KYO 5/16(火) 22:25:52 No.20060516222552 削除
「私の勘だと、連中は常習犯よ。一筋縄じゃ行かないわ」
「そうなのか?」
「4人が……それともある時はもっと多くの人間がグルになって、
女性に毒牙を向けているに違いないわ。たぶん学生のころから同じ
ようなことをしていたんじゃないのかしら」
「……」
「PTAの会合といいながら、女の役員は交互に呼び出す。たぶん
お互いが相手の人質のような状態になっているのね。それでご主人
にも何も言えなくなってしまっている」
「ひょっとして……」
下田もグルなんだろうか、と尋ねました。
「それはないと思うわ」
里美が首を振ります。
「下田さんはいい加減なところはあるけれど、基本的には有能なビ
ジネスマンだわ。こんな危ないことにかかわるとは思えない。それ
に彼らにとってお誂え向きと言って良いシステムを会社のお金で開
発するなんて話が出来過ぎているわ」
「システムと言えば……連中はこの会議システムで何をする気だ」
「そんなこと分かっているわよ。彼ら専用のライブチャットよ」
「何だって?」
「ライブチャットというよりは、双方向性のあるポルノ番組と言っ
た方がいいわね。高画質と高音質のシステムを使ってビデオ並みの
映像を送らせる。出演者は視聴者の要求にしたがってさまざまな恥
ずかしい行為をさせられる。最初の出演者は○○さんの奥さんと、
藤村さんというもうひとりの女性役員、ってわけ」
私は怒りに頭に血が上るのを感じました。
「システムにはセキュリティがかかっているから、送られた映像や
音声も記録出来ない。IDとパスワードは厳重に管理されているた
め外部からログインすることは出来ない。会員が安心して使える最
適の仕組みだわ」
私は妻が落とされた罠の巧妙さに言葉を失います。
「奥さんの写真を撮ってネットに掲載する、なんて脅すのは効果は
あるだろうけど、実際に脅迫行為に及んだらIPアドレスから追跡
されて、個人の特定が出来ちゃうわ。けれどこのシステムだとウェ
ブを使っているとは言ってもクローズされているからその心配はな
い。信頼出来る人間だけを増やしていけばいいわけよ。このままだ
とPTAの役員会の次はラグビー部のOB会に、同じシステムが導
入されるかもしれないわよ」
私はB高校のラグビー部出身者の男達がPCの画面で妻の痴態を見
入っている姿を想像して慄然としました。
「下田め、くだらない物を作りやがって」
「まあ、下田さんもまさかこんなことに利用されるとは思ってなか
ったんでしょうけど」
「現にやつの会社でライブチャットをやっているじゃないか。絵梨
子をAV女優扱いするなんて、そんなこと許せるかっ。下田にねじ
込んでやる」
「駄目よ」
里美が慌てて私を止めます。
「そんなことをしたらIDを停止されちゃうわよ。○○さんの相手
は下田さんじゃなくて、PTAのオヤジどもでしょう? ちゃんと
証拠がとれるまで我慢するのよ。とにかく来週、○○さんの会社に
会議システムが入ったらすぐに連絡して」
「わかった」
私は里美に説得されてようやく頷きます。
「だけど、里美はどうしてこんなに親切にしてくれるんだ?」
「女の敵が許せないからよ」
里美はそう言うとにっこり笑います。
「……なんてね、本当はこの騒ぎ、興味があるのよ。まるで探偵を
やっているみたい。ゾクゾクするわ」
「そうか……」
里美のあっけらかんとした言葉に、私はやや言葉を失います。
「だけど、女の敵が許せない、っていうのも嘘じゃないのよ。エロ
オヤジどもをガツンと言わせてやるわ。色々私なりに用意して置く
から、くれぐれも短気を起こさないでね」
忙しくなったわ、といいながら里美はログオフしました。
妻が帰ってきたのは結局その日の夕方でした。疲れきった感じの妻
を、副会長の1人の橋本が送ってきました。橋本は妻のパート先で
あるA銀行に勤めており、以前は妻の直属の上司でしたが、現在は
どこかの店の支店長になっているということです。
「いつも奥様には大変お世話になっております。ご主人にはいつも
PTA活動にご理解を頂きましてありがとうございます」
いかにも銀行員らしい謹厳実直そうな橋本はもっともらしく挨拶し
ます。しかし以前妻から、この橋本という男は実は相当のむっつり
助平で、特に酒を飲むとガラリと人が変わり、女子行員に対してセ
クハラめいた行為に及ぶことがあると聞いたことがあります。
「奥様が気分を悪くされたようなのでお送りしました」
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