[3895] 鬼畜 4 投稿者:鈍 投稿日:2006/01/08(Sun) 18:30
私はこのまま家を出てホテルにでも泊まろうと思いましたが、母が私の足にしがみ付
いて放しません。
「哲也さん、ごめんなさい。私からも謝りますから、裕子の話を聞いてやって。お願
い。お願い」
母を足蹴にするわけにもいかずにその場に座りましたが、妻は泣いていて何も話せま
せん。
「裕子!泣いていないで、何か言いなさい」
「あなた、ごめんなさい。でも彼とは身体の関係は無いの。確かにあなたに嘘を吐い
て2人で会っていました。でも私はあなたが好き。彼とは恋愛ゴッコをしてしまったの」
「恋愛ゴッコ?でも確かに彰君が好きと言っていたよな?」
「彼は真面目だから、逆にそうでも言わなければ何をされるか分からない」
「さすが30歳を過ぎて大学に合格した秀才。言い分けまで考えて有ったのか?それ
なら先週の旅行は、誰と行ったのか言ってみろ。全て聞いたぞ」
「それは・・・・・・・」
「2人だけで旅行に行って、身体の関係はないなんて、よく言えるものだ。それを俺
に信じろと言うのか?30歳を過ぎた女と、20歳を過ぎた男が一夜を共にして、何
も無かったと言うのか?」
「でも本当に身体の関係は無いの。それだけは信じて。お願い、信じて」
「俺が若い女と旅行に行ったら、裕子は信じられるか?」
「信じられないかも知れない。でも本当に何も無かったの。お願い、信じて」
「それなら、どうして旅行など行った?」
「別れる為に・・・・・・」
「別れる為に旅行に行った?意味が分からん。奴との事を、最初から詳しく話してみろ」
入学して1ヶ月もすると皆それぞれ友人が出来て、何人かで連れ立って昼食をとる様
になりました。
しかし妻はそれを羨ましく思っても、歳が違う事もあってすぐには皆に溶け込めずに、
いつもベンチで一人パンを齧っていたそうです。
彼もまた大人しい性格で友達が出来ずに、妻同様一人でポツンと昼食をとっていまし
たが、友達がいない同士、いつしか一緒に学食や近くのファーストフードで食事する
ように成りました。
その後、徐々に2人は皆に溶け込んでお互いに友達も出来たのですが、仲間と食事に
行ったりする時は自然と隣の席に座り、講義の空いた時間や学校が終ってから、2人
で喫茶店に行ったりする仲になっていきます。
服装や化粧が派手に成っていったのはこの頃からで、おそらく妻は彼に気に入られよ
うと必死だったのでしょう。
大学では、次第に恋人同士になる者も少なくなく、妻はその様なカップルを見ている
と正に青春だと思えて羨ましく、彼を好きとか嫌いとかではなくて、一緒にいると自
分にも青春が戻って来た様に感じたと言います。
彼との仲がより親密に成ったのは、彼の車から妻が降りてくるのを、私が目撃した日
からでした。
その時彼は急に車を止め、妻に好きだと告白したのです。
若い男から好きだと言われて妻も悪い気がするはずも無く、その後はお互いを名前で
呼び合い、学校以外では腕を組んで歩いたりもしました。
「ごめんなさい。若い子に好きだと言われて、有頂天になっていました。あなたの事
も考えずに、恋愛ゴッコを続けてしまいました」
「恋愛ゴッコで、旅行まで行くのか?」
最初、何も考えずにその様な仲を楽しんでいた妻も、次第に罪悪感が大きくなって、
この様な関係はやめようと言ったそうです。
「私には夫や子供がいるのを知っているので、彼も当然遊びだろうと思っていたら、
今まで女の人と付き合った事の無い彼は私の事を真剣に想っていて、隠しているのが
辛くて別れると言うなら、あなたに私と別れてくれと頼みに行くと言いました。あな
たから私を奪いたいと言いました。この様な事をしていたと、あなたに知られたくな
かった私はどうにか説得したのですが、その条件が、最後の思い出作りに旅行に行く
事でした」
「ほーう。でも奴らの話だと、その後も別れた様子は無かったよな?」
「彼はそれでも諦めてくれなかったので・・・・・・・・・」
妻は手を繋いだ事は有っても、身体の関係どころかキスもしていないと言い張り、私
も喫茶店での彼の言葉を思い出すと、小さい声ながら、確かに友達の言っている事を
否定していました。
「哲也さん。もう一度裕子にチャンスをあげて。もし裕子の言っている事が嘘だと分
かった時は、哲也さんが出て行かなくても親子の縁を切って、裕子に出て行ってもら
います」
「お母さん。仮に身体の関係が無いとしても、俺を裏切った事に変わりは無いのです」
そう言いながらも母の言葉で少し冷静になると、もう一度妻を信じたい私がいます。
「分かっています。それはこれから一生掛かっても償わせます。だからお願い。子供
達の為にも、もう一度だけ」
母の言う通り子供達の事を考えれば、勢いだけで軽率な行動も取れません。
「裕子、嘘は無いな?今の話に少しでも嘘が有れば、俺達は本当に終わりだぞ」
「ありがとう。一生掛かっても償わせて下さい。ありがとう。ありがとう」
私は暫らく様子を見ようと思いましたが、全て信じて許した訳では有りません。
妻に限ってそこまではやっていないと信じたいのですが、例え身体の関係が無かった
としても妻の言った『彰君が好き』と言う言葉が、頭の中から消えないのです。
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