[995] 贖罪09 投稿者:逆瀬川健一 投稿日:2001/08/10(Fri) 20:51
【#09 反発】
気を利かしたのか、それともあの高級マンションでビデオ編集をしなくてはならないのか、Fは私たちを三宮の駅前でクルマから降ろすとそそくさと引き返していった。
私たちは腕を組み、電車に揺られた。お互い、無言だった。
自宅マンションの玄関に入るなり、妻はコートを脱いでロングスカートの前をたくし上げた。
何やってるんや、と咎めようとした私はわが眼を疑った。
妻の下半身から翳りが消滅していたのだ。
天井の白熱灯の黄色みを帯びた光が、妻の無毛の恥丘を照らしている。
まだ二十代の頃、水着を着るからと陰毛を短く刈り込んだことはあったが、その部分の皮膚をじかに見たことは今までなかった。
私は靴を履いたままで三和土に膝をつき、妻の太腿を両側から掴んだ。
こんもりと盛り上がった肉の丘に深い亀裂が刻まれ、その下部から肉芽を覆う莢の付け根が顔をのぞかせている。
俗に“幼女のような”と形容されるが、三十三歳という年齢を考えると、無垢などという連想はわかなかった。淫らがましさだけが強調されているように思えた。
「ごめんね、ごめんね」私の驚きようを知った妻は、かすれた声で詫びた。「あの男の人たちに三人がかりで……」
必死に抵抗すれば、いくら三人が相手とはいえ剃られるのは避けられたのではないのか。なぜたやすくこういう悪戯を受け入れたのか。駅前からFが逃げるように去っていったのは、やりすぎたという後ろめたさがあったからなのではないのか。
(ふざけやがって!)
昨夏のあの夜、Fに口腔性交をほどこす妻の姿を見たときにすら感じたことのなかった憤りが私を貫いた。その激しい感情がどこから湧いてきたのかわからぬまま、妻を玄関に残しリビングに入った。受話器を掴んでプッシュダイヤルを乱暴に押した。
Fはすぐに出た。私は、妻の体になされた悪戯に対して激しい言葉で抗議した。いや、詰ったと言うほうが正しいだろう。Fは黙ったまま、私がひととおり言い終えるのを待っていた。
「ご主人、当たる相手が違うんやないですか」Fの口調は穏やかだった。「あんたがぐずぐずしてるから見逃したんやで。七時前後の約束やったやろ?」
「立ち会えなかったこととは関係ない。妻の毛を剃っていいとは――」
「奥さんの体はあんたの所有物なんですか」Fは固い声で私の抗議をさえぎった。「奥さんは自分の債務を自分の体で返そうとしてはるんや。あんたにとやかく言う権利はないんちゃうか? ゴネるんやったら、始めにゴネてもらわんと。今さら、子どもみたいなこと言うたらあきまへんで。それに、こっちには誓約書いうもんがあるんですわ」
(誓約書? 知らんで、そんなもん)
言葉を呑んだ私に、Fはやわらかい口調を取り戻した。
「途中で気が変わらんように、奥さんから一筆入れてもろてます。とにかく、あんたに横槍入れられるような事柄とちゃうんやで。あんたをオブザーバーにしたのは、こっちの温情いうもんや。そのへん、きっちりわかってくれなあきまへんで。お互い、大人やったらな」
電話が切れた。振り上げた拳をどこに下ろしてよいのかわらぬまま受話器を戻した。
妻がソファの端に尻を乗せて、落ち着かなげに私を見ていた。
(おれは何をやってるんだ?)
怒りが自責の念に変わった。妻が好きこのんで娼婦のようなことをやっていると思ったのか? 私は妻の隣に腰を下ろした。触れあった太腿に妻の体温を感じた。
そのとき、私を襲った怒りの正体がわかった。蚊帳の外に置かれたことが面白くなかったのだ。つまり、ひがみだ。加えて、妻が遠くへ行ってしまうのではないかという不安。それらが一気に噴き出し、私は自制心を失ったのだ。妻の体温を感じたときの何ともいえない安堵感が、その証拠だ。現に、あれほど激しかった怒りがきれいに消え去っている。
「すまん、大きな声を出してしもて。毛まで剃られるとは思うてもみんかったから、ついかっとなったんや」
「ほんまにええの。こんなんにまでされてる私で?」
「もういっぺん、見せてくれへんか」
妻の返事を待たず、リビングのヒーターのスイッチを入れた。
「いいけど……。その前にシャワー浴びていい?」
「風呂を貸してもらわんかったんか?」
「汚れたままのほうがあなたが喜ぶから、なんて勝手なことを言うてたわ、あの人たち」
(なんちゅうやつらや!)
私は、初老の三人組の変態ぶりに驚いた。たしかに、妻が受けた陵辱の痕跡を見いだすことに、私はひどく興奮を覚えるようになっていた。そこまで読むことのできる三人組の洞察力が空恐ろしかった。
「おまえがされたことを見て、おまえのつらさを分かち合いたいんや」
半分真実、半分口実だった。あの三人組が、こちらを見て笑いながらうなずいているような気がした。
部屋が暖まるのを待ち、妻が全裸になった。
ソファに深く掛けさせ、両脚を広げるように言った。
陰毛は一本残らず剃り落とされていた。秘唇の外側も、会陰のあたりもすべて。女の構造を、これほどはっきりと見たことはなかった。内側の陰唇は充血したままなのだろうか、はみだし気味だ。肉孔は完全に閉じきってはおらず、親指がくぐらせられそうな隙間を見せている。無理もない、ドイツ製の巨大な張り型をさんざん抽挿されたのだろうから。
「あんまり見んといて。……恥ずかしい」
私はネクタイをゆるめた。「あいつら、どんなことしたんや」
「最初は自分でさせられたわ」
「何をや」訊くまでもないことだったが、羞恥に顔を染める妻を見ると訊かずにはおれなかった。
「自分でいじらされたの」
「だから、何をや」
「あそこ。今、あなたが見てるとこ」
「なるほど、オナニーさせられたんやな。感じたんか?」
「濡れるまでし続けるように言われて……」
濡れるまでじゃなく、いくまでだろう。新婚時代、酔った勢いで自慰を見せてくれと頼んだことがあったが、妻に激しく拒否されて諦めたことを思い出した。そんな妻が、初対面の男たちや、同性であるTの前でさしたる抵抗もしないまま秘部をまさぐって見せたというのか。
「で、オナニーショーでいった後は?」
私の露骨な言葉に、妻は唇を噛んだ。「お風呂場に連れていかれて……」
「風呂にでも入ったんか」
「いじわる。わかってるくせに」
「剃られたんやな」深追いすべき段階ではない。私のゲームは始まったばかりだ。「誰が剃ったんや」
「Tさんが準備して、あの三人が代わる代わる」
「よくおとなしゅう剃らせたもんやな」
「やめてくださいって言おうにも……口を塞がれてて」
「さるぐつわか?」
かぶりを振る妻の頬が赤みを増した。
「何や、何を口に入れてたんや。おれにはわからへん」
「教授の……教授のあれを」
「尺八しながら剃られたんか。三人から剃られたんやったら、尺八したんは教授のもんばかりとちゃうやろ」
「社長のも、顧問のも」
元日の管長といい、Fの一味は肩書きで呼び合っているらしい。功成り名遂げた男たちのプライドをくすぐりながらも、匿名性を保持するためのうまいやり口だ。
「誰のがよかった」直截で淫らな質問には似つかわしくない、生真面目な表情を私はつくった。「それぞれの特徴を言うてごらん」
妻は目を閉じ、口の中で暴れ回った剛棒の一つひとつを思い返しているようだった。ときおり眉間に刻まれる縦皺は、屈辱の記憶か、甘美な追憶か。
視線をゆっくりと下ろしながら、私は妻の体を観察した。
乳房の頂がはっきりとわかるように尖っていた。挟まれ、こね回されるのを渇望しているかのようだ。若い頃のような張りがないぶん、肌理がこまかくなったような気がする。
わずかに脂肪がつきはじめた下腹部が浅く上下しはじめた。欲情の気配を隠すためか、妻は両腕を臍の前で交差した。
だが、花芯は正直だった。
秘唇は充血の度合いを増し、完全に開花していた。その合わせ目にある肉芽は莢から半分ほど顔を覗かせている。肉孔は間断なく収縮し、内部から白み帯びた粘液を垂れ流している。
それに気づかないふりをして、私は言葉を続けた。「黙っとったらわからんやないか。まず、教授のはどうやった?」
「柔らかかったけど、えらい長かったわ」
「どのくらいや」
「喉の半分くらいまで入ってきて……、最初は吐きそうやったけど、なんとか根本まで呑み込めたわ」
「舌は使うたんか」
「うん。必死に動かしてるうちに大きなって、息が止まりそうやった」
「次は誰や」
「社長いう、坊主頭の人」
齢の割りには脂ぎった五分刈りの男だ。好色さが、表情からも話しぶりからもにじみ出ていた。押し出しの強さだけでのし上がってきたような、典型的なおっさん。私の苦手なタイプだ。
「えげつないやつやったやろ」
「ううん。社長がいちばん優しかった。喉の奥まで入れたりせんかったし、舐めさせながらおっぱいを揉んでくれはったわ」
(教授より、よけいスケベやないかい!)
妻の言う“優しさ”の基準がよくわからない。
「それで、どんなんやったんや」
「段になってるところがえらい大きくて、歯が当たらへんか心配やった」
(嬲りものにされながら、変な気を遣うんやない)
「顧問は?」
「なんもしゃべらん人やったけど、あれは強烈やったわ」
私は固唾を飲んで、次の言葉を待った。
「社長のを咥えてるとき握らされたけど、指が回らないほど太うて」
「尺八はしたんか?」
「顎がはずれるかと思うたけど、なんとか」
「それで?」
「気がついたときには、すっかり終わってた。それから寝室に連れてかれて……」
すでに妻の秘部は濡れ光り、次々と湧きだしてくる分泌液と精液の残滓がソファを汚していた。私も激しく勃起し、先走りの粘液で下着を濡らしている。
その場で衣服を脱ぎ捨てると、私は妻の脚を大きく割り広げて男根を押し込んだ。
さしたる抵抗感もなく、男根は妻の肉洞に収まった。内部は滾っていた。三本の陰茎と巨大な張り型に蹂躙されたにもかかわらず、妻の膣は私を握りしめるように圧迫してきた。無数の襞がざわめき、蠕動運動を繰り返す。
(なんや、これは!)
妻との交接で初めて経験する感触だった。
不自由な体勢のまま、妻が尻を迫り上げる。
急速に射精が近づいていた。「あ、あかん。そないしたら、あかん」
「中で出していいんよ」ソファの背をずり下がり、妻はさらに腰を打ちつけた。「思いっきり、中で出して!」
根本まで妻の中に押し込んだまま、私は精を放った。
「ああ、太くなってる。えらい太くなってる」
妻はほほえみを浮かべながら、波状的に脈打つ男根の感触を味わっていた。
射精が治まっても、私の勃起は衰えなかった。十分な硬さを保ったまま、妻の滾りの中で徐々に力を回復しつつあった。初老の男たちの精液と私のものが混ざり合っていることなどまったく気にならない。いや、それどころか、男たちとともに妻を嬲っているようで、興奮すらした。
「まだいってへんやろ」妻にやさしく問いかけながら、律動をゆるやかに開始した。「いちばん感じたのはどの体位や?」
妻は間欠的な呻きを洩らした。私は動きを止めた。
「続けて……あなた、続けて」
「答えんとやめるで」
「う、後ろからのが、いちばんよかった」
つながったままで、妻の体を反転させた。結合部から泡状になった粘液が溢れ、滴った。
量感のある双臀を両手で鷲掴みにして、私は腰を打ちつけた。ソファの背に押しつけられた妻の頭が振りたくられる。
「誰が後ろからやったんや。社長か? 教授か? 顧問か?」
妻は、喉から呻きを放った。私は、腰を休めた。むずがるようにうごめきながら、尻が押しつけられる。「やめんといて! お願いやから、動かして!」
「後ろから誰にやられたんか訊いてるやろ」
「みんなに、みんなにお尻から犯されたの!」
「気持よかったんか!」腰をねじり込んだ。
くうっと喉を鳴らすと、妻は身をのけぞらせた。背中の中心を走るくぼみが際だった。
私は動きを止め、同じ質問を浴びせかけた。荒い息を吐きながら妻が言った。
「気絶するほど、気持よかったの。それぞれ違うの、気持のよさが」
「おれより良かったんやろ。正直に言うんや」妻の肉洞をえぐる。
妻は両腕で上半身の体重を支え、顎を上げた。
「あなたより、よかった。ほんまによかった。みんな上手やし、これからも犯してもらいたいくらいやわ」
「なんやて! もういっぺん言うてみい」
私の肉棒はこれ以上はないというくらい勃起していた。嫉妬、嗜虐、被虐、妻の肉体への崇拝、そして冒涜の衝動がないまぜになり、脳が揺さぶられた。
妻をソファに横たえると片脚を抱え、膣をまっすぐに貫いた。無毛の秘園を割って出入りする暗褐色の男根。その眺めは卑猥以外の何物でもなかった。
「そ、そ、そんなん、ぜんぜん感じひんわ」絶頂に押し上げられつつも、妻はなおも言い募った。「い、い、いき、いきそうにないわ、そんなんで……」
妻が私のゲームを受け入れてくれたのがわかった瞬間、私は二度目の射精を迎えた。
妻が同時に達するのを眼の端で捉えながら、私は床に膝をついた。
長々と書いてしまいまして、申し訳ありません。書きながら、はっきりとわかってまいりました。年明け間もないあの一夜こそ、私の、いや、私と妻にとってのターニングポイントだったのですね。好色さは人並みだとばかり思っていた私たち夫婦のポテンシャルが一気に噴き出した夜でした。いつ、どこに、どんなきっかけが潜んでいるかわからないものです。あとしばらく、夫婦の物語にお付き合いください。では、後日。みなさまが、よい夏期休暇を過ごされますよう。
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