BJ 7/18(火) 00:52:34 No.20060718005234 削除
「――さんの奥さんはどんな方ですの?」
すっかり酔いがまわったふうの明子が舌足らずな口調で聞いてきたのに、私が答えるより早く、
「美人で、凄く色っぽいひとだよ」
赤嶺が言いました。
「あなたがそんなに誉めるなんて珍しいわね。ひょっとしてお気に入り?」
「ああ。――が羨ましいよ」
「何言ってんだ」
私は照れてそっぽを向きました。
「お前だってこんないいひとがいるじゃないか」
私の言葉に赤嶺と明子は一瞬顔を見合わせ、そして笑い出しました。
「ははは、いやわるい。でも俺たちの関係はそんなんじゃないよ。そりゃときどきはプライベートで会ってデートもするがね。俺も明子も企業の一員で、商品としてのAVを撮る側だし、明子はそれに出演する側だ。割り切った関係だよ」
「独占欲とかはないんだな」
「ないね。だいたい男にしろ女にしろ、それぞれ特定の相手だけに縛られているのはもう古いと俺は思う。夫婦やカップル同士でスワッピングってのも、今じゃありきたりな話だろ」
「さあね。俺はお前とは違って、その辺りには詳しくないからな。簡単に割り切れるタイプでもないし」
「まあ、お前はそうだろうな」
赤嶺は真面目な顔で言ってから、ふと気がついたように明子を見ました。
「そういえば新作のサンプルはもう出来たのか?」
「きょう出来ました。ここに持ってきてます」
明子はカバンからDVDのディスクをいくつか取り出しました。
「これは明子が出ているもので、監督は珍しくおれが務めてるんだ。何枚かあるようだから、一枚お前にやるよ」
「いいのか、そんなことして」
「いいんだよ。お前、俺の関わった作品を一度も見たことないだろ。本当に友達がいのない奴だよな」
私と赤嶺のやりとりを、明子はくすくす笑いながら聞いていました。
「・・・どうしかしましたか?」
その声で私はふと我に返りました。ベッドの傍らを見ると、妻がものといたげな目で私を見つめています。シーツに半分だけ隠された裸の乳房が、艶めかしく映りました。
「いや、なんでもない」
その日は帰ってから、妻と睦みあう最中でさえ、私は赤嶺の言ったことを思い返していました。あの夜の出来事をきっかけに、日常生活でもベッドの中でもより近づくことの出来た妻。私の腕の中ですこし遠慮がちに、しかし蟲惑的に乱れる妻の姿を眺めながら、私はいまだ彼女の中に秘匿されているであろう『女』を幻視していたのでした。
たしかに赤嶺の言うとおり、彼なら私以上に妻の『女』としての性をより深く開花させられたかもしれない、と思いました。赤嶺は男の私の目から見ても魅力的な男でしたし(外見が、というよりも、その内面から仄見えるぎらぎらした雰囲気がです)、私は妻を単純に『女』としてだけ見るには彼女を愛しすぎていました。赤嶺が明子を愛するようには、私は妻を愛せないと思いました。
しかし―――。
愛しているからこそ、もっともっと妻を知りたい、もっともっと剥きだしの姿を見てみたい。そんな激しい欲望も私の中にはたしかにあったのです。
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BJ 7/18(火) 00:52:34 No.20060718005234 削除「――さんの奥さんはどんな方ですの?」すっかり酔いがまわったふうの明子が舌足らずな口調で聞いてきたのに、私が答えるより早く、「美人で、凄く色っぽいひとだよ」赤嶺が言いました。「あなたがそんなに誉めるなんて珍し?...
2012/05/22 20:07 | まとめwoネタ速neo