俺は男だ! 4/13(日) 17:06:53 No.20080413170653 削除
どの位そんな時間が過ぎたのでしょう。きっと大して経ってはいないのでしょうが、こんな時は随分と長く感じるものです。
「なあ、頭を上げろよ。幾らそんな真似をしても無駄だ。お前達やり過ぎたんだよ。あんまり人を舐めてるからこんな事になるんだ。
2人で随分と楽しんだろう。その報いはしなければいけないな。それが大人としての責任の取り方じゃないだろうか。
お前も子供が居る。子供は親父の背中を見て育つと言うぞ。だからそんな見っともない真似はするなよ。
やった事は如何言い訳しても許されるものではないと思うが、責任を取るんだろう?ならば、もっと毅然としたら如何だ」
この男に毅然とされたら堪ったものではありませんが、私はこの場の成り行きで言っているのです。
「いや御主人。私にそんな権利はありません。ただ私にも家庭があります。大した会社ではありませんが、何とかこの地位まで来る事が出
来ました。社長の信任も得ているつもりです。・・・・昇格の話しもありまして・・・・・この事が会長に知れると・・・・
この微妙な時期に問題は起こしたくはないのです。勝手な話をして大変申し訳ありません・・・・・
勝手な事を言ってるのは重々承知しております。ですが・・・・
この場は何とか納めて、別な場所でお話しさせて頂けないでしょうか」
こいつ、本当に馬鹿です。急に敬語を使い自分の弱みをさらけ出して如何するのでしょう。
私に付け入る隙を与えるだけです。私を泣き落としの通じる間抜けだと思っているのでしょうか?
私はそれ程甘くはないつもりでおりますが。
それにしても会長とは?いずれにしても可也厳しい人のようですが・・
「本当に勝手な話しだな。今の話しの中に、少しでも俺の立場を思いやる言葉が入っていれば、まだ考えてやってもと思う余地があるのか
も知れないが、自分の事しか言っていないじゃないか。そんな話が通じると思うか?
お前が俺の立場なら如何だ?はいそうですかと言うか?きっとお前はそうやって人を踏みつけて、その地位まで来たんだろうな。
お前の部下は堪ったものではなかっただろう。如何なるかは社長判断だが、格下げにでもなれば、喜ぶ奴らが多いんだろうな。
解雇なんて事になれば、みんな祝杯を上げるんじゃないのか?」
この男が、私の気持ちを思いやろうがなかろうが、許すつもり等ありませんが、こんな時は売り言葉に買い言葉、自然とそんな都合のいい
台詞が出て来ます。
ペースを完全につかんだ事で余裕が出た私は、もっと痛烈な言葉はないかと浅知恵を絞っていると、ドアがノックされます。
「失礼致します」
入って来たのは妻でした。
取って付けた様に、お茶を持って来ています。普通は私が応接室に入ってから、もう少し早く誰かが持って来るものです。
そうでなかったと言う事は、妻は外出等していなかったのかもしれません。
状況を見ていて他の者が運ぼうとしたお茶を、あたかも気を利かせたように自分が持って来たのじゃないでしょうか。
その辺の事は分かりませんがこの感性の鈍い女でも、頭を下げている
上司を見てその場の状況を悟ったのでしょう。
茶を乗せたお盆をテーブルに置くと、私の前で土下座しようとするのです。
「おっと、そんな臭い真似はよしてくれ。雅子、お前はそこのソファーに座れよ。あんたもそんな事を幾らしていても
俺の気持ちが変わらないぞ。時間の無駄だ」
穏やかに、時には厳しく、部下を使う鉄則だと私は思っています。
この時、此処が敵陣だと言う事等、何のハンデにもなっていないのです。私の勝利です。
二人が並んでソファーに腰掛けたのを見て私は喋ります。
「二人が別れたからって元の何もなかった生活を送れるとは思っていない。そんな事は考えられないだろう。
雅子、如何したい?俺達に明日なんてないよな?お前とはもうこれ以上やっていけない。いずれはこんな日が来る位の
覚悟をして俺を裏切って来たのだろう?それ位の覚悟を決めていたから、こんなに長く俺を欺いてきたんだよな?
そんな女とは暮して行けないだろう。岸部さんもそう思うだろう?あんたの奥さんがそんな女だったら許せるか?
なぁ雅子、子供達にも、もう言い訳は出来ない。俺も庇うつもりはないよ。今日から帰ってこなくてもいい。
本当は何時もそうしたかったんじゃないのか?
それから岸部さん、覚悟は決めろよ。金なんか要らないぞ。俺はゆすりたかりじゃない。
責任は社会的制裁で取ってもらう。穏便に済ませる気なんて初めからないんだよ。
どんなに頭を下げられても気持ちに変わりはない。
だから社長さんに聞いて貰いたいんだよ。社長の下す結果が如何であれ関係ない。俺の思う通りにさせてもらうよ。それだけだ。」
この男、煮え切りません。それでも、うな垂れるだけで動こうとしないのです。業を煮やした私はドアを開けました。
「申し訳ないが、社長さんを呼んでもらえませんか」
私は近くに座っている社員に声を掛けドアを閉めました。
振り返ると、男は唖然としています。
『ざまあ見やがれ、馬鹿野郎!』
妻も妻で声を殺して泣いていますが、興奮している私はアドレナリンが出っぱなし状態で、自分の行ないが正しいのか正しくないのか判断
も付かない状態です。
私の言っている事に間違いはありません。ただ、こんな方法が1番最良だったのかには自信が持てないでいるのです。
しかし今はイケイケでしょう。自分を抑える必要を感じません。
馬鹿どもを冷ややかに睨み付けて社長の登場を待っていると、ドアがノックされ初老の男が入って来ました。この男が社長なのか?
「失礼するよ。岸部部長、何かあったのかね?」
異常な雰囲気に初老の男は私への挨拶も忘れ、岸部に声を掛けています。
『まずは俺に何かあってしかるべきだろう』
この会社はこの程度なのか?私の職場では絶対にあり得ません。
こんな所に限って社長に面談を求めると、偉そうに「アポはお取でしょうか?」等と、のたまいやがる。
どれ程の者と勘違いしているのか!
私は立ち上がり、初老の男の目の前に名刺を突き付けました。
「これは失礼致しました。私、黒田と申します」
黒田と名乗る男が慌てて名刺を出しながら頭を下げるのでした。
名刺には取締役専務と記入されている。この男は社長ではない。
「家内がお世話になってます。その事でお邪魔しました。少し複雑なお話です。問題が問題なので社長様にお会いしたい」
黒田専務は私の名刺をまじまじと見詰ています。
「あぁ、こちらの御主人でしたか。それはそれは此方こそお世話になりまして。それでどんなお話しなのでしょうか?
代表から私が用件を受け賜るよう言われて来たものですから・・・・」
この場の雰囲気を察した専務とやらは、岸部と妻の状況位は理解出来たでしょう。
いや、この程度の規模の会社の中での出来事は、噂に上らないと思えません。
知っていて惚けている公算が大です。誇大妄想なのかも知れませんが、私はやはり敵陣に居るのです。
社長自らが逃げているのかも知れませんし。
「大変失礼だが、貴方は私の話しを聞いて責任を持って処理出来ますか?御社も責任も感じて頂かなければならない
と思っているのですが」
専務が妻達の方を見るのと同時に、岸部がばね仕掛けの人形のような動きで立ち上がりました。
「申し訳ありません」
専務に深々と頭を下げる。
「お前なぁ・・・・・頭を下げる相手が違うだろう」
この専務、少しは常識を持っているようだが、この短い会話から妻と岸部の関係が耳に入っていた事が推測出来ます。
結局は同じ穴のムジナなのでしょう。
『旦那にばれたら大変な事になるぞ。女遊びも程々にしておけよ』
所詮そんな事で、お茶を濁していたのではないのでしょうか。
ひょっとしたら酒の席で、私達夫婦を酒の肴にしていたのかも知れませんね。
人の痛みは何年でも我慢出来ると言います。これが自分に降り掛かった火の粉なら、こいつらは如何アクションを起こすのでしょうか?
「専務さん、こんなのと話したってしょうがないでしょう。もう一度お聞きしますが貴方は私の話を聞いて責任を持って対処して頂けますか。そうでなければ、私はこの会社の責任者と話がしたい」
専務は応接室から社長に内線で連絡を取りました。
何十秒かでこの会社の責任者が現れましたが、この男の顔面は緊張で青白く見えます。
やはり知っていたのでしょう。この会社は乱れています。
私は妻と男の関係を、証拠を突き付けて話しました。
当然ですがその場で2人に対する処罰が決まる訳がありません。
「責任を持って対処させて頂きたい。後日きちんとした報告をさせて頂きます」
こんなものでしょう。
この後、弁護士と相談するのか?それとも幹部会議でも開くのか?
私には関係のない事です。後日の報告とやらが楽しみなだけなのです。
仕事を早めに切り上げ、帰路に着きました。
妻はどんな顔をして帰って来るのでしょうか?もしかしたら、帰って来ないのかも知れません。
妻が出て行く事が、私の最終的希望と思い込んでおりますが、今はいけません。
もっと懲らしめてから放り出したいのですから。
家のドアを開けると、妻のパンプスが有ります。もう帰って来ているようです。
居間の方が何やら賑やかですが、決していい雰囲気ではないようです。
「ただいま」
私が帰ったのも気付かない程に、娘達の激しい言葉が聞こえます。
妻は娘達にかなり遣り込められていたのでしょう。流石に勝ち気な妻も今回の事は子供達に言い訳も出来ないのか、神妙な面持ちでうな垂れています。
私の帰宅に気付いた子供達がニッコリと出迎えてくれました。
女は恐ろしい生き物なんですね。
こんな状況で微笑む娘に女の凄ささえ感じます。
「お父さん、お帰りなさい。私達2人でご飯の用意をしたのよ。
お母さんたっらボーとしちゃって何にもしないんだもの」
妻は俯いたまま顔を上げようとはしません。
そりゃあそうでしょう。ここで娘達と和やかにされていたら、堪ったものではありません。
私が何気なくテーブルの上に目をやると、3人分の用意だけです。
「お父さん、先にお風呂にする?それとも食べちゃう?」
子供達の手料理とあっては、まず食事でしょう。
手際よく用意された物を見ても妻の分がありません。
私のそんな思いを察したのか、長女が言います。
「お母さんは勝手に食べるんだって。先に頂きましょうよ」
その言葉に、俯いたままの妻の肩が震えます。
この子達も妻に反乱を起こしたようです。
それにしても、よく帰って来たものです。私なら敵前逃亡間違いなし。
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2012/05/12 07:06 | まとめwoネタ速neo