[1432] 贖罪19 投稿者:逆瀬川健一 投稿日:2002/04/11(Thu) 21:02
【#18 隷従-1】
週明けから、妻はSの私設秘書として大阪本部に通いはじめた。出勤は朝十時、退勤時間は特に定まっていない。
Sが差し向けるバンが行き帰りの足だ。電車やバス、地下鉄のような公共の乗物を使わずに勤め先に赴くのは、妻にとって初めての経験のようだった。
初日から妻のレンタルが始まるものとばかり思っていたが、最初の一週間はSの雑用をことづかっただけだった。もちろん、この期におよんで妻が隠し立てをするとは思えない。
そんな私の落胆を見透かしたかのように、Sからのメールが届いた。
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前略 明後日より某国の日系人実業家に招かれて講演を行う予定。細君には勿論同行して戴く。予定は一週間。不自由をお掛けするが、御容赦の程を。
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(某国やて?)
ディスプレイの前で、私は吹き出した。もったいぶった表現で煽る、Sの茶目っ気がおかしかった。煽られてやろうじゃないか、望むところだ。
私は妄想の翼を広げた。
世界のどこかに心の準備もしないままに連れて行かれた妻は、やはりホテルに軟禁状態にされ、日系人実業家とやらの性欲処理をさせられるのだろう。人種が同じとはいえ食べ物も言葉も考え方も異なる、そんな連中の嬲りものにされる妻の不安は、やがて新鮮な悦楽に取って代わるにちがいない。
Sに連れられて外国に行くのは、これが初めてではない。中国での映像をいまだ見ることができずにいる私は、今回の妻の渡航が非常に楽しみだった。意外性が私の欲情の炎に油を注いでくれることに期待して、あえて行き先は訊ねないことにした。某国、と秘密めかしたSの意図もそこにあるのかもしれない。もちろん、このメールのことを妻に告げるつもりもなかった。私はFやSからのメールや添付ファイル専用の隠しフォルダにメールを移し替えてOSを閉じた。
二日後、無人の自宅に帰宅した。
覚悟していた私は、会社の近所で夕食をすませていた。
一人でシャワーを浴び、ビールを飲んだ。読もうと思って積んでいた本を広げた。心が騒いで活字を追うことができないのではないかという不安は杞憂だった。午前一時前まで読書に集中することができたことに、私自身、驚いた。いったん腹を決めると、これほどまでに平静になれるのだろうか。
いや、そうではない。一週間、どうあがいても妻の顔が見られないことを知っているからだ。もし妻が、近畿圏で見知らぬ男たちに陵辱されているのなら、心は揺れ動いていただろう。どんな責めを受け、どれほど淫らな言葉を吐き、どれくらい激しい悦楽に身を焦がしているのか……。帰宅した妻に一部始終を聴くのが待ちきれずに悶々と時間を空費している自身の姿が見える。
「大人になったもんやで、健一くん」
自嘲ともつかぬ言葉を洩らして、寝支度にかかった。
妻が帰ってきたのは日曜日の昼下がり。予定より一日早かった。
「ごめんね。ゆうべ関空に着いたんやけど、時差ボケがひどくて空港のホテルに一泊させてもらったの」
私は目を疑った。薄化粧が無意味なほど、妻はよく日に焼けていた。
「どないしたんや。真っ黒やないか」
「ほんまはこの歳で焼きたなかったんやけど、あんまりビーチが気持よくて、つい……ね」
小さく舌を出す妻は三十四歳とは思えぬほど初々しかった。
「ビ、ビーチって、いったいどこに」
「Sさんに聞いてないの?」
「聞いてへんよ」
「ハワイ」
「………」
「現地でタクシー会社やってはる社長のプライベートビーチ」
「そやったんか。楽しんだようやな」
聞きたいことは山ほどあった。だが、私は妻の表情ににじむ疲労を見て、それ以上の質問はやめた。焦ることはない。夜、ゆっくり聴けるのだから。
「腹へってないか」
「だいじょうぶ。朝、たっぷり食べたから。あなたこそどう? ろくなもの食べてないんとちがう。何かつくろうか?」
「適当に食ったから、いいよ。どうする? シャワーでも浴びるか?」
「ちょっと横になっていい? 日焼けが火照ってつらいのよ」
妻はベッドルームに入り、全裸にタオルケットを巻き付けて出てきた。
革のソファは体に張りつくからとタオルケットをソファに敷き、その上に赤味の残る小麦色の肌を横たえた。
その焼けっぷりを感心しながら眺めていた私は、水着の跡がないことに気がついた。
トップレスまではわかる。だが、妻の下半身に日焼けを免れた箇所はない。剃り上げられた恥丘まで褐色になっている。
私の視線に気づき、妻が身じろぎした。
クリトリスと小陰唇を貫く金色のリングがちらりと見えた。
太腿の内側までも焼けている。
プライベートビーチで妻は開脚させられ、秘部を潮風と陽光に晒させられつづけていたのだろうか。
「ぜんぶ聞きたい?」
妻がささやいた。呆気にとられていた私は、あわててうなずいた。
Sの調教は往路の機内から始まったという。
離陸し、シートベルト着用のサインが消えるとすぐに、Sは最新型のノートパソコンを取り出した。手慣れたしぐさで操作して、液晶ディスプレイに写真を映し出した。
マルチ商法で妻をがんじがらめにしたFから提供されたデジカメ映像だった。ホテルで犯されてゆく過程が鮮明に記録されている。
Sは、写真を見せながら妻にそのときの状況、精神の動揺、肉体の反応を語らせた。妻にしてみれば思い出したくもない記憶だったろう。だが、Sは執拗に妻に迫った。プライバシー重視のファーストクラスだからこそできる精神的な拷問だ。
Fが提供した写真のすべてを見終わるのに三時間はかかったそうだ。
「それだけじゃなかったの」妻は両手を後頭部にあてがって枕にした。腋窩が黒い。伸びかけた腋毛だった。「写真はもっとあった」
Sと関わりはじめてからのものも、大量にハードディスクに格納されていたのだ。Sはシートをリクライニングにし、見たければ自由に見ていいと言って眠った。
ノートパソコンを閉じるのも自由。続きを見るのも自由。三時間にわたってマゾ性のツボを刺激されつづけた妻は後者を選んだ。
Sのオフィスで嬲られる姿、中国で視察団の中年男たちに奉仕させられる姿、入れ墨を背負った男二人に蝋燭と針で責められ、あげくのはてに淫裂にボディピアスを打たれる姿。
「フライトはあっという間だったわ」
妻は両腿を閉じ、小刻みにこすり合わせていた。それだけで陰唇のリングが刺激を呼び、剥き出しになったクリトリスに淫らな快感が湧くのだろう。
「気持ち悪いくらい濡れちゃって、たいへん。着陸してから機内のトイレで拭いたけど、あとからあとから溢れてきて、トイレからよう出られんかったわ」
迎えのクルマでオアフ島の繁華街を抜け、滞在予定地のコテージに向かった。講演会の主催者が所有するゲストハウスだった。スペイン風のバルコニーをもつ瀟洒なたたずまいは、コテージと呼ぶにはあまりにも豪奢だった。五人のメイドに出迎えられた妻はどぎまぎしてしまったそうだ。
ゆっくり夕食を食べて旅の疲れを癒しておくがいいと言って、Sはすぐに歓迎レセプションに出かけた。
「一回くらいはしてもらえるかと思うたのに」
Sのつれなさを思い出して、妻は唇をとがらせた。
「飛行機からずっと高ぶってたんよ、私」
「忙しい人やから、無理もないんとちゃう」
私は他人事のように言った。本当は、Sの意図が痛いほどわかっていた。飢えと渇きを妻に与えたのだ。その夜の、いや、滞在期間中、常に繰り広げられるであろう狂宴のために。
「それで、Sさんが帰ってきたのは何時頃?」
「十一時頃かな」
メイドはいずれも通いで、夜の九時には帰ってしまうらしい。入れ替わりに、警備員が敷地に配置されたという。
リムジンが一台、コテージの車回しに停まった。
運転手がドアを開けると、Sと二人の日系人、一人の白人が現れた。
四人は談笑しながらコテージに向かってきた。
ふいに私設秘書としての身分を思い出した妻は、出迎えなければと焦った。だが着る服がない。日本から着てきたドレスは、クリーニングのためにメイドが持ち帰っていた。残るはバスローブくらいしかない。
「それで、どないしたんや?」私はダイニングチェアを引き寄せて腰を下ろした。「いくらなんでもバスローブいうのは失礼やろ」
「Sさんの考えてることが、そのときわかったの」妻の目がきらりと光った。「服を残しておかなかった意味がね」
ドアを開けたときのSの満足げな顔、あとの三人の驚きの表情は今でもはっきりと思い出すことができると妻は言う。
それはそうだろう。歓迎レセプションの二次会をやるものとばかり思っていた三人を出迎えたのが全裸の女とあっては、誰だってびっくりする。
おまけに、その女が玄関ホールに正座して三つ指をついているのだから。
ふた呼吸ほどの間をおいて、Sが沈黙を破った。
「ミスター・コバヤシ、お話ししていた日本土産とはこのことです」
「S先生にこんなご趣味があるとは意外でした」四十半ばのコバヤシは海千山千の経営者らしく、動揺を隠して好色な笑みを浮かべた。「お土産というからには頂戴できるのでしょうか」
「それは、あなたがたしだいです。ミスター・ミウラ、ミスター・ルイス、お気に召しましたかな」
三十代のミウラはうなずいただけだった。ルイスは肩をすくめてコバヤシに視線を投げた。
「あなたがたが気に入らなければ、この女はハワイに捨てていきます。もし、非常に気に入っていただければ、日本に連れ帰ります」
「話が逆ではありませんか?」コバヤシが首をかしげた。
「合衆国五十番目の州で、日本人の魂を持ち続けておられるあなたのお眼鏡にかなうということは、まさに日本の至宝。こんな島に置いて帰るわけにはいきません」
「見せびらかして、おしまいとは……」コバヤシは憤慨した。「あなたはひどい人だ」
「見るだけ、と言いましたか?」Sはコバヤシの肩を抱いた。「滞在期間中、
存分に使っていただいて結構。その上でご判断ください」
「お人がわるい」
コバヤシが野太い声で笑った。あとの二人もつられて笑った。
「そういうことなら遠慮なく楽しませていただきましょう。ミウラ、アレックス、このご婦人をリビングにお連れして」
「お待ちなさい」
興奮を隠しきれないコバヤシをSが押しとどめた。
「この国ではレディファーストが常識かもしれませんが、この女はあなたがたの奴隷なのです。気遣いは無用」
おい、とSは妻に声をかけた。
「『ご主人様たちの手を煩わせるんじゃない』って。はじめて見たわ、Sさんの怖い顔」
「で、それから?」身を乗り出そうとした私は、ペニスが勃起しきっていることに初めて気づいた。「それからどうしたんや」
「這ったわ。掌と膝でリビングルームまで」
「Sさんたちは?」
「後ろからついてきた。私のお尻を品定めしながら」
今回のエピソードは、一回では終わりそうにありません。妻への調教の本当の第一歩だと思えますので、できるだけ細かく書かせていただくつもりです。Sさんや妻から訊き出したことをつなぎ合わせていると、やはり矛盾点が出てきます。書いては妻に読ませ、疑問点を質しながら書き進めております。中途半端なところで終わりますが、なにとぞご容赦ください。では、また後日。
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