KYO 5/15(月) 21:17:11 No.20060515211711 削除
そうこうしているうちに次の週末がやってきました。妻は予定通り
昼過ぎからPTAの役員会で旅行に出かけました。息子も予備校の
講習で遅くなるということで、私は家の中に1人きりになりました。
夕食後、リビングでテレビを見ながらウィスキーを飲んでいた私は、
ふと部屋の隅に置かれているPCに目をやりました。
私の会社には翌週導入予定になっている、下田の会社の会議システ
ムがどんなものか興味が湧き、私はB高校から妻に支給されたPC
を立ち上げました。
さすがはワークステーション並みの高性能機です。メモリも十分過
ぎるほど積んでおり、しかも余計なソフトはまったく入れていない
ためか、動作は極めて快適です。私はインターネットエクスプロー
ラーを立ち上げました。
ホームページが会議システムのログイン画面に設定されており、I
Dとパスワードを聞いてきます。ひょっとしてPCに記憶されてお
り、自動でログインできるのかと思ったら、やはりそんな甘いセキ
ュリティではなく、1回ごとに入力が必要なようでした。
私は試しに妻の名前や誕生日を組み合わせてログインを試みますが、
もちろんそのような安易な設定にはなっていないようです。
もし私が役員会の会議システムにログイン出来てしまえば、それは
それで事態がややこしくなるのでほっとした気持ちもあります。私
はすぐにログイン画面から離れ、ふと思い立ってこのPCで里美と
チャットでもしてみようかと、下田に教えられたサイトのURLを
打ち込みました。
里美は例によって待機中で、下を向いて本を読んでいます。私がヘ
ッドセットをつけてログインすると里美は顔を上げました。
「こんにちは」
「こんにちは……どうしたの? ○○さん」
里美が目を丸くして私の方を見ています。
「今日は家族がみんないないから、里美に会いに来たんだ」
「それはいいけど……そうじゃなくて、すごく画面や音声がクリア
だよ。いつもと全然違う」
「えっ? そんなに違うかい?」
「うん、まるでビデオを観ているみたい。大画面にしてもほとんど
ボケないよ」
私は今使っているPCやWEBカメラ、ヘッドセットが子供が通っ
ている高校の備品で、PTAのオンライン役員会の端末だというこ
とを説明します。
「ふーん。そのために光ファイバーにまで加入したの。随分過剰投
資だね」
「男の役員連中が随分寄付をしたみたいだよ」
「なんでそんなことをするの?」
「なんでって……」
里美に聞かれて私は答えに詰まりました。
「PTAのオンライン役員会なんて、このライブチャット程度の品
質で十分だと思うんだけど。どうしてこんなきれいな画面や音声が
必要なんだろう。何かそれを使って観てみたいものでもあるの?」
私はふと、ノーブラでPCに向かっていた妻の姿を思い出しました。
「○○さんも役員になっているの?」
「いや……うちは家内がなってる」
「ふーん」
里美は何ごとか考え込んでいます。
「○○さん、WEBカメラとPCの型番を教えてくれる?」
「えーと……」
私はメーカーの型番を読み上げます。
「それは相当ハイスペックね。無駄に良い物を使っているといって
もいいわ」
「そうなのか?」
「私も実は光ファイバーを入れているし、PCのスペックも相当い
いのよ。こちらのPCの性能が悪ければ画質も落ちちゃうから。そ
れにしてもまるで業務用のストリーミングビデオを観ているようだ
わ」
里美の言葉に私は黙り込みます。
「カメラとPCだけがいいんじゃないわ。そのシステム、導入が決
まったのはまだ○○さんの息子さんの高校と、○○さんの会社だけ
って言ったよね? それならたぶんストリーミングサーバや回線の
容量も十分余裕があるわね。道理で絵と音のクオリティがいいはず
だわ。どうしてPTAのオンライン役員会なんかに、そんなハイク
オリティが必要なのかしら」
「さあ……」
「○○さん、大丈夫?」
「大丈夫って、どういう意味だ?」
「奥さん、やっかいなことに巻き込まれているんじゃない?」
「やっかいなことって?」
「奥さん、出かけてるって言ったよね。どこへ行っているの」
「それは……」
私は段々不安になってきました。里美の話から妻の身に何かとんで
もないことが起きているような気がしてきたのです。
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