私が43才で妻が40才だった1年前、妻の浮気を知った。
知ったと言っても怪しいと感じたのはその半年も前なので、自分の中で現実を認めたのが1年前と言った方が正しいのかも知れない。
私は一応養子ではないが、義父母を看る約束で敷地内に家を建てさせてもらったので、世間から見れば養子と同じで、妻もその様な感覚でいたようだ。
私がそこまでして妻と結婚したかった理由は、美人ではないが口元のホクロが印象的で、どこか男好きのする色っぽい顔とムチムチした厭らしい体を持ちながら、その容姿とは全く違って、お淑やかで一歩下がって男を立てる古風なところに惹かれたから。
しかしそれは、猫を被っていただけで妻の真実の姿ではなかった。
結婚して間もなく妊娠し、その頃から早くも本性を現し始め、妊娠を理由に何もせずに、お茶一杯煎れてはくれない。
それどころか、毎晩のようにマッサージをさせられる。
しかし馬鹿な私は、結婚も最初が肝心と先輩に教えられながら、これは妊娠した事で精神的に不安定になっているのだと思って逆らわなかった。
無事に双子の娘が生まれ、これで普通の生活に戻れると思いきや、今度は育児疲れを理由に私をこき使う。
確かに双子の育児は大変なので、これも妻に言われるまま文句も言わずに手伝ったが、それがいけなかったのか、娘達が小学生になった頃には、私の意見など全く聞かなくなっていて、何でも勝手に決めてしまい、私が口を出そうものなら大変な騒ぎに。
結局私はただ黙って働いて生活費を運び、一歩も二歩も下がって妻の思い通りに行動していれば機嫌が良い。
やがて義母が亡くなり、妻が義父の世話をするようになったが、そんな妻でも義父は怖いのか、義父の家では炊事、洗濯、掃除を卒無くこなし、義父の前では私を男として立てていたが、やはりこちらに戻ってくると、夫どころか男とも思っていない様な態度をとっていた。
「どうして俺と結婚した?」
「専業主婦で良いと言ったし、両親を看てくれると言ったから」
流石に離婚を考えた事もあったが、子供達も可愛くて踏み切れなかった。
いや、子供に託けながら、本当はこんな生活でも変えるのが怖かったのかも知れない。
そんな妻に大きな変化が現れたのは1年半前だ。
幼い頃から厳しく育てられたトラウマなのか、義父の前では家庭を守る良き妻を演じ、子供達の事以外で外出する事はほとんど無かった妻が、義父が体調を壊して急に弱気になり、妻に対して何も言わなくなってからは何かと理由をつけて外出する事が増え、同時に下着も化粧も明らかに派手になった。
髪にも大きなウエーブをかけて、一見安いクラブのママのようだ。
特に義父が入院してからは、それまで押さえ付けられていた重石も取れて、出掛けると午前様になることも度々で、子供達には義父の病院にいたと説明していたが、その病院は完全看護で余程の事がない限り、例え家族でも夜9時には病室から出される。
当然浮気を疑って、最初は相手を調べて叩き潰してやるとさえ思ったが、すぐにそのような熱い気持ちも醒めてしまい、冷静になればなるほど、どうでも良くなってしまった。
それと言うのも妻はセックスが大好きで、大喧嘩した夜でもセックスだけは別だとばかりに迫ってくる。
特に娘達が中学生になった頃からは、寝室の外では鬼のような顔をして文句ばかり言っていても、一旦寝室に入ると毎晩のように猫撫で声で迫ってくるようになり、妻が満足するまで何度でもしてやらないと、終わった後に「夫の勤めも果たせないのか」と罵倒された。
それは私が仕事でいくら疲れていようとも変わらず、断わろうものなら口も利かなくなって、翌日の食卓には嫌がらせのように私の嫌いな物ばかりが並ぶ。
それが、外出が増えてからは迫られることが急に減り、次第にセックスレス状態になっていた。
普通の旦那ならここで不満を漏らし、妻を追及するのだろうが、私はそれで良いと思ったのだ。
鬼のような内面を知ってしまっては、いくら色気があってエッチな下着で迫って来ても性欲が湧かない。
行為中にあれこれ注文を付けられたら、勃起を維持するのも一苦労。
必死にお気に入りの女子社員や近所の奥さんなどを思い浮かべて、何とか奮い立たせていた状態だった。
しかしそんな私でも男としてのプライドはあり、妻に浮気されていると分かれば放ってはおけなくなる。
それで自分の中で妻の浮気を否定して、気付いていない夫を演じていたのだが、病状は軽いと説明されていた義父が入院してから3ヵ月で他界し、49日の法要があった昨年の今頃、妻の妹夫婦が泊まりで来ていたにも拘らず、夜になって友達と食事の約束があると言って赤いワンピースに着替えて出掛けたので、浮気を疑えと妹から指摘されてしまった。
他の者が気付いてしまえば、浮気されていても何も言えない情けない夫だと思われるのが嫌で放ってもおけず、自分でも疑惑を持っている事を認めざるを得なくなってしまう。
一旦自分で認めてしまうと、あんな妻でも心穏やかではなくなって興信所に頼んだが、よくよく考えてみれば浮気された悔しさよりも調べて証拠を得る事で、妻に対して強い立場に立てるかも知れないという思いが強かった。
結局嫉妬心は余り無く、その事で揉めて最悪離婚になってしまっても構わないとさえ思ったのだ。
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