KYO 6/20(火) 22:41:33 No.20060620224133 削除
「ホテル十番館」はターミナル駅の前を走る大きな環状道路の、コ
ンビニの角を二筋入ったところにありました。
幸い斜め向かいには小さな公園があり、樹木を目隠しに利用して張
り込むことは出来そうでした。
私が「ホテル十番館」の近くについた時にはすでに午後3時半にな
っていました。
(1時に会社を出たということは、1時半過ぎにはホテルに入れる。
家に6時までに帰ろうかとするとホテルは5時前には出ないと苦し
い。絵梨子が使える時間は3時間強か……)
妻と長尾(今日はさらに西岡が加わっているようですが)がどのよ
うな時間配分をするのか私は考えていました。
(ホテルでたっぷり3時間使うか……それとも……)
私は煙草を吸わないので、コンビニで買った缶コーヒーをすすり、
雑誌に時折目を落としながらホテルの入口を見張っていました。
私は役員とはいっても、小さな所帯の会社ですから営業担当を兼ね
ています。私は取材用のデジカメを取り出し、ラブホテルの出口に
レンズを向けてズームをかけてみました。
距離的には問題ありません。車で来ているのでない限りは、妻と長
尾がラブホテルから出てくるところを確実に撮影することが出来そ
うです。
2人がお酒が入る厚生部の懇親会終了後にいつも使用していたホテ
ルですから、車で来る習慣はないのではないか、と私は予想してい
ました。
(今頃絵梨子は……)
長尾と西岡に後ろから前から凌辱の限りを尽くされているのではな
いかと思うと、胸が焼けるような苦しみを覚えます。ホテルにはコ
スプレ衣装やアダルトグッズ、さらに拘束椅子まで備え付けられて
いるということが私の想像力をかきたてました。
いっそラブホテルに飛び込み、妻を救い出したいという気持ちに駆
られます。しかし、そんなことをしてももちろん、妻たちの部屋が
わかるわけはありません。
妻と長尾がホテルから出てくるところを押さえたところで、不倫の
証拠にはなるかもしれませんが、その背後にいると思われる犬山達
に鉄槌を食わせることは出来ません。それよりも長尾との関係が私
に発覚してしまうことでかえって妻を追い詰めてしまうことになる
かもしれないのです。
しかも、私の行動が犬山達を警戒させることになるかも知れません。
私は今この場で妻と長尾の不倫の証拠を押さえるのが正しい行動な
のか、分からなくなってきました。
(どうする……今、妻と長尾がホテルから出てきたら、俺はどうし
たらいいんだ……)
私は頭を抱えます。
まさに袋小路です。妻が蟻地獄に落ちようとしているのに何一つ打
つ手がない。
いや、蟻地獄に落ちようとしている蟻を残酷な笑みを浮かべながら
見守ろうとしている私がいるのです。私を裏切った妻はそれくらい
の報いを受けても当然だ、という悪魔の囁きが私の頭の中に響きま
す。
そんなことを考えていると、「ホテル十番館」の出口から一組のカ
ップルが現れました。
(……!)
私は反射的にデジカメを向けますが、出てきたのは見知らぬ中年男
女だということに気づき、胸を撫で下ろします。
一安心した私ですが、カップルの後に30歳前後の男が現れたので、
再び身構えます。男はきょろきょろ当りを見回しています。私は男
に気づかれないよう、必死で樹の陰に身体を隠しました。
回りを確認した男は、ホテルの出口の方を振り向くと何事か合図を
します。男の後に一組の男女が現れました。
(……絵梨子)
男はやはり30歳くらいのがっちりした体型で、ラフなカジュアル
のシャツにパンツという姿です。女は6月も後半になるにもかかわ
らず、膝の下まで丈のあるコートを身につけています。女は大きめ
のサングラスをかけていましたが妻の顔をよく知っている私にとっ
てはそれくらい変装にもはいりません。
私はデジカメを構え、2人がホテルから出る瞬間を撮影します。小
さなシャッターの電子音が響きますが、妻たちの位置までは聞こえ
なかったようです。
長尾と思われる男は妻の耳元に口を寄せ、何ごとか囁きます。妻は
しばらく逡巡しているようですが、諦めたようにうな垂れるといき
なりコートの前をはだけました。
私は目を疑いました。コートの下の妻は一糸まとわぬ全裸だったの
です。
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