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北原夏美 四十路 初裏無修正

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−−−④彼女からの手紙【完】

翌朝、私を起こす人は誰も居ませんでした。
私がゆっくりと目覚めた時には彼女の父親もお兄さんも家には居ませんでした。
私は遅い朝食を頂き、次の便のバスで帰ることになりました。
私達はバスに乗ってからずっとお互いの手を握り締めていました。

バスが駅に着くと列車の時刻までの間、彼女はその地方都市にある有名なお城を案内してくれました。
彼女は持参した小さなカメラをポケットから取り出すと、私だけの写真を何枚も撮り始めました。
私が彼女の写真を撮ろうとしても頑なに拒否されました。

「駄目。 貴方に彼女ができた時、私の写真を持っていれば、きっとその子が傷つく」

それが理由でした。
何度も頼み込み、やっと城主の銅像の前で彼女と二人の写真を取ることができました。
二人で取った写真は、後にも先にもこれ一枚きりとなりました。

そんなプチ観光を彼女と過ごした後、彼女は駅まで私を見送ってくれました。
彼女は蒲鉾やら燻製やら、食べ物ばかりのお土産を紙袋いっぱい買い込み私に持たせてくれました。

そして一人分の切符を買い求め、それを私に…。

私達はホームの隅で人目もはばからず抱き合い、そして唇を重ね合いました。

発車の時刻になりました。
私は列車のステップに乗り込み彼女を振り返りました。

「ね、最後にもう一度、顔を良く見せて」
「嫌だ」

今にも泣き出しそうな自分がそこに居ました。

「バカね…。 ほら…」

彼女はハンカチを私に渡しました。
それを受け取った途端、今度は私の方がみっともないほど泣けてくるばかりで、彼女が涙を見せることはありませんでした。

「いい? ちゃんとご飯、食べるのよ?(笑)」
「子供扱い…する…なよ」
「そう…だね。 ごめん…」

発車のベルが鳴りました。

彼女は私の頬を両手で引き寄せると最後の口付けをしてくれました。

ベルが鳴り終わりました。

「別れたこと、きっと後悔させてやる…んだ…」
「バカね、そんなこと…」


「もう、とっくの昔に後悔しているわ(笑)」


ドアが閉まりました。

彼女はドアの窓ガラス越しに私の掌に手を当てると微笑みました。
そして動き出した列車から二三歩下がると、笑顔で私に小さく投げキッスの仕草をして小さく手を振りました。

しばらく私の姿を追った後、やがて私に背を向けるとコートのポケットに手を入れて歩き出しました。


そしてもう二度と…

私の方を振り返ることはありませんでした。

-------------------------------------------------------------------

私は卒業と同時に下宿を引き払い、社会人としてのスタートを切りました。
会社勤めにも慣れ始めた初夏の頃、彼女からの分厚い封筒が下宿の住所から転送され実家に届いていました。

私がそれを受け取ったのは、さらに二ヶ月も経ったお盆を挟んだ数日間の夏休みに帰省した時でした。

その封筒には差出人の住所も名前も書いてはありませんでした。
中からはお城で撮った私だけが写った写真と、彼女と相手の方が二人並んだ結婚写真が出てきました。
あの城主の銅像の前で撮ったはずの彼女と二人の写真は…やはり入っていませんでした。

彼女が選んだ人は見るからに優しそうな人でした。
彼女を大事にしてくれそうな人でした。
彼女の手紙には、結婚した相手は問屋の三男坊だと書いてありました。

手紙には私と彼女が出逢った時から、彼女が別れを決めた時までの経緯が書かれていました。

彼女は元々はごく普通のOLでした。
勤めていた会社の人と不倫関係になり、いつまでも煮えきらない相手の態度に嫌気が差すと、家族にも内緒で会社を辞めてしまったのだそうです。
そして半ば自暴自棄になり、夜の仕事を転々としたあげく一年足らずの間に「あの仕事」に付いたのだそうです。

彼女のマンションにその不倫相手が尋ねて来たことは何度かあったそうです。
でも、彼女がドアを開けることはありませんでした。
そして、私と映画館で出遭ったあの日。
お店にその不倫相手が突然訪ねて来たんだそうです。
奥さんとお子さんと別れたから一緒に暮らして欲しい、と。
もう二度と会えないし…会いたくなかった人だった…。
ましてやその店の中では…。

彼女の出した結論は、店長に頼み、その不倫相手を店から追い返して貰う事でした。
その不倫相手が店から叩き出された後、彼女は店の制服のまま顔見知りのおじさんが窓口に居るあの映画館に飛び込み泣いていたのだそうです。

そこで私と出逢いました。

彼女は痴漢から助けた私を、最初はからかい半分、次に一人身の寂しさを紛らわす相手、やがて本当の弟のように思い、私と付き合っていたのだそうです。

そんな私からプロポーズされた時は本当に嬉しかった、一緒になれたらどんなに幸せだろうと思ったのだそうです。
でも…いつか歳の差の事や「あの仕事」をしていた事が…きっと二人の間の障害になるに決まっている…。

(貴方は…貴方の両親や友達に私の事を何と言って紹介するつもりだったの?)

彼女が手紙で問いかける一言に私は答えることができませんでした。

彼女の事が好きだ。

自分が判っているのはたったそれだけで、それ以外の事など何も考えていなかったからです。

(きっとそんなこと、貴方は考えた事も無いよね)

彼女の手紙は続きました。

それを考えると怖くて、とても結婚なんかできないと思った、と。
「あの仕事」をしていた事を本当に後悔したし、その事を知る私とは決して結婚できないと思った、と。
そして…もっと早く知り合いたかった、と。

(貴方が貴方のままでいて、私が私じゃなかったら、きっと貴方と一緒に暮らしていたと思う)

私と知り合わなくても、いずれは田舎に帰り、見合い結婚でもするつもりだったのだそうです。
私との事があり、ただそれが早まっただけだ、と。
自分の過去を知らない人なら誰でも良かった…。
相手がどんな人でも最初から結婚するつもりだった…。

私の前から姿を消した二ヶ月の間に実家に戻り、以前から紹介されてた知り合いのおばさんからのお見合いの話を受けたのだそうです。

彼女の手紙は続きました。

-------------------------------------------------------------------
 彼から結婚指輪をもらいました。
 大きな粒のダイヤモンドのリングで高かったんですって。
 だから、炊事や洗濯の時にはいちいち外さなくちゃいけないし…。
 失くすのが怖くて、結局はめていないの。 おかしいでしょ?

 でも、貴方からもらった指輪の方は、ちゃんとはめているの。
 私にだけ見えて、他の誰にも見えない指輪。
 そのことが私をとても幸せな気持ちにさせてくれる。

 指輪のこと本当にごめんね。
 薬指を見るたびに貴方のことを思い出します。

 ね、ちゃんとご飯、食べてる?
 食事の支度をしていても貴方のことを思い出します。

 星空を見上げては、あの時歓声を上げた貴方のことを思い出します。

 貴方からもらった物は他にもたくさんあるのに、私の方からは何一つ返せなかったよね。
 だから私、貴方にお守りを送ることにしたの。
 きっと、貴方のこと守ってくれると思うから。
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封筒から丁寧に折られた半紙が出てきました。
彼女は大事な所の縮れ毛を半紙に挿んで送ってきたのです。

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 私だと思って大事にしてね。
 そして、少しでいいから私のことを思い出して。

 私のこと、忘れてって言ったのは、ぜんぶ嘘。
 私、まことが好き。
 もう一度、まことに会いたい。
 もう一度、まことに抱かれたい。
 ねぇ、駄目なのかな。
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彼女の手紙は中途半端に、私が応えようが無い言葉で終わってしまっていました。

私はもう一度、彼女とそのご主人の写った写真を見つめました。

何度見返しても…写真の中の彼女の相手の人は見るからに優しそうな人でした。
何度見直しても…彼女を幸せにしてくれそうな人でした。

彼女は、彼女の事ならすべて知っていると思い込んでいた私ではなく、彼女の事など何も知らないその人を選んだのです。
私は彼女のそんな想いを、時間を置いてから受け取ったことで素直に受け止めることができるようになっていました。

人は時として…何も知らない方が…何も聞かない方が…良いのかも知れません。
大事なことは…すべて出逢った時から始まる二人で過ごす時間の方なのですから…。

彼女と私を運んでくれた、あの列車の始発駅と地方都市の駅は、彼女との別れの思い出の場所になりました。
どちらの駅も当時の面影などまったく残していませんが、今でも出張などで訪れると切なくなる場所には違いはありません。

その東北の地方都市を結ぶ時間は驚くほど短縮され、人も、風景も、慌しく過ぎ去るようになりました。

でも、彼女と過ごしたあの頃は、すべてがゆっくりと、たおやかに流れる時間の中に漂っていたような気がするのです。

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