愚か者 8/3(木) 17:40:36 No.20060803174036 削除
私は電話の音に少しびっくりしていると、妻は電話の方へ歩みを進めます。
桜井からの電話だと思った私は、とっさに妻を制止します。
「俺がでる、お客からかも知れない。」
「そうですか。」
妻は私の言葉を簡単に受け入れ、また携帯を探す素振りを見せました。
この様子を見た私は、やはり妻と桜井はまだ連絡を取り合っていない事を
確認できたように思いました。
ゆっくりと電話の前に進み受話器を手にした私は、相手の声を確認する為に
少しの間無言でいました。
「・・・阿部さんのお宅ですが?」
「はい、阿部です・・・」
私の声を聴いた瞬間、相手は電話を切りました。
やはり桜井でした、妻に連絡の取れない桜井は、仕方なく自宅にまで電話を
して来たのでしょう。
受話器を置いた私は何故か少し心に余裕が出来てきました、一応は妻と桜井
が話し合う機会を阻止する事が出来たのですから。
「どうしたの、誰から?」
「切れてしまった。」
「そう。」
後は、妻の方から桜井に連絡を取らない様にしなければなりません。
「貴方、お客様何時に来られるの?」
「あぁ、6時に来る。」
「それじゃ、お食事はどうします。」
「何か適当に頼むよ。」
「だったらお買い物をしてこないと、私行ってきますね。」
「有る物で、済ませれば良いよ!」
「そうは行かないわよ。」
「酒も食べ物も、買い置きで何とかなるだろう、わざわざ買ってこなくて良いよ。」
妻を外出させたくない私は、少し口調が荒くなっていたようです。
「解りました、それで何人いらっしゃるんですか。」
「あぁ、一人だよ。」
「一人ですか、それなら何とかなります。」
「すまないが、頼むよ。」
「それじゃ、支度しないと。」
「まだ、早いだろう。」
「ちょっとは、良いもの作らないとお客さんに失礼でしょ、いつもと一緒って言う訳にも行かないし、私が恥ずかしいもの、結構時間掛かるのよ。」
「そうか、任せるよ。」
妻は、いそいそと料理の準備を始めました。
「貴方、ところで、今日のお客さんはどんな人なの?」
「・・俺は、初めて会う人なんだ。」
「えぇ・・・」
そうです、私は始めて桜井に会うのです。
写真では、その容姿は知っていますし、電話越しでは有りますが声も聞いています。
しかし、本人と会うのは今日が初めてなのです。
「初めての人で、ここに来れるの?」
「大丈夫だろう、それに近くに住んでいるようだし。」
「そうなの?」
「解らなければ、電話でもして来るだろう。」
妻は小首を傾げながらも、それ以上は聞いて来ませんでした。
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