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北原夏美 四十路 初裏無修正

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[1333] 贖罪17 投稿者:逆瀬川健一 投稿日:2002/01/25(Fri) 00:18

【#17 動揺】
 六通目のメールには、添付ファイルを示すクリップマークがついていた。
 メールを開いたが、たった一行、「調教記録その2-f」と記されていただけだ。
 添付ファイルは二点。拡張子は、.jpg。
 クリックした。
 妻の顔のクローズアップだった。
 顎を突き上げ、眉間に縦皺を刻んでいる。真上からの強い光を正面から浴びているため陰影がないが、それだけに表情のありのままが写し取られている。
 苦悶――最初の印象はそうだった。だが、じっくり眺めているうちに、歓喜の表情に見えてきた。
 なぜだろう? 私はさらに観察した。そうだ、妻は歯を食いしばってはいないのだ。上下の犬歯を唾液の糸が結んでいる。
 もし、針を刺されるほどの激痛を与えられれば、奥歯を噛みしめて耐えるはずだ。Sの言うように、苦痛と快感は表裏を成すものなのだとしても、苦痛イコール快感ではないはずだ。苦痛のあとに、快感がやってくるものなのではないのか。
 二点目の添付ファイルをクリックした。
 私は思わず声を上げていた。
 この写真もクローズアップ。それも、妻の秘苑の。
 かなり大きな角度で開脚させられている。無毛の恥部のすべてが露わになっている。
 大陰唇は洗濯ばさみで左右に大きく広げられているうえ、左右の小陰唇に針が二本ずつ貫通していたのだ。さらに、包皮からむき出されたクリトリスをも太めの針が貫いていた。
 わずかだが出血がみとめられた。だが、膣口からあふれるおびただしい量の愛液が秘苑全体を潤ませているせいで、血液は滲むことなく細い糸のように粘膜に張りついているだけだ。
 本当に妻の性器になされた責めなのだろうか。
 にわかには信じることができず、私はその考えにすがろうとした。
 だが、解像度の高い映像はそんな私の願望を打ち砕く。
 左大陰唇の脇のほくろが、被写体が妻であることを示していたのだ。

 それから明け方までパソコンに向かい、何度もメーラーを立ち上げダイアルアップしたが、Sからのメールは来なかった。
 私の眼は冴えに冴えていた。考えねばならないことは山ほどあった。
 メールをあそこで打ち止めにしたSの意図。
 ああまでされて歓喜の表情を浮かべる妻の心理的な変化。
 妻の肉体的ダメージに対する危惧。
 そして、私がこれまでの人生で経験したことのないほどの動揺。
 これらについて、ひとつひとつ考えてゆかねばならない。もちろん、そばに妻がいない現状では、考えても詮無い事柄もある。
 私はパソコンの電源を切り、デスクに頬杖をついた。
 不思議に、妻の体が傷つけられたことへの怒りはなかった。乳房への針責めで、消毒などに気を配っていたSのことだから、取り返しのつかない無茶をすることはないという安心感があったからだ。
 それよりも、私の動揺は、妻の心理面に対する不安から来ていた。
 Sが求める快楽は、常識とか好色とかいう日常的な感覚から突き抜けてしまっている。それに引きずられ、究極の悦楽に開眼してしまったであろう妻は、元の暮らしを送ることができるのか、という不安。Sに与えられたような苦痛と快感を、私は妻に与えることができるのだろうかという恐怖。
 いや、それよりも妻はもう私のもとに帰ってこないのではないだろうかという喪失感に、私の心は揺れた。

 昼前。インターフォンのチャイムが鳴った。受話器に飛びついて耳に押し当てた。
『ただいま』
 妻の声だった。
 私は短い廊下を走り、玄関のロックを外した。
 どんよりと曇った空をバックに、明るい色のワンピースが私の眼を射た。
「かんにんしてね。勝手ばかりして」
 妻はいつもの笑顔を私に向けた。だが、その笑みはすぐに薄れ、顔がゆがんだ。唇を固く結び、閉じた眼から涙が溢れ出す。
 私は、おののきはじめた妻の肩を抱き、リビングに連れていった。
 ごめんなさい、と何度も詫びながら妻は泣いた。
「どないしたんや。謝らんかてええやんか。おれも納得済みのことやないか。Sさんには優しくしてもろたんやろ? おまえからのメール、読ませてもろたで」
「そんなんじゃないの。あなたに断らんと、からだに……からだに……」
「おまえが納得したことやったら、それでええやんか。うん? からだに何したんやて」
 妻は涙を拭くこともせず、立ち上がった。
 ワンピースを乱暴に脱いだ。下着はいっさい着けていなかった。
 全身に笞痕が走っていた。一打、一打が慎重にコントロールされていたのだろう。すべてのミミズ腫れが同じ色だった。皮膚が破れたり、皮下出血を起こしたりしている箇所はない。
「二、三日もすれば消えるやろ。だいじょうぶや」
 妻はかすかに首を振り、脚をゆっくりと開いた。
 小さな金属音がした。
 股間の亀裂に光るものがあった。
 金色の環がクリトリスを穿っている。
 そして、小陰唇からは繊細なチェーンが垂れていた。
(ボディピアスまでされたんか……!)
 私の表情に気づいた妻は、両手で顔を覆った。「ごめんなさい! みんな私が悪いの。決してSさんに無理強いされたわけと違うんよ」

 私は、妻をソファに深々と座らせ、両の太腿を掴んで左右に押し開いた。
 秘裂の頂点の肉芽には金色のリングが取り付けられていた。リングのせいで、包皮は上部にたくし上げられたままの状態になっていた。クリトリスは真っ赤に充血し腫れている。
 そして、小陰唇。左右対称二か所ずつ、計四か所に肉芽を貫くものよりも小ぶりのリングが顔を覗かせ、それぞれにチェーンが取り付けられている。金色の鎖は左右のリングから互い違いに渡され、ちょうど膣口の前でエックスを描いていた。小陰唇もまた腫れ気味で、貝の舌のように肉溝からはみ出している。
「腫れてるやないか。だいじょうぶか? 痛くはないんか?」
「これ……ピアスのせいだけやないの」
 つい今しがたまで涙をためていた眼が細められた。まるで、遠くの風景に焦点を合わせるときのように。
「ピアスをつけられてから、二人の男に朝まで愛されたせい」
 私は絶句した。
“愛された”と言ってのける妻に。そして、針で責められたばかりの妻が入れ墨者たちに蹂躙される光景を思い描いて。

 秘苑全体のむくみというか、腫れは、荒淫によるものだったのか。
 無理もない。仁王のペニスは勃起時には二十センチにもなろうかという逸物だ。龍のそれは、妻の指が回りきらないほどの極太だ。女を責めるプロとはいえ、昨夜から妻にフェラチオをさせ、接しても洩らさなかったため、溜まりに溜まっていただろう。射精を前提にした輪姦の壮絶さは想像を絶するものだったに違いない。
 妻の小さな溜息に、私はわれにかえった。
 秘裂のあわいから液体がにじみ出していた。
 ピアスに気をつけて襞をかき分けた。その瞬間、どろりと半透明に濁った粘液がこぼれ落ちた。精液特有の青臭い匂いが私の鼻腔を直撃した。
 見上げると、妻と眼が合った。
 妻がうなずいた。「二人分のエキス。Sさんが『溜めて帰るように』って」
「で、どうしろって?」
「わかってるくせに」妻は私を見つめたまま言った。「あなたはきっと舐めるだろう、とSさんが……」
「ヤクザが出したものをか」
「やっぱり見てたんやね、私が犯されるところを」
「最後までは見てへん。Sさんにならおまかせしても安心やと思たから。しかし、おまえがいややったら正直に言うんやで。いつでも中止できるんやからな」
「いややない。あなたがいつもついていてくれると思うと何でもできそう」

 昨夜来、私に取りついていた心の揺れがぴたりと治まった。
 妻は、私の存在があるから正気を失わずにいられるのだ。つまり、私の公認が、妻の心理的な命綱というわけだ。命綱の強靱さを信じているから日常から大きく外れることができる。狂気にも近いSの性の迷宮に分け入ることができるのだ。
(しっかりせな、あかんがな)
 私は自身を一喝した。妻が帰ってこないのではと、一瞬でも疑ったことを恥じた。私の心の強さがすべての鍵なのだ。
 妻の秘苑に顔を寄せ、こんこんと溢れ出す精液の残滓に舌を伸ばした。
 妻の胎内で温められた粘液を掬い、飲み下す。
「うれしいっ、うれしいっ」
 うわごとのように繰り返し、妻は私の髪を指で梳いた。
 ヤクザたちの精液をすっかり舐め取るまで、妻は二度達した。激しいオルガスムスではなく、安堵感に満ちた静かな絶頂だった。

 ソファの上で、私たちは抱き合ってまどろんだ。
 雨足が強くなったような音に、私は目覚めた。
 シャワーの水音だった。
 やがて、髪にタオルを巻いただけの妻がリビングに戻ってきた。
「なに、それ?」
 妻の手のチューブと脱脂綿に視線を投げた。
「化膿止め。一週間は気を抜いたらあかんのやて」
「セックスはお預けかいな」
「あ、そうや」
 妻はチューブと脱脂綿をダイニングテーブルに置き、キッチンカウンターのハンドバッグを手にした。中からビデオカセットを取り出す。
「Sさんから、あなたに。約束の物やて』
 私はソファから飛び起きた。
 昨夜の一部始終が記録されているテープだ。
 私はテレビラックに歩み寄り、ビデオデッキにカセットを挿入した。
 テレビの電源を入れ、ソファにとって返した。
 そんな私の性急な動きを、妻は驚いたように見つめるだけだった。

この文章を書いていると、いろんなことを思い出します。動揺というより、混乱と言ったほうが正しいのではと思えてきます。それもこれもSの巧妙な演出にまんまと乗せられてしまったからでしょう。まだまだ、Sに翻弄され続ける愚かな私なのですが……。では、また後日。

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