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北原夏美 四十路 初裏無修正

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投稿者:異邦人 投稿日:2004/10/03(Sun) 22:29

翌朝食事も取らず会社に出た私は、誰も居ない事務所で今日の夜起こるであろう修羅場を想像しながら、自分の席に座っていた。
突然肩を揺すられ目が覚めました、いつの間にか眠ってしまったようです。
目を開けると、そこには後輩が心配そうに私を覗き込んでいます。

後輩「先輩どうしたんですか。
   昨日泊ったんですか。」
私「おはよう、いやちょっと寝てしまった。」
後輩「何か有ってんですか。」
私「別に何も無いよ。」
後輩「なら良いですけど、顔色が悪いですよ。」

普通の徹夜明けならそうでもないのでしょうが、流石に昨日のような状況下での不眠は、精神面が顔に出るようです。

私「ありがとう、大丈夫だから。
  ただの寝不足だから。」
後輩「それにしても、普通じゃないですよ、
   顔色が悪過ぎますよ、
   休んだ方が良いんじゃないですか。
   今月の予定も達成していることだし。」

本心では、今日は仕事にならないだろうと思っていました。
私は後輩の言葉に甘えることにしました。

私「確かに気分も少し悪いし、お言葉に甘えるかな。」
後輩「何時も頑張っているから、少し疲れたんじゃないですか。
   社長には、代休ということで、私から言っておきます。」
私「ありがとう、それじゃ頼むか。」

後輩を残し、他の社員が出社する前に会社を後にしました。
考えを纏める為私は港にまた車を止めていました。
精神の不安定さに加え、睡眠不足が手伝い、考えが纏まる訳もありませんでした。
結局家へ帰ることにし、家に着いたのは昼ちょっと前でした。
家の駐車場に車を止めたとき、義父の作業用の軽トラックが止まっていたので、昼飯でも食べているのかと思い、
玄関を開け居間に顔を出した私はびっくりしました。
そこには、居るはずの無い妻と祖父母が三人で神妙な顔でこちらを見ているではないですか。
状況は直ぐに飲み込めましたが、私からは言葉が出ません。
ちょっと気まずい雰囲気の中、着替えてきますと私が言うと、義父が口を開きました。

義父「着替えたらで良いから、ちょっと話を聞いてくれないか。」
私「・・・解りました、とにかく着替えてきます。」

詳細は別として、妻の今回の件に関しての話であることはいうまでも無いでしょう。
どの様な方向に進むのか、私自身も不安で答えの出ていない状況でした。
着替えを済ませ、タバコを一本吸うと一階の居間に行きました。

私「お待たせしました。」
義父「今日は早かったね。」
私「え、まぁ」
義父「話というのは、麻美のことなんだが。」
私「はい。」
義父「○○君、麻美のことを許してはもらえないか。」
私「・・・」
義父「○○君の気持ちは良くわかる、
   遣ってしまった事は取り返しのつかないことかもしれない、
   そこをあえて、お願いする。」
私「・・・」

私は本当に言葉を持ち合わせていませんでした。
今後どうしたら良いのか、誰かに聞きたいくらいだったと思います。
ただその時自分が持っていたものとすれば、男としての見栄、寝取られ裏切られた男の嫉妬と怒りそれしかなかったように思います。

義父「子供達のことも有るし、何とかお願いできないか、頼む。」
私「これからの事は、私にもまだ解りません、
  でも夫婦としては遣っていけないと思います。」
義父「それじゃ、麻美を離縁するのか。」
私「・・・」
義父「年寄りが頭を下げているんだ、何とか考え直してくれ。」
私「子供のことは、私もこれから考えて行きます、
  しかし今の俺には麻美とやり直す自信は・・・」
義父「君がもし、この家から居なくなったら、孫達も住む家がなくなってしまう、
   この通りだ、穏便に頼む。」

その義父の言葉に、人間の本心を見たような気がしました。
義父としてみればどんな娘であれ、血を分けた娘は可愛い、
婿が居なくなれば家も手放さなければならないかも知れない、孫の為とは言っていたが、家を手放したくないだけではと、
これは私の僻みかもしれないが。

私「子供達の事や家のことは、これから考えて行こうと、
  ・・・」
義父「麻美、お前も謝れ、お前のした事だ。
   何ていうことをしてくれた、世間にどう言い訳する。」

義父の本心が見えたような気がしました。
やはり、家の事と世間体なのかと、話をしているうちに私のも少し興奮し始め、まだ決めてもいない事を口にし始めました。

私「今日相手と話をします、これからの事はその後で
考える事になると思います。」
義母「パパ、麻美も反省しています。
   子供達の為にも何とかお願いします。」
私「ですから、離婚するにしても子供の親権の問題も有りますし、
  家のローンのことも有りますし。」

私の言葉に、義父は黙り込み、義母は泣き崩れました。
ただ妻だけ覚悟を決めたように下を見たままでした。
またその姿は、私にとっては開き直りにも見えました。
思わず追い討ちを掛けるような言葉を私は続けてしまいました。

私「話によっては、麻美が相手と再婚と言うこともありますし。
  そうなれば家のローンも問題なくなります、
  ただ子供は私も手放したくないですから・・・」

この言葉を聴いた麻美は突然私にしがみ付き、物凄い形相で許しを乞い始めました。

妻「私は栗本とはもう会いません、
  私が馬鹿でした、
  貴方を二度と裏切ることはしません、
  栗本と再婚なんて言わないで下さい、
  本気じゃ無かったんです、
  子供とは離れて暮したくない、
  貴方離婚しないで、
  お願いします、
  許して下さい。」
私「とにかく、今日の話が済んでからにしようよ。」
妻「そんな事言わないで、
  分かれないと言ってくださいお願いします。」
私「お前も今はそう言ってても、
  これから俺と一緒に居るより、
  栗本と一緒になった方が幸せかも知れない。
  俺との生活の不満を埋めてくれた奴だし。」

泣きすがる妻をなだめる様に、私は静かに言葉を掛けました。
本当は心の中で、もっと思い知れば良いと思っていたはずです、自分の陰湿な性格の部分がこの時目覚めたのでしょう。

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