第三章①離婚
由香里に私と言う婚約者ができたと言っても所詮は18歳の女の子でした。
料理学校へ通ったり花嫁修業をしながら、一方では父親の影響を受け幼い頃から時から出入りしていたライブハウスやディスコに私を頻繁に誘うようになりました。
そんな時の彼女は会社に居る時の雰囲気とは打って変わって服装もド派手で化粧もケバい。ノーブラなんて当たり前という感じ。
ライブで歌ってる時のアン・ルイス(古い?)のようだと言えば想像が付くでしょうか。
そんな世界に足を踏み入れたことなど無かった一介のサラリーマンの私にとって正直ビビりの入る世界です。
彼女の父親の存在が大きいのか、彼女は何処に行っても『顔パス』でした。そのせいで彼女に手を出す男も居なかったようでした。
由香里は本当に自由奔放な子でした。
セックスを知ってからというもの貪欲にそれを求めてきました。
そしてそれは会社でもお構い無しに。
欲しくなれば私の席に時間と場所を指定した暗号文で書いたメモを置いていきました。
昼休み、休憩時間と、時間はいくらでもありました。
場所も、屋上、図書室、非常階段と、人気のない場所はすべて利用しました。
彼女のお気に入りは、エレベーターの機械室。
機械の音で人目を気にせず声を上げることができるからです。
セックスのパターンは、最初に彼女がしゃがみ込み私をフェラで立たせた後、パンティを膝まで下げた彼女を私が背後から犯すというスタイル。
10時、12時、15時と一日に三回したことも何度かあったのです。
結婚式まではそんな生活が続きました。
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やがて由香里は退職し、私達はありきたりの結婚式を挙げ、ありきたりの新婚生活を始めました。
年齢的にもそんな時期だったのかも知れません。
私の職務上の責任も増え、仕事に忙殺される日々が続きました。
結婚して6年ほど経った頃、私は新しいプロジェクト立ち上げの為、単身で1年ほど旅立つことになりました。
由香里の相手もままならないまま数ヶ月が流れました。
私の留守中、後輩達が何かと気遣い由香里の相手をしてくれてるようでした。
由香里からも後輩達から海に山にと誘われたことの連絡が入りました。
その都度私は、行って楽しんで来ればいいと返事をしました。
その後も何度か飲み会やら何やらと呼び出しを受けては出掛けたようでした。
後発で出張先に来た後輩から、由香里さん寂しいみたいだよ、と言われました。
その時、その本当の意味が、私にはまだ判っていなかったのです。
海水浴だのキャンプだのと由香里が参加して来た事を聞かされてはいましたが、由香里本人からはその事を話さなくなりました。
半年ほどして現地の準備作業も一段落し、久しぶりに家に帰れるだけの休暇が取れました。
私は由香里に電話を掛けました。
「あ、俺。 今度の週末に帰れると思う」
(うん…。 わかった…)
「何だ。 嬉しくないのか?」
(あのね…)
「ん?」
(別れて欲しいの…)
「はぁーぁ? 誰とぉ?」
(私…と…)
タチの悪いジョークかと思いました。
「何バカな事言ってんだよ」
(もう決めたの…)
「決めたって…。 別れてどうするつもりだ?」
(どうもしない。 ウチに帰ってしばらく暮らす…)
「もー、電話じゃ話しにならない。 いいか? 帰ったら話しよう。 いいねっ?」
(うん…。 でも… 私の気持ちは変わらないと思…)
私は突然別れを言い出した由香里に腹を立て、ガチャンと思いっきり受話器を叩きつけました。
日本に向かう飛行機の中、私の頭の中は混乱するばかりでした。
プロジェクトもまだ中盤、これからますます時間がとれなくなるというのに…。
私と対峙した由香里は、ただただ、私を非難し続けました。
『寂しかったのっ! でも…あなたは仕事のことばかりで何も構ってくれなかったっ! 私、寂しいのは嫌なのっ!』
取り付く島がありませんでした。
人は誰でもそうかも知れない。
会社を辞めると決めた人間は、辞める理由だけを探し始める。
できないと言い出した人間は、できない理由だけを上げ連ねる。
そして別れると決めた由香里は、些細な事も別れる理由に上げ始めた。
どいつもこいつも、どうして継続するためにはどうあれば良いかを考えようとはしないのか。
彼女は慰謝料も何も要らないから、とにかく別れての一点張りでした。
理由にならない理由を、どんなに上げ連ねられても、離婚の申し入れを受け入れる訳にはいきませんでした。
やがて彼女の口から決定的な一言を聞かされました。
「私…、他に好きな人ができたの」
私が悪いのなら改める。 それは何度も説得した。
でも…、私より好きな人が居ると言うなら話は別だ。
それはそのまま、私より幸せにしてくれる人が居ると由香里が判断した結果なのだから。
由香里にとって私は、その何処の誰とも判らない男に比べると存在感の無い格下の存在なのだ。
「わかった…。 君の思い通りにすればいい」
私はその日のうちに離婚届に判を押しました。
離婚届けを由香里に渡してから何日かして、私の元に彼女の父親から電話が入りました。
(君は由香里に一銭も慰謝料を払わないらしいな。 なんて情けない男だ)
「お義父さん。
私は由香里から慰謝料も何も要らないから別れて、と、そう言われました。
でも… 分かりました…。
私から持っていけるものがあるなら何でも持っていってくださって結構です。
マンションも売り払えば幾らかになるでしょう。
全部由香里に渡します。
彼女にそう伝えて下さい」
愛だとか恋だとか、人を信じる気持ちの拠り所を失って、ただもう何もかもが面倒臭くなっていました。
早く仕事に逃げ込みたい一心でした。
そうすれば…きっと何もかも忘れられる…。
(情けない男…)
そんな自分に追い討ちを掛ける様に、彼女の父親から言われた一言はショックでした。
自分に落ち度が有ったかどうかは別にして、確かにその通りじゃないか。
これ以上、何を失うことを恐れているのか。
欲しいと言うなら、すべて持っていくがいい。
元々大したものなど何も持っていなかったのだ。
そう。
愛さえも…。
私は一人暮らしするには充分な広さのアパートに移り住みました。
7年暮らしたマンションや車など、売れるものは全て売り、由香里に送金すると無一文になりました。
無一文になり心身共にどん底に落ちれば、あとは登るだけ。
世間では良く聞く話でしたが、それを身をもって体感しました。
それはもう、本当に身軽になった気がしました。
私には由香里と暮らした7年間という月日の重さだけが残りました。
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