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北原夏美 四十路 初裏無修正

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[972] 贖罪08 投稿者:逆瀬川健一 投稿日:2001/08/02(Thu) 22:02

【#08 傍観】
 三宮の駅前で私を拾うと、Fの運転するBMWは山手に向かった。
 午後八時。すでに日本屈指の夜景がクルマの前後左右に広がりつつある。だが、神戸の夜景は、そのさなかにあっては堪能できない。神戸港からのパノラマがすばらしいのだ。それはまさに、官能のありようにも似ている。エロティシズムとは、ある程度、距離を置いてこそ、その香りを味わうことができる。どっぷり浸かってしまっては、単なる肉体の刺激が支配するベタで無粋な世界が広がるだけだ。
 これから私は妻の痴態を目撃する。指一本触れることなく、声ひとつかけることなく、ただのオブザーバーとして、見知らぬ男に狂わされてゆく妻の姿を見つめていなくてはならない。そんなことはごめんだという男性もいるだろう。精神の均衡を乱されてしまう男性もいるかもしれない。だが、私は取り乱すことなく、妻の狂態を見届けることができるという確信めいた自信があった。
 元旦の夜、妻の告白を聞き終えた私は、妻と風呂に入った。汚れてしまった身を嘆き、不本意にも激しく反応した性感を呪う妻を湯船の中で抱き、隅々まで洗ってやった。すべての汚れは洗えば落ちる。心まで汚れていなければ大丈夫だと励ましながら、湯が生ぬるくなるまで妻を抱き続けた。
 BMWは、山手の大通りから急な坂に入り、高価そうな分譲マンションの駐車場に乗り入れた。
「着いたで」
 助手席の私を一瞥して、Fはドアを開けた。

 七階建てのマンションの最上階でエレベーターを降りた。
 一戸一戸の面積が広いらしく、吹き抜けの周囲をポーチ付きの玄関が四つ囲んでいるだけだ。その一つのドアにFがカードキーを差し込んだ。
 作りつけの下駄箱のガラス扉の向こうに男物の靴が三足、女物の靴が二足見えた。一つは妻が気に入っているショートブーツだった。
(いわゆる5Pというやつか……)
 私は溜息を洩らした。仕事帰りの身にとって、いささかヘビーな光景を見ることになる。
 住戸内のどこからか、かすかに人の話し声がする。妻の嬌声が耳に飛び込んでくるものと覚悟していた私には、ちょっと意外だった。
 Fに招き入れられた六畳ほどの和室の一方の壁にはモニターテレビが三台並び、その前に置かれた文机には、レバーやつまみがひしめくビデオ編集機のような装置があった。
「適当に座り」
 部屋の隅に積まれた座布団を指し示すと、Fはモニターテレビのスイッチを入れていった。三つの画面のノイズがかき消え、鮮明な映像を映しだした。フローリングの広い部屋が三つのアングルから捉えられている。
「リビングや」
 Fはぶっきらぼうに言うと、レバーを操作した。
 画面の一つがソファセットをズームインした。三人掛けのソファに初老の男たち、一人掛けのソファ二脚のそれぞれに女の姿があった。一人は妻、もう一人はTだ。五人は服を着ていた。着衣に乱れはない。
 私は首をひねった。すでに九時前だというのに悠長なものだ。カネに明かせてこんな高級マンションを秘密の隠れ家にしている爺さんやおっさんの割にはがつがつしたところがない。元旦の日に妻を犯した僧侶とはまったく違う。
「しもた! つまらんな」
 Fが舌打ちをして、私に首をねじった。
「もうお開きやで、今夜は」
「妻を、このまま帰してもらえるんですか」
「帰すもなにも、あとの祭りやがな。いや、祭りの後、言うたほうが正しいんかな」
「………?」
「もうとっくに終わったちゅうことや。もうちょっと早よ会社を出て来なあかんで。オブザーバー失格や」
 合点がいかない様子の私に、Fは面倒くさそうに語って聞かせた。
 三人の男とTは、すでに妻を貪ったあとなのだという。午後六時集合だったから、クライマックスは八時過ぎだろうとFは踏んでいた。だが、予想に反して5Pの宴は終わり、全員がシャワーを浴びて身繕いをすませたばかりの場面だったのだ。
「奥さんが新鮮やったから、おっさんたち飛ばしすぎたんちゃうか」
 私は肩を落とした。何を目撃してもうろたえぬように、朝から気を張ってきた。その反動が、落胆にも似た疲れとなって私の心をふさいだ。
「見たかったなあ、奥さんが四人に責められるとこ」Fは大袈裟な溜息をついた。
「ちょっと待ってください。今、四人て言いませんでした?」
「ああ。Tさんが指導係になって、おっさんたちに奥さんを嬲らせたんや。同じ女やから、結構えぐいことやったんちゃうか。それが見たかったんや」
 同意しそうになる自分を必死に抑えた。妻が味わう恥辱を共有し、痛みを分かち合おうと心に誓っていたんじゃないのか、おれは? なぜ落胆する? なぜ、モニターに近づいて妻の憔悴ぶりを見守ってやろうとしない?
「そないにがっかりせんかてええやろ」
 Fは私を見て苦笑した。
「一部始終はビデオに撮ってあるから、次の機会にでも渡したるわ」
「いえ、結構です。その場におらんと意味がありませんから」
「ははーん、ライブ志向か? 臨場感がないと立ちが悪いちゅうわけかいな」
「いや、そういうわけでは……」
 Fに本心を見透かされたような気がして、私はあわてて首を振った。
「まあ、ええ。声だけでも拾てみよか」
 操作盤のつまみにFの手が触れると、文机の端にセットされたミニスピーカーから男たちの声が流れはじめた。
『とは思えなかったよ、あの反応ぶりを見るかぎりね』
『まったくや。Tさんの出る幕がなかったんと違うかい?』
『私なんか邪魔なくせに』Tの声。写真の印象とは異なり、透明感のある細い声だった。『でも、教授がお持ちになったバイブはよさそうでしたわ』
『実用面では日本製にまさるものはないらしいが、ドイツ製のものには独特のムードがあるよね』
 教授と呼ばれた白髪頭が、ソファの脇に載せた書類鞄から箱を取り出し、蓋を開けてみせる。Tが中身を掴んだ。
 長さも太さも男の二の腕ほどはありそうな筒具が姿を現した。
 男たちは好色な笑みの中にも複雑な表情を浮かべている。妻が顔をそむけるのを、私は見逃さなかった。
『最初は無理だと思ったんやけどな』五分刈りの男が言った。『ふつう、そんなん入れられたら壊れるで。そやろ、Tさん?』
『女って、意外とタフなもんなんですよ』Tは、手にした淫具を弄びながら答えた。『赤ちゃんかて産むくらいやから、これくらい平気なんちゃいます?』
『そこまで言うんやったら、あんたもいっぺん試してみたらどうや』髪の薄い痩躯の男がからかった。『この奥さんみたいにひいひい言わしたろか』
『お尻にも入れてえ、と言ったのは傑作でしたな』教授が神妙な顔で言った。『それこそ壊れてしまう』
『どっちが? 奥さんのアヌス? それともそのバイブが?』五分刈りが調子に乗る。
『そらバイブに決まってるやろ』
 痩躯の男がまぜっかえすと、妻を除く全員が爆笑した。
「妻は……妻は、いったい何を……?」
 呆然とつぶやく私を見て、Fは鼻を鳴らした。「だいたいわかるやろ。気になるんやったら、奥さんに訊けばええこっちゃ。今夜は燃えるで」
「やっぱり、ビデオいただけますか」
 万事まかせろ、と言いたげな表情で、Fは私を見た。
『しかし、こんな奥さんと暮らしてる旦那も体力もたんで』五分刈りが喋っていた。『わし、腰がふらふらやで。抜かずのなんとやらいうのは二十年ぶりとちゃうかな。教授はどないでした?』
『社長にあやかりたいもんですなあ。あいにく、そこまではいきませんでしたが、とても満足しました。前と後ろから責められながら、ときおり見せる表情がなんともすばらしい。退官後も、やめられそうにありませんな』
『やめたら老け込みまっせ』痩躯が言った。『それに、教授が持ってきてくれるオモチャが毎回楽しみで楽しみで。体とカネが続くかぎり、この集まりを続けていきましょうや』
 高笑と苦笑が交差する中、妻は最後まで顔を上げなかった。
 三宮駅まで、Fが送ってくれた。
 BMWのリアシートに私と並んで座る妻に、気になっていたことを訊いた。大阪の僧侶に嬲られた日は月経直後だったから妊娠の心配はなかったが、これからも頻繁に男たちに奉仕しなくてはならないのなら避けて通れない問題だ。望まない妊娠の結果、妻の体がダメージを受けては取り返しがつかない。妻の返事によっては、貯金を下ろし、保険を解約し、それでも足りなければ退職金の前借りをして全額返済するつもりだった。私の中に芽生えた邪悪な好奇心のために妻を傷つけるわけにはいかない。
「避妊は……どうしてる?」
「低容量ピルを服んでる」
「体調は、悪くないか」
「だいじょうぶ。アレルギーなんかないから」
「それは知ってる」妻の肩を抱き寄せた。「たいへんやったな、今夜は」
「ほんとにいいの、このままで?」妻の声が湿り気を帯びた。「何人もの男の人に抱かれる、こんな私でも」
「夫婦やのに、なに水くさいこと言うてるんや」
 妻がしがみついてきた。歯磨きペーストの香料が妻の吐息に混じっていた。
 フロントグラスいっぱいに広がる神戸の夜景を眺めながら、脳裏に満ちる不道徳な悦びの奔流に、私はとまどっていた。妻はあと幾人、いや、幾十人もの男の精を子宮に浴びるのだろう。喉にも、そして、いずれは直腸にも。
 その思いに、私の性器をは甘くうずいた。
 帰宅後の妻の一人語りを待ちかねる暗い情熱を、私はそのときはっきりと自覚した。

 今、思い返しても、そのときの嗜虐的(被虐的?)な情念がどこから湧いてきたのかよくわかりません。性格的な欠陥があるのか、それとも男とはそういうものなのか……。「妻物語」に寄せられる皆さんのお話に、その答えがありそうなのですが、今は私たちの物語を思い出すのに精一杯です。これからも、よろしくお付き合いください。では、後日。

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