデートをした記憶があった私は、
固定観念のみで行動を起こしていた。
「あの頃とは違うんですよ、奥さん派遣なんだから残業はあまりしないのよ。」
「そうなんだ、昔の癖が抜けなくて。」
「御暑いことで、ご馳走様。」
「今追いかければ、駅で追いつくかも?」
「良いんです、別に急に思いついたことなんで。」
多少の落胆を感じながらも、私は好期に恵まれたような気になって会話を続けた。
「佐藤さんはこれからどうするんですか?、もう帰るんですか。」
「特に用事もないし、帰るところ。」
「この前飲んだの何時でしたっけ?」
「大分前よ、2ヶ月位前かな?、武井君の結婚式の2次会以来だから。」
私たち夫婦は、お互いの会社の同僚や部下の結婚式の二次会には、夫婦で招待を受けることが多く、その時も夫婦で参加し、
三次会を私たち夫婦と佐藤さんや他に意気投合した数名で明け方まで飲んだ記憶が蘇った。
「あの時は、凄かったね?」
「奥さん凄く酔ってたみたいだったし、私には記憶がないと言ってましたよ。」
「凄かったね、何か俺に不満でもあるのかな?」
ころあいを見た私は、本題の妻の素行を探るべく、佐藤さんに切り出した。
「もし良かったら、ちょっとその辺で飲まない?」
「二人で?、奥さんに怒られない?」
「酒を飲むくらい、この間の女房のお詫びもかねて。」
「それじゃ、ちっとだけ。」
とはいえ私は妻帯者でり、あまり人目につく所で飲むのは、お互い仕事の関係から顔見知りの多い事もあり、
暗黙の了解で、人目をはばかる様に落ち着ける場所を探していた。
「佐藤さん、落ち着ける場所知らない?」
「あそこはどうかな、奥さんに前に連れてきて貰った所。」
佐藤さんは足早に歩を進めた。
妻の会社から10分位の所にその店をあった。
幅2メートル程の路地の両脇に小さな店が並ぶ飲み屋街の奥まった所に、その店はあった。
店の名前は蔵、入り口のドアの脇には一軒程の一枚板のガラスがはめ込んであり、
少し色は付いているものの、中の様子が見えるようになっていた。
店の中は、喫茶店ともスナックとも言いがたい雰囲気で、マスターの趣味がいたる所に散りばめられた店という感じで、
私にはその趣味の一貫性の無さに理解の息を超えるものがあったが、席に着くと変に落ち着くところが不思議だった。
とりあえずビールであまり意味の無い乾杯から始まり、結婚式の二次会の話で盛り上がり、一時間位して酔いも回った頃。
私はおもむろに、女房の素行調査に入った。
「佐藤さんタバコ吸う?」
「吸ってもいい?」
「かまわないよ、どうぞ。」
「奥さん旦那さんの前で吸わないから、遠慮してたんだ」
あっけなく妻の喫煙は裏づけが取れた。
にわか探偵にしては上出来であろう結果に、一瞬満足していたが。
この後続く彼女の言葉に私の心は更なる妻に対する疑惑が深まっていった。
「そういえば、女房はガラム吸ってるよね?」
「でもね、正直言って私は好きじゃないのよね、ガラム。」
「ごめん、最近まで俺もガラム吸ってた。」
「私こそごめんなさい、タバコって言うより、それを吸ってるある人が嫌いって言ったほうが正解かな。」
「誰なの?」
「ご主人も知ってるから、いい難いな。」
「別に喋らないから。」
「○○商店の栗本専務さん」
「栗本専務なら私も知ってる。」
栗本専務言うのは、私たちの町では中堅の水産会社の専務で、私も営業で何度か会社を訪問していて面識はあった。
「どうして嫌いなの?」
「栗本さん、自分の好みの女性を見ると見境が無いのよね。私もしばらくしつこくされたけど、奥さんが復帰してからバトンタッチ。」
「そんなに凄いの?」
「凄いの、そのとき私もあのタバコ勧められたんだけど、それで嫌いになったのかな、あのタバコ。」
「女房も彼に進められて、吸うようになったのかな?」
「ご主人じゃないとすれば、多分そうでしょうね、奥さんもともと吸わない人だったから、
会社復帰してからですもんね。ここの店も栗本さんに教えてもらったらしいでよ。」
そんな会話をしている内に、夜も10時をとっくに過ぎ、どちらからとも無く今日はおひらきとなり、割り勘と主張する
彼女を制止し、会計を済ませた私は店の外で彼女の出で来るのを待つ間、一枚ガラスの向こう側に見えない何かを探しているようでした。
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