愚か者 8/3(木) 17:47:02 No.20060803174702
受話器を置くと、我に戻った妻が私に質問を浴びせかけてきます。
「知らない人じゃなかったの?」
「俺は、会ったことはない。」
「どうして、桜井さんなの?」
「桜井さんじゃ、何か都合が悪いのか。」
「そんな訳ではないけれど。」
「お前の同級生だったな。」
「どうして知ってるの?」
「人から聞いてね!」
「何の用事なの?」
「何をそんなに気にしてるんだ。」
「別に、何でもないけど、びっくりしただけ。」
間も無く、玄関のチャイムが鳴りました。
さすがに妻は、玄関に足が向かない様子なので私が出る事にしました。
玄関の扉を開けると、顔を引きつらせた桜井が立っていました。
「桜井です。」
「阿部です、どうぞ。」
「失礼します。」
桜井の狼狽ぶりは、顕著なものでした。
手は小刻みに震え、靴を脱ぐ時などは余りの緊張からか、よろける始末です。
桜井が靴を脱ぎ終えるのを待ちリビングに案内すると、そこにはこれまた緊張
しきった妻がソファーの脇に立っていました。
「桜井さん、お掛け下さい。」
「・・はい、失礼します。」
「奈美、桜井さんにご挨拶して。」
「・・・いらっしゃいませ・・・」
「どうも、お邪魔します。」
桜井はある程度の覚悟はしているのでしょうが、妻は何が何だかわからない
状態のようです。
「立ってないで、お茶でもお入れして。」
「・・・はい、失礼しました、今お持ちします。」
「御構い無く。」
妻は下を向いたまま、キッチンに向かいました。
次に妻がお茶を持ってくる間、桜井も私も一言も喋ることなく数分が過ぎました。
ようやく妻がお茶を持って来たとき、桜井が口火を切りました。
「今日はどの様なご用件で?」
「妻が何時もお世話になっておりまして。」
「ですから、別にお世話など何も・・・」
「奈美お前もここに座りなさい。」
「私は・・・・」
「お前にも関係する話だ。」
「・・・はい」
妻も何となく、事の成り行きが創造できる様な精神状態に成って来たようです。
「・・失礼します。」
妻も席に着きお互いが相手の様子を見るような沈黙が暫く続きました。
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