KYO 6/13(火) 22:21:43 No.20060613222143 削除
ベッドに入ってからも私はなかなか眠ることが出来ませんでした。
妻は隣のベッドで小さな寝息を立てています。犬山たちのいたぶり
に精神的にも肉体的にも疲れきったのでしょうか。それとも、少々
のいたぶりは堪えないほどの図太さを身に着けたのでしょうか。
私はふと、食器棚の上におかれたワイヤレスCCDカメラは、私に
対する妻のメッセージではないかと考えました。
あれだけ分かりやすい位置に備え付けてあるということは、私に気
づいてくれといわんばかりです。もっとカモフラージュするなりし
て私に分からないように設置することも出来たはずです。私が家の
中での行動について慎重になるよう、わざと妻がそうしたのではな
いかと考えが浮かんだのです。
しかしカメラに気づいた私が、あれは一体なんだと妻を問い詰める
こともあり得ます。その場合妻はどうやって言い訳するつもりだっ
たのでしょうか。
それにCCDカメラが置かれていたからといって、犬山たちの悪行
の決定的な証拠にはならないのです。
(絵梨子は私に問い詰めてもらいたかったのかもしれない)
たとえ証拠はつかめなくても、妻がすべてを私に話せば無理やり役
員をやめさせることは出来るでしょう。肉体改造というおぞましい
運命を目の前にした妻は切羽詰まって、長尾との不倫も明るみに出
ることも覚悟の上で、私に何もかも告白出来るきっかけを待ってい
たのかもしれないのです。
今のところはどれも私の推測にとどまります。妻の本心を聞かない
限りは決定的なことは言えないのです。
(里美の意見を聞いてみるか……)
私はそう考え、無理やりに眠りにつきました。
翌日の水曜日は妻がパートの日で、オンライン役員会はないはずで
す。私がオフィスで落ち着かない気分で仕事をしていると、里美か
らメッセージが入りました。
「○○さん……」
「里美か、待っていた」
「そうなの? もう話してもらえないかと思っていた」
「どうしてだ?」
「だって昨日、奥様のことを……」
「ああ……」
里美は昨日、妻の告白を生々しく私に伝えたことを気にしていたの
でしょう。
「○○さんの奥様に対する気持ちを傷つけるつもりはなかったの」
「わかっている」
「昨日は、あれからどうだった?」
「色々あった……メッセンジャーで話すのは大変だな」
「わかった、私の部屋に来て」
里美はそう言うとメッセンジャーを終了します。私は画面を切り替
え、ライブチャットの里美の部屋に入りました。
「俺以外にライブチャットの客はとっているのか?」
「いいえ、最近は○○さんだけよ」
「それじゃあ、全然儲からないだろう」
「いいのよ。今のところそれほどお金に不自由していないわ」
「そりゃあ良いご身分だ、といいたいが、俺のために無理をしてく
れているんじゃないのか」
「お金なら取れるところから取るわよ。犬山たち4人からたんまり
慰謝料がもらえたら、分け前をいただくわ」
「そりゃあもちろんかまわないが……」
私は昨夜から気になっていることを里美にすべて話しました。
「里美はどう思う?」
「奥様の気持ちよね……難しいわね」
里美は首をひねります。
「○○さんは奥様を愛しているの?」
里美から意表を突く質問を浴びせられ、私は戸惑いました。
「なんだい、急に」
「大事なことよ、ちゃんと答えて」
私はしばらくの間じっと考え込み、やがて口を開きました。
「愛している」
「そうだと思ったわ」
「しかし、同時に憎んでいる」
「……」
私の言葉に里美の表情が引き締まりました。
「相反しているように思えるが、根っこのところは同じだ。逆を言
えば愛しているから裏切りを憎む。愛していない相手なら裏切られ
ても、寝取られて恥ずかしいとか男として体面が悪いということは
あっても憎むという感情はない。愛しているから憎いんだ」
「なんとなく分かるような気がするわ……」
「そうか?」
「○○さんは奥様をどうしたいの? 罰を与えたいの?」
里美の質問に私は再び考え込みました。
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