[2465] 背信 <第二部 8> 投稿者:流石川 投稿日:2005/12/12(Mon) 00:44
午前二時。由紀は川村のマンションの前でタクシーを降りた。
(……もう……こんな時間……)
足元がおぼつかないのは、それだけ酷な仕打ちを受けてきた証だ。
友人の若妻を輪姦する興奮にすっかり味を占めた田崎たちは、このところ常に五人揃った場所に由紀を呼び出すようになった。
(男のひとって、どうしてだんだん普通のセックスじゃ満足できなくなるの?)
今夜は目隠しをされ、順番に挿入される肉棒が誰のものかを当てるゲームをさせられた。
「……うっ……か……加藤さんなの?」
「ブッブー、はずれ。正解は私・米倉でした」
「……ああ……無理よ……わからないわ」
ただでさえ、性感が極度に研ぎ澄まされているところに、幾度か抽送が繰り返され波が高まったあたりで抜かれてしまうのだから、たまったものではない。
「……もうダメ!……本当におかしくなっちゃう……イカせてください!」
オルガスムスを求め、もだえ苦しむ由紀。
「だからさ、見事ピンポンしたら思いっきり気をやらせてやるって」
もう恥じらいも外聞もなかった。膣内に神経を集中し、大きさや形状から挿入されるペニスの持ち主を推定しようと半狂乱となる由紀。
絶頂への渇望だけが彼女を支配していた。
女の部分に疼痛がある。出血しているようだ。朦朧とした意識を奮い立たせ、やっとの思いで鍵を取り出す。
(……今夜だけは……川村さんに勘弁してもらおう……)
そう考えながらリビングに足を踏み入れた由紀は、そのまま凍りついた。
「あんっ、あんっ、いいっ!」
見知らぬ若い女が川村に跨り、ショートヘアーを振り乱して腰を躍らせている。由紀の腕からハンドバッグがすべり落ちた。
「……どういうこと?……」
呆けたようなつぶやきに、二人の動きが止まる。女が振り返った。小ぶりながら硬く引き締まった乳房。二十二、三歳といったところだろうか。若く、勝気そうな顔立ちに、快楽を中断された苛立ちが満ちている。
「誰よ、この女?」
憎悪を込めた眼で睨んでくる。
「ああ、昔の女さ」
女の背中越しに川村が告げる。悪びれた様子はまるでない。
「……昔の……女……?」
頭が言葉を拒否している。
「……もう……終わったっていうの?……わたしとは……」
「しつこいんだよ、おばさん。彼がそう言ってんだろ!」
女の罵声が心に突き刺さる。
「わたし……こんなに尽くして……何もかも捨てて……なのに……」
にじんだ視界に、かろうじて川村をとらえた。
「ふふふ、なんたって女は若いのに限るぜ」
眩暈がした。身体がガタガタと震え出す。
「あの女、根っからの変態なんだぜ。今日だって何人もの男を咥え込んできたところさ」
「えーっ、信じられなーい。あたしは惚れたら一途、あんただけだからね」
「俺もさ。もう加奈子だけを熱烈に愛しちゃうぜ」
何かいわなくては……。口を開こうとしたとき、熱いものが胃からせり上がってきた。バスルームに駆け込むや、由紀は激しく嘔吐した。吐くものがなくなってからも、えづき続けた。脳裏に閃光が走る。
(……まさか……)
そういえば、生理が遅れていた。あまりにも異常な性生活の影響だと思っていたが、そうでなかったとしたら……。
翌日、産婦人科の中年医師はたっぷりと贅肉の付いた顔を綻ばせて告げた。
「おめでとうございます。三ヶ月ですね」
由紀は妊娠した。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)