KYO 5/20(土) 00:43:47 No.20060520004347 削除
「次の役員会はいつになりそう?」
「絵梨子の今週のパートの出勤日は月、水、金だから明日の火曜日
と木曜日か……」
「何時に始まるか分からないのね?」
「ああ、息子も俺も帰りが遅いしな。ただ、連中も昼間は仕事があ
る訳だから、5時から7時あたり、それとももう少し遅めじゃない
かと思うんだが」
「犬山と毛塚は経営者だから時間の融通はいくらでもききそうだけ
れど、問題は道岡と橋本か。道岡の診療時間が分かれば大体推測が
つくかも」
里美がまたネットで検索します。
「9時から12時と、15時から20時になっているわ。整形外科
クリニックなら会社帰りのOLも重要なお客だからね」
「すると12時から15時の間、銀行支店長の橋本のスケジュール
も考えると、昼休みの時間帯が有力だな」
私は明日の12時に里美とネット上で待ち合わせることにしました。
念のため里美はその前からシステムにログインし、会議が始まれば
私にすかさずメッセンジャーを使って連絡することになっています。
帰宅すると妻はいつものように笑顔で私を出迎えます。しかし私に
はそれがどことなく疲れているようにも思えます。42歳になった
妻ですが私にとってはまだまだ女として魅力的です。いや、むしろ
最近になってベッドの中でも奔放さを見せるようになった妻を私は
以前よりもなお愛しく感じるようになっています。
その妻を私から奪おうとしている輩がいるのです。すべてが私の妄
想であってくれればよいとさえ思うのですが、状況は限りない黒で
あるように思います。いつもと変わらぬ夕食の風景、食後の団欒、
私は急にそれらがなんとも頼りないもののように思えてきました。
「家庭の平和は妻の笑顔」という言葉があります。妻が幸福でなけ
れば家庭の平和はありえないというものです。私はその言葉の持つ
意味をしみじみと実感していました。男として、一家の主としてわ
が家の平和を守るためには、妻を不幸にするものには敢然と立ち向
かわなければなりません。
次の日、私は早めに会社に行くと、落ち着かない気持ちを無理やり
宥めながら仕事を片付けました。私生活の都合で仕事を停滞させ、
会社に迷惑をかける訳には行きません。
仕事に没頭していた私は里美からのメッセージに我に返りました。
時計は11時半を指しています。
「奥さんがログインしたよ」
「なんだって?」
私はパワーポイントの企画書を閉じ、役員会の会議システムにログ
インします。いきなり妻の姿がディスプレイ一面に映し出され、私
は驚きました。
妻はパールホワイトのシャツブラウス姿で、奇麗に化粧を施してい
ます。髪は今朝私が見た状態よりも強めにカールがかかっています。
美容院に行くほどの時間はなかったと思いますので、一生懸命自分
で整えたのでしょうか。
PCの前の椅子に座り、ディスプレイに顔を向けている妻の頬は上
気し、瞳は妖しい潤みを見せています。視線は落ち着きがなくふら
ふらしている様子がいつもの妻らしくありません。
「どうしたんだろう……絵梨子の様子がおかしい」
私はメッセンジャーにそう打ち込みます。
現在私と里美が役員会の会議システムに入っている訳ですが、侵入
が覚られないようにこちらからの音声は切っています。したがって
私と里美の意志の疎通は、音声ではなくてメッセンジャーの文字入
力で行っています。
「奥さん、オナニーしてるんじゃない?」
「なんだって?」
私は文字情報で意思の交換をしているのにもかかわらず、思わず聞
き返します。
妻の両手はPCのテーブルに置かれており、そんなことが出来るは
ずがありません。
「○○さん、じっと耳をすましてみてよ」
私は里美に言われた通り、ヘッドセット越しの音に耳を傾けます。
すると低く小さなモーター音のようなものが聞こえて来ました。
「これ、ローターの音だよ」
「ローター?」
「もう、しゃべってんじゃないんだから、一々聞き返さないでよ。
奥さん、ローターをあててオナニーしているんじゃない?」
「馬鹿な……」
そんなものは家の中にはありません。いや、私は妻にいわゆる大人
の玩具と呼ばれるものを使ったことがありません。
それでも私は興味はありますから、妻に冗談交じりにローターやバ
イブの使用をほのめかしたことはあります。しかしそんな時はいつ
も妻は顔色を変えて、そんな変態的なことは嫌と拒絶していたので
した。
しかしそう言われてみると、妻の落ち着かない様子はなぜなのかが
頷けます。私は混乱し頭の中がかっと熱くなるような気がしました。
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